2011年から2013年のNPBにおける統一球問題
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2011年から2013年のNPBにおける統一球問題(2011ねんから2013ねんのNPBにおけるとういつきゅうもんだい)は、日本プロ野球の試合で使用するボールを統一し、ボールの違いによる各チームの打撃成績の差異を無くす事などを目的として[1]2011年から導入された、いわゆる「統一球[注 1]」の反発係数が基準値を大幅に下回っていたことや、2013年シーズンから正常な反発力のボールに仕様変更していた事実を、統一球を提供するミズノ社と日本野球機構(NPB)が隠蔽しようとしていたことが発覚した問題である。
統一球導入[編集]
2011年までの統一球導入以前のNPBでは、各球団毎によって使用するボールに差異が生じており[1][注 2]、当然メーカーが違えば反発係数などの性能も異なってくるため、球団によって打球速度や飛距離、ホームランの出やすさが変化してしまうことが問題視されていた[注 3]。
そこで2010年、NPBはセ・パ全球団でミズノ社製の反発係数の低い統一球を使用することを発表。翌年の2011年シーズンより導入された。
導入後[編集]
2010年 | 2011年 | 2012年 | |
---|---|---|---|
パ・リーグ | 66 | 108 | 78 |
セ・リーグ | 61 | 88 | 107 |
2010年 | 2011年 | 2012年 | |
---|---|---|---|
パ・リーグ | 742 | 454 | 427 |
セ・リーグ | 863 | 485 | 454 |
こうして2011年シーズンから導入された統一球だが、結果として極端な「投高打低」現象を2シーズンに渡って引き起こしてしまう事態に発展してしまった。完封勝利数は前年に比べて不自然に増加し、本塁打数も2010年シーズンと比べて大幅に下落傾向にあることが見て取れる(右記表参照)。
この統一球による「打球が飛ばない」現象の影響は予想以上に大きく、小笠原道大、城島健司、和田一浩、小久保裕紀ら球界を代表するスラッガーが軒並み不振に陥り、小笠原は不振から抜け出しきれずに当時所属していた巨人から戦力外通告を受け退団、城島と小久保は引退を余儀なくされている[1]。
また2012年3月26日に開催されたMLBプレシーズンゲームで、MLB公式球(ローリングス社製)を打った選手達は「”明らかにメジャー球の方が飛ぶ”」と証言し[2]、さらにはある関係者がNPBのボールとMLBのボールを同じ高さから落下させ跳ね返りを検証したところ、明らかにMLBのボールが高く跳ねる(=NPBの統一球の反発係数が低い)事が確認されるなど、徐々に統一球への疑いの声が大きくなっていった。
2012年4月24日、日本プロ野球選手会はNPBや12球団へ統一球についての見直し・検証を申し入れた[3]。当時選手会長であった新井貴浩は「野手だけでなく、投手からも(統一球は)どうなのかという意見を聞いている。少し検証してくださいという話をした」と語っており[3]、NPBの統一球に対する対応の改善が期待されていたが、NPB側は統一球見直しに否定的な回答をし[4]、”表面上では”翌年以降も引き続き従来の統一球が使用される事となった。
そうして2013年シーズンが開幕すると、巨人が開幕5試合で77安打を放ちプロ野球記録を樹立したり、3月29日の巨人-阪神戦で開幕投手を務めた能見篤史が10失点を喫するなど、明らかに11,12年シーズンとは様相が一変した試合が繰り広げられた[5]ため、2013年6月11日、日本プロ野球選手会とNPBの間で再び事務折衝が行われると、NPB側は「2011~12年に使用していた統一球の反発係数が基準値を下回っていたこと」「2013年シーズンからは統一球の仕様を変更していたこと」「また、この事実を選手会に虚偽通告していたこと」を認めた。
