バル=サゴスの神々

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バル=サゴスの神々 (バル=サゴスのかみがみ、The Gods of Bal Sagoth) は、ロバート・E・ハワードの短編小説のタイトルであり、また本編中に登場する古王国バル=サゴスで崇められる神々のことを指す。

バル=サゴスの神々であるゴル=ゴロスグロス=ゴルカについても解説する。

概説[編集]

『バル=サゴスの神々』はロバート・E・ハワードの短編小説であり、『ウィアード・テイルズ』の1931年10月号を初出とする。ブラック・ターロックことターロック・オブライエンを主役とする作品のうち最初に発表されたものだが、作中の時系列で見れば『暗黒の男』の続編に当たる。

本邦では長らく未訳となっていたが、2022年に翻訳された。

ロバート・M・プライスは、彼の編集したロバート・E・ハワードのクトゥルフ神話短編集『NAMELESS CULTS』(無名祭祀書)の中で[1]サゴス (Sagoth) が『ペルシダー・シリーズ』に登場するサゴス (Sagoth) という類人猿から取られたものと想定しうるとし、またウィリアム・フルワイラーがバル (Bal) がバビロニアのバール (Baal) から取られたものだと主張している事を挙げている。

本作の名に因んだバルサゴスという音楽バンドが存在する。

作品内容[編集]

ストーリー[編集]

ターロックの乗っていた船がヴァイキングに襲撃され、彼はとらわれの身となる。ヴァイキングの客人として行動を共にしていたサクソン人アゼルスタンは数年前ターロックに見逃してもらったことがあり、その恩に報いるために彼を助命するが、折からの嵐で船は難破した。かろうじて生き延びたターロックとアゼルスタンが漂着した島は、褐色の肌の人々が住まう王国バル=サゴスの残滓だった。美女ブリュンヒルドが怪鳥グロス=ゴルカに襲われているのを目撃したターロックとアゼルスタンはグロス=ゴルカを殺し、彼女を救う。白い肌の自分は女神を装い、褐色の民の女王として君臨していたが、大神官ゴタンに謀られて放逐されたとブリュンヒルドは身の上を語った。海から来た鉄の男たちがバル=サゴスを滅ぼすという予言があり、鉄の鎧と兜で身を固めたターロックとアゼルスタンを見ればバル=サゴスの民は恐れおののいてブリュンヒルドに権力を返すだろうといわれた彼らは加勢することを決める。

グロス=ゴルカの首を持ったターロックとアゼルスタンはブリュンヒルドに同行して王都に乗りこみ、ゴタンがブリュンヒルドの後釜として君主の地位に据えたスカーとアゼルスタンが一騎討ちを行うことになる。アゼルスタンがスカーを討ち取り、バル=サゴスの王権の象徴である翡翠の彫刻を奪還したブリュンヒルドは復位することになった。その晩、ゴタンが放った怪物がブリュンヒルドを襲ったが、ターロックとアゼルスタンが駆けつけて退ける。秘密のトンネルの中に逃げこんだ怪物をターロックらが追っていくと、その先にあったのは暗黒神ゴル=ゴロスの巨像が祀られた祭儀の場だった。ゴタンは怪物に殺され、怪物もアゼルスタンに倒された。そして、突如として倒れこんできたゴル=ゴロスの像がブリュンヒルドを押しつぶす。

ターロックとアゼルスタンが血路を切り開いて脱出すると、赤い肌の蛮族が近隣の島から侵攻してきており、都には火が放たれていた。炎上する都を後にしたターロックとアゼルスタンは浜辺で蛮族の船を奪って漕ぎ出し、たまたま通りかかったスペインの軍艦に沖合で救助される。混乱の最中に鎖がちぎれてターロックの鎧の袖に引っかかったらしく、彼は翡翠の彫刻を知らぬ間に持ってきていた。「あんたがバル=サゴスの王様だ」とアゼルスタンはターロックにいうが、ターロックは苦い笑みを浮かべて「死者の王国、幽鬼と灰燼の帝国だ」と述べるばかりだった。

主な登場人物[編集]

ターロック・オブライエン (Turlogh O'brien)

