大人買い

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大人買い(おとながい)とは、食玩(玩具付きの菓子)などの子供向けの商品を、大人が一度に大量に買うことを表す俗語[1]。転じて、子供向け商品に限らず、単に通常人が1回に買う平均を大幅に上回る数量の物やサービスを購入することも言う[2]2000年前後頃から急速に一般化した言葉で、日本の代表的な国語辞典のひとつである『広辞苑』にも、その第六版(2008年)で関連語の「食玩」などとともに新規収録された。類似の表現に「箱買い」「ケース買い」「カートン買い」「まとめ買い」「爆買い」などがあり、ときには同義として用いられることもある。

なお語形がよく似ていて起源も語義も全く異なる異義語に「ヲトナカヒ」がある。これは明治時代中頃の盗っ人仲間の隠語を当時の警察関係者がまとめた『日本隠語集』(1892年)に収録されているもので[3]、「店頭ノ物ヲ盗取スルコトヲ云フ」(愛知県管内ニ通スル語)と説明されている。この語は『日本国語大辞典』(小学館[4]にも同書を引用するかたちで収載されており、その語源については「『音無買』の意か」との注釈がなされている。

発祥とその背景[編集]

大人買い」という語の発祥の詳しい経緯は必ずしも明らかではないが、本来はオタク用語[5]、あるいはトレーディングカードコレクター間の用語[6]が起源だと言われている。

最も古い使用例の一つとしては、1999年11月発行の久米田康治作の漫画作品『かってに改蔵』の単行本5巻第1話『これが大人のやり方だ!!』[7]があり、謎の人物がトレーディングカードを箱ごと買い占めるストーリー中で「大人買い」の語が使用されている。この作品と「大人買い」の語の流布との関係は不明であるが、使用例としてはかなり早い時期であり、同作品は他にも『不発弾』などのネットスラングを中心に若者言葉として流布した表現も多いことから、何らかの影響があった可能性もある。

また、その数年前の1994年に発行された水玉螢之丞著『こんなもんいかがっすかぁ』には、カードダス200枚について「箱で買うのオトナだから」[8]という表現が見られ、この表現が「大人買い」の単語形成に影響を与えた可能性もある。これら早期の例はいずれもトレーディングカードに関連しており、本来はカードコレクター間の用語であったとする説[6]に真実味を与えている。

いずれにせよ「大人買い」の語が広く流布したのは2000年前後の時期とみられ、その背景にはペプシコーラ1998年以降に商品のおまけとして付けたキャラクター型ボトルキャップや、1999年9月からフルタ製菓が発売したチョコエッグのおまけなどを熱心に集める大人たちによる「食玩ブーム」があったとされる[5]。特に後者のチョコエッグのおまけの「日本の動物コレクション」は、大人の鑑賞に堪えうる精密さを誇り、食玩ブームの火付け役となったと言われる商品で、このブームと大人買いという用語の一般化とは時期をほぼ同じくしている[9]。これらのおまけには1シリーズ中に複数種の造形のものが用意されており、そのうちのどれが入っているかは包装を開けるまで分からない仕組みになっていた。そのため全種類を収集するには、おまけがダブる(重複する)ことを覚悟で同じ商品を多数買わねばならず、さらには「シークレットアイテム」と称され、公表されたラインナップにも明確には紹介されない希少性の高いおまけ(レアアイテム)も付けられたことから、一度に大量に購入する大人が多く出現した。この現象がすなわち「食玩ブーム」であり、これをマスコミなどが紹介する際には、その様子を表す「大人買い」という語と併せて報道されることも多く[10]、食玩ブームに乗ってこの語も流布されたと言える。

一般化と定着[編集]

チョコエッグに代表される食玩ブームは2000年以降もしばらく続き、ビックリマンシリーズの人気再燃によるビックリマン2000、そして完全に大人をターゲットとしたトレーディングカード市場の活性化、さらにはコレクションアイテム以外への用法の拡大などを背景として「大人買い」の語は一般化されて確実に定着して行き、2008年刊行の『広辞苑』第六版では、新たに収載された1万語のうちの一つとなった。

このような一般化と定着の背景には、通常の「まとめ買い」を「大人買い」という耳新しい語に言い替えることで耳目を惹きつけ、商品のアピールをしようとする業者の存在もあった。例えば2005年頃からは大人買いの語を使った商品紹介記事が雑誌上に複数見られるようになったが、そこで紹介されているのはファッションアイテム[11]化粧品[12]などの成人女性向け商品、あるいは家電製品[13]や、革製小物から腕時計その他諸々[14]の商品群である。景気が低迷する中で「大人買い」という新語に消費拡大の期待を寄せる業者の姿が見えるが、この流れはその後も続き、2008年にも、対象年齢を問わず一度にまとめて購入できるセットを用意して、「大人買い!」の文言や「大人買いセット」などの名とともに商品を販売する業者も少なからず見られた[15]

