烴炔

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烴炔アルキン中国語炔烴ラテン語Alkynum)は、分子内に碳間三重結合を1個だけ持ち、一般式が CnH2n−2 で表される鎖式不飽和碳化氫たんかすいその総称。分子内に碳-碳 三重結合(-C≡C-)を持つ鏈烴炔と環烴炔に分けられ、三重結合の数に応じて單炔モノイル二炔ヂイル等と称する。

構造[編集]

烴炔アルキンの碳-碳 三重結合に関わる2つの碳原子の電子軌道は共にsp混成によって2つのp軌道と2つのsp混成軌道を有する。碳-碳 三重結合では先ずsp軌道同士が重なることによりσ結合を形成し、更に2つのp軌道同士が重なり合って2つのπ結合が作られ、碳-碳間に 3つの結合が形成されている。残りのsp軌道は他の原子(氫や碳など)とσ結合を作る(乙炔アセチレンHC≡CH では氫原子)。炔烴上の2つのsp軌道は互いに反対向きに位置しており、乙炔エチンでは H−C−C 結合角は π радラドである。この三重結合は合計6個の電子eが関与しているため非常に強く、結合エネルギーは 837 кДж/мольキロジュール毎モル である(σ結合 369 кДж/моль、1つめのπ結合 268 кДж/моль、2つめのπ結合 202 кДж/моль)。烴炔の碳-碳間結合距離は 121 пмピコメートル であり、これは烴烯アルケンの 134 пм、烴烷アルカンの 153 пм と比べ短い。

命名法[編集]

日本語によるИЮПАК命名法では、語幹に -炔(-ynum)を付加、即ち対応する烴烷の語尾 -烷(-anum)を -炔(-ynum)にすることによって命名する:烴烷アルカン(Alkanum) → 烴炔アルキン(Alkynum)。三重結合の位置は位置番号で表し、これを最小にするよう碳に番号を与える。三重結合を2つ以上含む場合は数辞を付け、烴二炔アルカヂイン Alkadiynum, 烴三炔アルカトリイン Alkatriynum, ... とする。例えば、丁-1-炔ブチ-1-ィン But-1-ynum戊-2-炔ペンチ-2-ィン Pent-2-ynum壬-2,5-二炔ノナ-2,5-ヂイン Nona-2,5-diynumである。尚、番号は「-炔(-ynum)」の直前に挿入して良いが語幹に渡り母音は挿入しない一方、数辞の前では「a」を挿入する。又、乙炔エチンAethynum乙炔アセチレンとも発音される。

烴炔yl基[編集]

烴炔の氫原子を1個取り除いた形である1価の置換基は烴炔yl基(アルキニルき)と呼ばれる。三重結合上の氫を除いた場合は乙炔ylエチニルAethynylum (HC≡C−) など、其他の鎖上の氫原子を除いた場合は丙-2-炔-1-ylプロピ-2-ィニ-1-ィルProp-2-yn-1-ylum (HC≡CCH2−) などのように呼ぶ(番号は「炔」より優先される)。乙炔yl苯エチニルベンゼン Aethynylphenum (HC≡CPh)、丙-2-炔-1-yl庚-1,6-二炔-4-醇プロピ-2-ィニ-1-ィルヘプタ-1,6-ヂイノ-4-ォールProp-2-yn-1-ylhepta-1,6-diyn-4-ol ((HC≡CCH2)3COH) などのように用いる。

末端烴炔と内部烴炔[編集]

烴炔はsp混成軌道でσ結合を作ることにより、三重結合に関与する2つの碳原子上に1つずつ、計2つの置換基を持つことができる。このうち片方が氫原子と結合しているものを末端烴炔と呼び、2つの碳原子が共に氫原子以外の基を持つものを内部烴炔と呼ぶ。例えば丙炔プロピンPropynum HC≡CCH3丙炔醛プロピナールPropynal HC≡CCHOは末端烴炔の例であり、2つの烴炔碳がそれぞれ甲基と乙基を持っている戊-2-炔ペンチ-2-ィン丙炔-1-醇プロピノ-1-ォールCH3C≡COHは内部烴炔の例である。

酸性度[編集]

末端烴炔の氫原子は烴烷アルカン烴烯アルケンに比べて乖離し易い。乙炔の pKa は25であり、アンモニア (35) と乙醇エタノール (16) の中間程度で、乙烯エテン (44)、乙烷エタン (50) より遙かに低い。s性(混成軌道におけるs軌道の割合)が高く原子核との距離がより小さいsp軌道では負電荷が安定化され易く烴炔化物アルキニド-C≡C生成エンタルピーが低くなる為である。

烴炔化物[編集]

末端烴炔に強アルカリ、例えばナトリウム胺鈉ナトリウムアミド丁-1-yl鋰ブチ-1-イルリチウムGrignardグリニャール試薬などを作用させると、氫素すいそを発生しながら烴炔化物アルキニドを生じる。

烴炔化物は強い求核剤として有機合成上有用であり、C−C 結合生成反応に使われる。乙炔化鈉ナトリウムエチニドなどの烴炔化鈉ナトリウムアルキニドの他、烴炔化銀や烴炔化銅も知られる。乙炔化物エチニド乙炔化物アセチリドとも発音される。

実験室的製法[編集]

烴炔化物アルキニドに水を作用させる。乙烯二化鈣カルシウムエテンヂイド碳化鈣たんかカルシウム)に水をかけ乙烯を発生させる。尚、乙烯は非常な高温(3 кКキロケルビン程度)で燃焼する。

合成[編集]

隣接する2つのハロゲンを持つ烴烷誘導体の脱鹵化氫ハロゲンかすいそ化によって合成される。

烴炔化物を鹵化烴ylハロゲン化アルキルと反応させ、碳骨格を伸ばすことができる。

Fritsch-Buttenberg-Wiechell 転位によって 1,1-二芳yl-2-溴乙烯から醇化物の如き碱存在下で芳ylアリール基が転位した烴炔である1,2-二芳yl乙炔を合成できる。芳ylアリール基の代わりに烴ylアルキル基でも良い。

主な烴炔[編集]

碳数 分子式 名称 ラテン語 分子量 融点 (℃) 沸点 (℃) 密度
2 C2H2 乙炔 Aethynum
3 C3H4 丙炔 Propynum
4 C4H6 丁-1-炔 But-1-ynum
4 C4H6 丁-2-炔 But-2-ynum
5 C5H8 戊-1-炔 Pent-1-ynum
5 C5H8 戊-2-炔 Pent-2-ynum
6 C6H10 己-1-炔 Hex-1-ynum
6 C6H10 己-2-炔 Hex-2-ynum
6 C6H10 己-3-炔 Hex-3-ynum
7 C7H12 庚-1-炔 Hept-1-ynum
7 C7H12 庚-2-炔 Hept-2-ynum
7 C7H12 庚-3-炔 Hept-3-ynum
8 C8H14 辛-1-炔 Oct-1-ynum
8 C8H14 辛-2-炔 Oct-2-ynum
8 C8H14 辛-3-炔 Oct-3-ynum
8 C8H14 辛-4-炔 Oct-4-ynum
9 C9H16 壬-1-炔 Non-1-ynum
9 C9H16 壬-2-炔 Non-2-ynum
9 C9H16 壬-3-炔 Non-3-ynum
9 C9H16 壬-4-炔 Non-4-ynum
10 C10H18 癸-1-炔 Dec-1-ynum
10 C10H18 癸-2-炔 Dec-2-ynum
10 C10H18 癸-3-炔 Dec-3-ynum

関連項目[編集]

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