自閉スペクトラム症

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自閉スペクトラム症(じへいスペクトラムしょう)Autism Spectrum Disorderは、DSM-5の「神経発達症群」に分類される診断名である。自閉症スペクトラム障害も同じ意味を示す[1]
スペクトラムとつくように、重度の知的障害から従来のアスペルガー症候群などを包括した考え方でもある。
「自閉」の漢字表記の由来としては、「自分自身にしか通じない言葉を発する」(すなわち、「コミュニケーションのためのツール」としての言語の役割を果たしていない)ことに由来する。べつに「殻に閉じこもっている」わけではない。インターネットの普及によって、自閉当事者のコミュニティが生まれたときに、お互いに普通に話がさくさくと通じるということがあって、「なぁ、うちらは『自閉』だろ? で、お互いに自分以外に自閉って知らないはずじゃないか。なのに、なんでこんなふうにコミュニケーションができるんだ?」という話が持ち上がった。そんなわけで「ASDの症状を象徴するものとしては自閉は不適切であろう」ということになり、現在では「A」(オーティスティック、あるいはアスペルガー)が一般化しつつある。[2]ため、現在では「各ピースが色違いのジグソーパズル柄」が世界的にはシンボルとされているが、性的マイノリティにおけるレインボー柄ほどは認知されてはいない。
なお、また、ASDはあくまでも医学的な診断名であり、「当事者も苦しんでいなければ、社会にも迷惑ではない」場合は「障害」ではなく、単なる誤診である。
人格形成の過程で獲得された、いわゆる「性格」とは異なる。「ASDは個性」という主張もあるが、「自閉は特性」という認識が正しく、「ASD」は医学的な診断名でしかない。自閉も参照のこと。

DSM-5以前の診断名等からの変遷[編集]

ASDは、DSM-5以前はカナー型(古典的)自閉症・アスペルガー症候群・高機能自閉症・PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害)などさまざまな診断名で診断されてきた。(なお、これらをひっくるめた広汎性発達障害と、ASDはほぼ等しいが、同じではない。)

症状[編集]

DSM-5では「社会的コミュニケーションの障害」と「限定された興味」が基準となっているが、それだけでは説明できない。

ASDの症状は人によって多様であるが、いちおう診断基準はある。

  • 発話の遅れ。幼児語を話さず、三歳を過ぎても話さないことも多い。
  • 発話をしても、いきなり大人のような話し方をする。
  • 方言を使わない傾向があると云われる。
  • 感覚過敏/鈍麻があるとされる。とはいえ「他者」概念の獲得の遅れが自閉の中心症状だと謂われるので、「助けを呼ぶ」ということに思い至らないだけの話ではある。
    • 「一般的に光、音、臭い、肌触りなどに対して過敏」という説があるが、単に属人的な問題解決法を取らないため、現象に対して属事的なアプローチをとらないだけである。
    • 「疲れに対して鈍感」といわれるが、「『疲れた』と言ったら、誰かが代りにやってくれるのかよ。『弱音を吐くな!』『しゃんとしろ!』『気合が足りん!』」と責められるだけだというのを「いじめ被害によって思い知らされているので、黙って与えられたミッションをこなす以外に選択肢がないと達観しているだけの話である。
  • コミュニケーションの問題
    • 「暗黙の了解」や比喩などを理解しても、後々ろくでもない目に遭うと達観している。
      • 有名なものとして「まっすぐ家に帰れ」(=寄り道しないで家に帰れ)がある。「ゴジラじゃねぇんだから、まっすぐ家に帰れねぇよ」と思うのだが、「途中でコンビニに寄る」などの行為を禁止されたという認識しかない。
      • 「社交辞令をそのまま受け取ってしまうこともある」とされるが、「思ってもいないことを口に出して言う」奴がいること自体が不快であり、社交辞令自体がいじめエクスキューズだと思い知っているので、「あんたが言った通りに行動したんだから、あんたの責任だろうがよ(笑)」という仕返しの一種である。
      • 「適当に」などの語句も禁句である。「適当」に行なったら、「不適当」だと判断して口を拭って知らんぷりするいじめっ子は多い。
    • 指示語の理解
      • 「これ」「あれ」「それ」、「こっち」「あっち」「そっち」などについて混乱しやすい。
    • 非言語コミュニケーション能力の不具合
      • 身振り手振りなど。
      • 2~3歳の頃に限って言えば、逆さバイバイ(手の甲を相手に向けてのバイバイ)をすることが多い。
    • 感情表現に乏しい。
      • 集団での雑談などを苦手とする人も多い。
  • 対人関係
    • コミュニケーションに障害があるため、対人関係がうまくいかないこともある[3]
    • 顔を覚えられない(相貌失認)人も多い。
  • 狭義の「こだわり」が強い。蕎麦は山葵は基本だが、饂飩には山葵ではなく生姜が薬味として欲しいし、鮪に山葵は許せるが鰹は生姜か大蒜かで議論になったりする
    • 偏食や、服にこだわりがある。
      • 感覚過敏も影響してくる。
    • 予定通りに進まないときにパニックになることもある
    • 特に、「いつもと違う」状況に対して不安
  • その他
    • ADHD併発の有無を問わず、マルチタスクが苦手な人が多い。
    • ADHDと同じように、得意なことに関して過集中が見られることもある。過集中の間は感覚鈍麻により空腹感などもないことがある。多くの場合、過集中が終わった後は疲労感に襲われる。
    • ASDの多くが発達性協調運動障害(DCD)を併発しているが、この障害に対しての認知度が低く、ASDの一症状と扱われることがある。
    • 異世界に行ってしまう。これは比喩ではなく本当にそう感じるのである。一人だけいつもの世界から隔離された世界に行くのである。『アスペルガーの館』において似たような体験が少なからず語られていた。

