城の部屋
城の部屋(しろのへや、原題:英: The Room in the Castle)は、イギリスのホラー小説家ラムジー・キャンベルが1964年に発表した短編小説。クトゥルフ神話の一つ。
概要[編集]
クトゥルフ神話「第二世代」作家であるラムジー・キャンベルの作品。キャンベル作品の中では、青心社『暗黒神話大系クトゥルー』全13巻に収録されている唯一の作品[注 1]。
主役である蛇にまつわる邪神バイアティスは、ロバート・ブロックの『妖蛆の秘密』[注 2]にて名前だけ登場していた神格であり、本作にて詳細な設定が追加された。後にリン・カーターが本作での設定を踏まえたうえで『陳列室の恐怖』で設定を追加し、さらに後の作品で設定をアップデートする(リン・カーターの新旧設定には矛盾があるが、とにかく新設定で上書きされた)。 また、キャンベルの他の神々についても、断片的な説明がある。
物語[編集]
舞台設定[編集]
本作は、グロスタシャー州のセヴァン川付近の、ブリチェスター北西のセヴァン谷(セヴァンフォード)、バークリイ村という架空の村を舞台としている。旧神のシンボルによる魔除け効果の設定も登場する。土地の教会には、プロテスタントに混ざって旧神天使とヒキガエルガーゴイルの彫物が置かれており、クトゥルフ神話が地元信仰に溶け込んでいる。
あらすじ[編集]
旧神に封印されたバイアティスは、ブリテン島に侵攻してきたローマ軍によって封印から解かれて以来、「バークリイの蟇(ひきがえる)」の異名で恐れられていたが、18世紀に入り、魔術師ギルバート・モーリイ卿に使役される。この魔物はモーリイ卿から餌として与えられる旅人を食べながら、そのエネルギーで他の邪神達[注 3]の思念を受け取っていた。その後、モーリイ卿が消息を絶つ。 時は流れて20世紀となり、ある日、語り手であるパリーは友人に頼まれ、ロンドン大英博物館にセヴァン谷の郷土資料を探しに行った際、バイアティスと呼ばれる森の魔物の記述に興味を持ち、詳しく調べてみる。
パリーはバークリイ在住の友人スコットの家に泊まり、セヴァンフォードの古城の位置を聞き出す。スコットは止めるが、パリーは逆にやる気を出し、現地へと赴く。城はほとんど残っていなかったが、地下室への階段が隠されていた。置かれていた「魔除けのシンボルが刻まれた金属塊」を彼が持ち上げたところ、仕掛けが作動し、さらなる地下階段が現れ、人間の胴ほどの太さもある巨大な蛇のような物体が地下から伸びてきたため、恐怖に驚いたパリーは村に逃げ帰る。
パリーは村に戻り、友人に見たものを告げる。さらに、あの怪物を滅ぼさなければならないと決意し、それを聞いたスコットの家政婦はパリーに護り石を授ける。翌日、彼は再び城跡へと赴き、穴倉に燃料を注いで火をつける。唸り声と共に煙が噴き出してきて、幻覚じみたものまで見えたが、とにかく攻撃を済ませたら一目散に逃走した。
その後、パリーは最初に見た蛇のような物体がバイアティスの顔の触手の一本だと考え、獲物を食いすぎた結果地下室の外には出られないほど肥え太り、モーリイ卿が姿を消した今もあの場所にいると結論付けた。
主な登場人物[編集]
- パリー - 語り手。
- スコット - バークリイ村に住む友人。
- ギルバート・モーリイ卿 - 18世紀の黒魔術師。古城に住み、バイアティスを使い魔とした。ある日突然姿を消すが、彼もまたバイアティスに捕食されたと推察される。
- バイアティス - 「バークリイの蟇(ひきがえる)」の異名を持つ邪神で、『妖蛆の秘密』には「蛇を髭のごとくはやす忘却の神」と記されているほか、郷土資料にも記載がある。蛇のように蠢く触手を無数に生やした頭部、蟇のような胴体を持つ。一つの邪眼で標的を捕らえ、食らうことで巨大化する。
関連項目[編集]
- クトゥルフ神話の土地 - ブリチェスターについて解説。
収録[編集]
- 『クトゥルー9』青心社、岩村光博訳
- 『グラーキの黙示 1』サウザンブックス社、森瀬繚訳