詳細は「ターロウ・オブライエン」を参照

ケルトの戦士。ブラック・ターロックという通り名を持ち、斧を得物とする。一族最強の男だが、訳あって追放中。民族の敵であるヴァイキングを激しく憎み、ヴァイキングの客人となっていたアゼルスタンにも決闘を挑もうとした。反面、アゼルスタンに助太刀するため危険なトンネルに入ることを躊躇せず、彼の身を案じて制止したブリュンヒルデを「俺の朋友が命がけで戦っているかもしれんのだ」とふりほどくなど、友情を重んじるところがある。前作『暗黒の男』ではブラン・マク・モーンの霊の加護を得ている。
アゼルスタン (Athelstane)
サクソン人。長剣を得物とする。クヌート王の近衛隊長を務めていたが、その重用に嫉妬する者が多かったことから諍いになり、出奔して流れ者になったという過去がある。前作および本作の序盤ではターロックと敵同士だったが、本人はわだかまりを感じておらず、船が難破した際におぼれかけた自分を救ってくれたターロックのことを「命の恩人」と呼んでいる。スカーとの決闘に際して相手が裸だったのに、自分だけ鎧兜を着用していたことを恥じ入るなど、正々堂々とした勝負を好む。
ブリュンヒルド (Brunhild)
オークニーのターフィンの息子ランの娘。トスティグという男に少女の頃さらわれたが、乗せられた舟が難破してバル=サゴスに漂着した。白い肌であったため海の女神として崇められることになり、先代の王を打倒してバル=サゴスの女王に成り上がった。自分から王位を奪ったスカーを晒し首にしようとしたり、ゴタンの亡骸を蹴りつけたりするなど苛烈な性格である。アゼルスタンにいわせるとターロックに懸想していたらしいが、ターロックの側はまったく興味を示さなかった。
ゴタン (Gothan)
ゴル=ゴロスの大神官。かつてバル=サゴスが大帝国だった頃の技術を覚えている唯一の人間で、禁断の魔法を駆使しては様々な怪物を創り出している。民衆を扇動してブリュンヒルデを女王の座から追放するなど彼女と権力闘争を繰り広げたが、自らが下僕として作った怪物に引き裂かれ、あえない最期を遂げた。

登場する「バル=サゴスの神々」[編集]

神々と言われているが、作中で登場・言及があるのは2神のみ。

ゴル=ゴロス (Gol-goroth)
暗黒神。バル=サゴスで崇拝される神々の主神とされる。本作では石像しか登場せず、その姿も明らかでない。
グロス=ゴルカ (Groth-golka)
鳥の神。怪鳥の姿をしている。ターロックとアゼルスタンに討ち取られた。

ゴル=ゴロスとグロス=ゴルカ[編集]

この2神がクトゥルフ神話の神々の一員となったのはリン・カーターロバート・M・プライスによるが、その経緯は少々複雑なものになっている。

ゴル=ゴロス[編集]

名前の初出は『ウィアード・テールズ』1931年4・5月合併号掲載作品『夜の末裔』。

バル=サゴスで崇拝されていた神々の中ではもっとも強大であるという。ハワードの作品ではゴル=ゴロスの姿は明らかにされていない。

その後、カーターの『The Fishers from Outside(外世界からの漁師)』にて、鳥の神ゴル=ゴロスが登場する。しかし、カーターの没後に作品集『The Xothic Legend Cycle』に再録されたときに、この鳥の神はゴル=ゴロスではなくグロス=ゴルカという名前に変わった。カーターの遺著管理人であったプライスは、カーターは鳥の神グロス=ゴルカを取り込むつもりが間違えてゴル=ゴロスの方を取り込んでしまい混同が起きたのだとし、『The Fishers from Outside』のゴル=ゴロスを全てグロス=ゴルカに変更した[2]

またプライスは、ハワードの『黒の碑』に登場する魔物もゴル=ゴロスであるという説を提唱する。この説が広まり、容姿が不明であった(鳥は間違いであった)ゴル=ゴロスは、今日ではヒキガエルのような姿をしていると見なされることが多い。

その一方で、クラーク・アシュトン・スミスが創造した邪神ツァトゥグァは、ヒキガエルに形容され、また知名度が高い。そのためにゴル=ゴロスなどハワード神話に登場する何体かの怪物は、プライス説のゴル=ゴロスを採用せずに、ツァトゥグァと同一視・混同されることがある。

グロス=ゴルカ[編集]

カーターの『The Fishers from Outside』にて、鳥の神グロス=ゴルカが登場する(初期の版ではゴル=ゴロスの名前だったが、修正されてグロス=ゴルカの名前になった)。

旧支配者の一体で、一本足に一つ目の巨大な水鳥の姿をしている。ムノムクアの兄弟で、シャンタク鳥の支配者。シャンタク鳥の長であるクームヤーガは、この神に仕えている。また遡ってハワードの『バル=サゴスの神々』に登場した鳥の怪物は、神ではなく神の化身だったということになった。

収録[編集]

  • 新紀元社『幻想と怪奇11 ウィアード・ヒーローズ』「バル・サゴスの神々」野村芳夫訳(2022)

関連作品[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

出典[編集]

  1. 『NAMELESS CULTS』( ISBN 1568821301)P221
  2. 『The Xothic Legend Cycle (ISBN 156882078X)』P179