管理[編集]

現時点で、ASDを完治させる療法は存在しない。ASDの原因は食事だとして食事療法を行う人もいるが、医学的な根拠はない。コンサータなどの薬は、注意欠陥多動症(ADHD)の治療に用いられるが、ASDは対象外である。オキシトシンなどのホルモンを「愛情ホルモン」と称してASDの人に投与させ、感情変化が豊かになる、などの研究が行われているが、信憑性や医学倫理、効き目(ASDの中核症状の改善につながらない)の点で問題がある。

ソーシャルスキルトレーニングなどの行動療法は、一定の効果を示す。

発症原因[編集]

ASDを含む神経発達症はおおむね先天性(後天性の症例は高機能脳障害に分類される。山下清が有名)であり、「テレビを見させなければ自閉症は起きない」「風疹ワクチンが自閉症を起こす」(これがワクチン反対派の主張であるが、エビデンスはない。風疹の流行原因の一つでもあるため、悪質なデマであるといえよう)「電磁波はASDを悪化させる」「有機食品を与え、農薬を管理すればASDにならない」などはすべて嘘である。「自閉症は親のしつけの問題」という説はブルーノ・ベッテルハイム(『自閉症 ― うつろな砦』)によって「冷蔵庫マザー」説が広まり、「母親の愛情不足」が原因とされた(主に韓国で流行した)が、自閉児の母親からの反撥があり、とくに確証があったわけでもないので現在ではほとんど顧みられない。「発症原因として、てんかん薬のバルプロ酸ナトリウムなどが要因になるかもしれない」との研究があるが、これも確たるエビデンスがあるわけでもない。
当事者間においては、「あきらかに遺伝だろ(笑)」とされている。当事者団体に「子供がASDの疑いがある」ということで参加した保護者が「ひょっとしたら、あたしも自閉?」というので「こっち側」に安住するというケースもかなりある。
そうした理解が進んだ結果、「子供が『ASDの疑いあり』と判断されて支援学級に通級する」とかいってもビクともしないひともいる。「法事で集まった親戚の子供のうち、男子八人中四人が通級」だったため、「うちの一族は自閉の血が濃いな(笑)」という話もあり、また配偶者も自閉傾向があるため、ネット社会における自閉のネットワークは鞏固であるといえる。ただし、荒らしの被害には遭いやすい。

併発[編集]

ASDを持つ著名人[編集]

アスペルガー症候群などの過去の分類も、ここではASDに含める。敬称略。

  • スティーブ・ジョブス(ただし本人は公開していない)
  • スティーブ・ウォズニアック
  • 沖田×華はASD、ADHD、LDと診断されている。[4]
  • 市川拓司[5]
  • ニキ・リンコ - グニラ・ガーランド『ずっと「普通」になりたかった』の訳者。訳書も訳書が多数ある。WikiPediaにも該当項目あり。本名は非公開だが、自著において自閉当事者であることを公言している。
  • 山本純一郎 - 「にゃんまげ」として知られている。「5ちゃんねる」に叩きスレッドが立つほどなので、「著名人」かも。
  • 高森明 - 自閉当事者であり、自閉当事者の間では「こうもりさん」として知られている。複数の著書あり。
  • 島田正雄 - プログラマであり、アルゴリズム開発者。著書に『スーパーステレオグラム』(インプレス)あり。高機能自閉であり、日本自閉症スペクトラム学会の当事者会員。「自閉症の中心症状は、『他者』概念の獲得の遅れである」と主張している。
  • ウィキペディアンでは、わたらせみずほ氏が著名である。

架空の人物[編集]

関連作品[編集]

  • 『光とともに...』
  • 逢坂 みえこ『プロチチ』

脚注[編集]

  1. DSM‒5病名・用語翻訳ガイドライン (初版) https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/dsm-5_guideline.pdf 2019.07.13閲覧
  2. なお、「黒いTシャツにAの文字を緋色に染め抜いたものを着用する」というアイディアもあったが、元ネタがホーソンの『緋文字』だということが知られていなかった
  3. とはいえ、「本気で言っているのか冗談を言っているのかが分かりづらい」ために、「コミュニケーション不全」と断じられることもある。
  4. https://twitter.com/xoxookita
  5. http://web.archive.org/web/20120119000013/http://www.nhk.or.jp/heart-net/fnet/info/1111/111124.html

出典[編集]

  • 日本自閉症スペクトラム学会『新たな未来へ』(東信堂)
  • 高森明『漂流する発達障害者の若者たち ― 開かれたセイフティーネット社会を』(ぶどう社)
  • 松本敏治『自閉症は津軽弁を話さない ― 自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』(福村出版)
  • 松本敏治『自閉症は津軽弁を話さない リターンズ ― コミュニケーションを育む情報の獲得・共有のメカニズム』(福村出版)
  • グニラ・ガーランド『ずっと「普通」になりたかった』