会見によると、ボール自体の反発係数は2011年の抜き打ち検査ではほぼ基準内に収まっていたが、2012年の検査では複数の球場から集められたボールの反発係数の平均値が、NPBの基準である平均反発係数の0.4134 - 0.4374を大幅に下回る0.408を記録することもあったという[6]。しかし、実際には2011年の検査4回、2012年の検査3回の全てで平均値が規定を下回っており、2010年以前にも規定を下回るボールが使用されていた事が判明した[7]。また、飛距離の低下は仕様上1メートル程度であったが、専門機関の調査では3メートル短くなるという実験結果も出た[6]。それに伴い、2013年度より下限値を下回らないよう2012年の夏にミズノ社に要請した事も明らかになった。元々、選手の間では2013年になってボールが飛びやすくなったのではないかと噂されており、アンケートでは73パーセントの選手が「今年(2013年)のボールは飛ぶ」と回答していた[8]。1試合あたりの平均本塁打も2011年、2012年よりも増加していた[9][10]。実際に2012年のボールと2013年のボールを割って調べてみたところ、球の中心にあるコルク材の感触が2013年になって硬くなっているという調査結果もあった[11]。
これに対し加藤良三コミッショナーは、混乱を招いたことについて謝罪する一方で、加藤の了承の上で変更が行われたという下田事務局長の主張について「昨日まで全く知りませんでした」と否定し、責任を追及する記者に対しては「不祥事を起こしたとは思っていません」と答えた[12][13]。しかし、実際には統一球検査の報告を随時受けていたことが取材で発覚しており[14]、これにより加藤コミッショナーが辞任に追い込まれる事態にまで発展した。
関連項目[編集]
- 中村剛也 - 千葉選手との熾烈なタイトル争いを制し、48本塁打で見事最多本塁打のタイトルを獲得。超投高打低の2011年シーズンでは異例の本数であった。
- 加藤良三 - 元NPBコミッショナー。
- NPB - 日本プロ野球機構。今回の騒動の発端。
- ミズノ - スポーツ用品メーカー。
脚注[編集]
- 脚注
- ↑ a b c “違反球 - 新・なんJ用語集wiki*”. 2022年4月23日確認。
- ↑ “MLBとの親善試合で気づいた、統一球がメジャー球より飛ばない訳。(2/3) - NumberWeb”. 2022年4月24日確認。
- ↑ a b “プロ野球選手会、統一球見直しを申し入れ - 日本経済新聞”. 2022年4月24日確認。
- ↑ “統一球変更隠蔽問題[単語] - ニコニコ大百科”. 2022年4月24日確認。
- ↑ “ホームランが倍増、新統一球は「飛ぶボール」?(THE PAGE ) - Yahoo!ニュース”. 2022年4月24日確認。
- ↑ a b “NPB白状…統一球こっそり変えてた”. nikkansports.com. (2013年6月12日) 2013年6月12日閲覧。
- ↑ “反発係数検査の結果発表 NPB”. 毎日.jp (毎日新聞社). (2013年6月14日). オリジナルの2013年6月15日時点によるアーカイブ。 2013年6月14日閲覧。
- ↑ 『週刊ベースボール』2013年6月10日号、ベースボール・マガジン社、 23頁、 雑誌20442-6/10。
- ↑ “NPB:飛びやすい統一球にこっそり変更”. 毎日.jp. (2013年6月11日). オリジナルの2013年6月14日時点によるアーカイブ。 2017年7月21日閲覧。
- ↑ “統一球問題:NPB事務局、対応に追われる”. 毎日jp (毎日新聞社). (2013年6月12日). オリジナルの2013年6月15日時点によるアーカイブ。 2013年6月12日閲覧。
- ↑ “阿部「明らかに飛んでいる」ボール変更発覚も選手に驚きなし”. スポーツ報知. (2013年6月12日). オリジナルの2013年6月12日時点によるアーカイブ。 2013年6月12日閲覧。
- ↑ “加藤コミッショナー「知らなかった」”. nikkansports.com. (2013年6月13日) 2017年7月21日閲覧。
- ↑ “「不祥事ではない」/一問一答”. nikkansports.com. (2013年6月13日) 2017年7月21日閲覧。
- ↑ “統一球検査、随時報告受けていた 加藤コミッショナー”. 朝日新聞デジタル. (2013年6月14日). オリジナルの2013年6月15日時点によるアーカイブ。 2017年7月21日閲覧。
- 注釈