暗黒の男
『暗黒の男』(あんこくのおとこ、原題:英: The Dark Man)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・E・ハワードによる短編冒険小説。『ウィアード・テールズ』1931年12月号に発表された[1]。
剣と魔法の冒険歴史小説。『灰色の神が通る』・本作・『バル=サゴスの神々』でターロウ・オブライエンのシリーズを構成しており、1931年10月号に掲載された『バル=サゴスの神々』の前日譚にあたる。またブラン・マク・モーンのシリーズとクロスオーバーしており、ブランの最期が言及されている。
あらすじ[編集]
ブリトンの支配者は、時代を重ねてピクト人、ローマ人、ブリトン人、ゲール人と移り変わっていき、11世紀にはデーン人ヴァイキングの侵略を受ける。また他所では、ピクト人のブラン信仰の下級司祭グロクが、像を盗み出す。
従兄弟の策謀で氏族(クラン)を放逐されて放浪の身となったターロウは、モイラ姫がトールフェルの海賊団にさらわれたことを知る。弱体化した一族には奪還に割く余力がない。ターロウは漁師と交渉して舟を手に入れ、航海に出る。雪の中を小舟で、航路はコナハトからヘブリデス諸島まで[注 1]という、遭難必至の暴挙であった。
道中の島でターロウは、未知の人種7人とデーン人15人が争い全滅している現場に遭遇する。「小柄な者たちが」「粗末な武器で」「倍の人数を誇る略奪者どもを相手に」相討ちという、尋常ならざる状況である。5フィート(1.5メートル)ほどの高さの<暗黒の男の像>が転がっており、ターロウは彼らが彫像を守って死に物狂いで戦い抜いたことを察する。ターロウは彫像の正体を知らなかったが、彼らの王であり神であったのだろうと結論付け、彫像を拾う。航海を再開すると、神像の加護からか舟は霧や波を物ともせず進むようになる。
ターロウの舟がトールフェルのスカリ(館)に到着したとき、ヴァイキング達は宴会を催していた。ターロウが隠れて潜入の機会を窺っていると、海賊2人が<暗黒の男>の像を持って歩いてくる。ターロウは舟が見つかったと焦るも、それよりも2人が神像の持ち運びに難儀していたことの方に驚く。ターロウが軽々と運べた物を、屈強なヴァイキング2人が重量に耐えかねているのはどういうことか。ターロウはスカリに忍び込む。
<暗黒の男>の像が運び込まれた宴会場で、トールフェルは花嫁をめとると宣言する。だが連れてこられたジェローム司祭とモイラは拒否し、モイラはトールフェルを罵り短剣で自害する。ターロウは怒りにかられて、死の覚悟で躍り出る。多勢に無勢であったが、ピクト人戦士たちが乱入してターロウに加勢してきたことで、不利が覆る。ターロウはアセルステインを倒し、トールフェルを討ち取り、モイラを看取る。ターロウはアセルステインにとどめを刺そうとするが司祭が止める。
ピクト首長ブロガルが名乗り出、<暗黒の男>はピクトの神であり、自分たちは盗まれた像を取り返すために来たことを告げる。また像にはブラン王の霊魂が宿っており、ゆえに自分たちはブランに気に入られたターロウを助けたのだと説明する。ヴァイキングは女子供まで皆殺しにされ、ピクト人たちは像を回収して引き上げ、司祭は異教徒であるアセルステインの手当てをし、ターロウはあてのない旅に出る。
主な登場人物[編集]
- ターロウ・ダブ - 主人公。「黒いターロウ」と称される。色黒の若者で、斧術の達人。オブライエン一族から追放され、放浪の身。追放されてなお同胞意識が強い。モイラを救出するための旅の道中で、<暗黒の男>の像を拾う。
- モイラ - ダルカシアン一族族長の娘(≒アイルランドの王女)。ターロウの幼馴染。トールフェルに略奪される。
- ジェローム - キリスト教司祭。結婚式を行わせるために拉致された。
- 漁師 - ターロウをいぶかしむも、最終的には小舟を譲る。
- ヴァイキング(デーン人・北方人)
- トールフェル - 若き海賊王。「白皙のトールフェル」の異名をもつ、金髪の美男子。多神教徒。
- オスリック、トスティグ、ハーフガー、スウェイン、オスウィック - 北方人海賊。いずれも歴戦の猛者。オスリックはトールフェルの弟。
- アセルステイン - サクソン人の客人戦闘員。武器は両手斧。モイラに結婚すればよいと宥める。生存し『バル=サゴスの神々』にも再登場。
- <暗黒の男>ブラン・マク・モーン - ヴァルシア王カルの友である「槍使い」ブルールの子孫。古代ピクトの大王であり、死後に神として祀られた。神像には魂が宿っており、認められた者のみが軽々と持ち上げることができる。
- ブロガル - ピクト人の首長。
- ゴナル - <暗黒の男>の司祭長。白髯の老人。グロクを監視しており、ブランがターロウを気に入ったことを知った。
- グロク - <暗黒の男>の下級司祭。像を盗んで逃げるが、北方人海賊に遭遇し殺される。
収録[編集]
- 『失われた者たちの谷』ナイトランド叢書、中村融訳
関連作品[編集]
関連項目[編集]
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ ナイトランド叢書『失われた者たちの谷』訳者あとがき、284-285ページ。