なお雑誌などの使用例では、購買者の立場に立った記事の場合には「大人買い」や“大人買い”のようにカッコなどで括られて「いわゆる大人買い」といったニュアンスのものが多いが、販売者側の立場からの記事では何の括りもなく使用されることが多く、「大人買い」に対するスタンスの違いが見られる。

大人買いと買占めの相違点[編集]

特定の商品を一括して大量に購入するという点において「大人買い」と「買占め」は共通するが、「大人買い」の購買対象となる商品はコレクターズアイテムや趣味性の高い商品が多く、トイレットペーパーのような生活必需品を大量購入する場合、「大人買い」という用法は通常は用いられない。

大人買いの功罪[編集]

購買力のある消費者が特定の商品を大量に購入することによって売り上げの向上につながるが、一方で限られた購買力の消費者にとっては商品の供給が需要に対して十分ではない場合には購買の機会を逸失する。ましてや購入対象商品が消費者にとって必要性の高い商品(医薬品等)であれば死活問題になる。生産者側にとっても大人買いをするかしないかは消費者の心理によるため、生産計画を立てる上で予測が困難である。購買者が希望する特定の商品が入手できた時点で大人買いは終了するため、一過性のものであり、その後の消費に結びつきにくいという弊害もある。また、マーケティングの見地から見て「大人買い」をする特定の消費者層の消費行動を把握することは対象商品の販売戦略を立てる上で無視できない要素になりつつある[16]

類似語[編集]

脚注[編集]

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※「大人買い」の部分強調は本稿の執筆者による

  1. 新村出(編)『広辞苑』第六版(普通版)、岩波書店、2008年、410頁。ISBN 978-4-00-080121-8 C0500
  2. 「〔早耳〕 大人買い」(読売新聞 2005年10月21日 西部版朝刊 35頁 社会面)-「大人買い」の解説-
  3. 稲山小長男(編)『日本隠語集』、1892年47頁
  4. 日本国語大辞典刊行会編 『日本国語大辞典』第二版・第二巻、2004年、小学館、1273ページ。ISBN 4-09-521002-8
  5. a b 片桐圭子「大人買いという快楽 お菓子のおまけにはまってしまう」(『AERA』 2001年1月1日号 83頁)
  6. a b 日本語俗語辞書 「大人買い」
  7. 久米田康治『かってに改蔵.5』 少年サンデーコミックス 小学館 ISBN 4-09-125535-3
  8. 水玉螢之丞『こんなもんいかがっすかぁ 上巻』p.105
  9. 太田サトル「チョコエッグはどこへ フルタ製菓海洋堂が決別 コレクター心を熱く燃やし、大人買いに走らせた原点」(『AERA』 2002年3月18日号 62頁)
  10. 銅山智子「『丸かじり探検隊』 菓子よりおまけ…『食玩ブーム』を探る」(毎日新聞 2003年6月24日 朝刊 15頁)ほか。
  11. 「おしゃれさん18人から学ぶ心意気! 大人買いでセンスアップ。」(『an・an』 2005年1月26日号 53-59頁)
  12. 「肌セレブ直伝 私たち、実力派通販コスメ大人買い!」(『女性セブン』2006年6月1日号 101〜137頁)
  13. 「どーする?買っちゃえ!最新『家電』大人買い記念日 『テレビ・洗濯機・冷蔵庫…いま欲しいBEST3』『掃除機&アイロン』『必須デジカメ&ビデオカメラ』」(『女性自身』2006年7月4日号 193-199頁)
  14. 「『自分にごほうび』大カタログ 来年も仕事を頑張りたいから、この機会にどーんと大人買い!」(『Gainer』2006年12月号 75-106頁)
  15. 「100冊大人買い! 今年の100冊、どーんとまとめてセットでお買い求めいただけます」 「2008年新潮文庫の100冊セット(109冊)」 新潮社(2009年5月13日閲覧)
  16. 大人買い心理”をくすぐる絶妙な戦略 「漫画全巻まとめ買いサイト」が大人気! これが気になる! - 第261回 , 2010年3月2日 , DIAMOND online

関連項目[編集]