北九州市母娘刺傷事件
北九州市母娘刺傷事件とは、2022年8月13日の夜に、福岡県北九州市小倉北区で発生した傷害事件。母(37)と高校生の娘(15)の2人が帰宅し、玄関に入ろうとしたところ、家の中に待ち伏せていた犯人に包丁で刺され、2人とも重傷を負った。犯人は、犯行直後に鉄道自殺した。
犯人が位置情報共有アプリZenlyで被害者の家の住所を特定するという異例の事件であったため、メディアに大きく取り上げられた。
経緯[編集]
2022年7月頃、当時中学生だった福岡県の女子生徒Aと、東京都葛飾区在住の男子高校生Bがインターネットを通じて知り合った。その際、位置情報共有アプリZenlyも交換したとみられる。
AとBは翌2023年1月に福岡県内で会ったものの、同5月頃には互いに連絡を取らなくなってしまう。Aは同時期に異性関係について福岡県警に相談した履歴があるため、Bとの間で何らかのトラブルがあったとみられている。
程なくして、AはBとの位置情報の共有を切った。元神奈川県警刑事の小川泰平氏は、この行動をもって「(加害者側の)行動がエスカレートした」と指摘している。[1]共有を切りはしたものの、BはすでにAの家の位置のスクリーンショットを保存しており、住所を把握していた。
同年8月の初め頃から、BはSNSに暴力行為や自殺をほのめかす投稿を増やしはじめる。また、詳しい経緯は不明であるが、8月7日にはBの親族からBの行方不明届けが出された。
事件前日の8月12日、Bは新幹線で北九州市へと渡り、現地の商業施設で包丁1丁を購入した。
翌13日、BはAの自宅に侵入。その際、ドアは開けたままであったという。午後9時50分ごろ、玄関先にて、Bは帰宅したところのA親子に襲いかかった。親子は腹部などの複数箇所を刺されて大けがをしたものの、幸い命に別状はなかった。
事件直後、様子を見ていた近隣住民がすぐさま警察に通報した。だがBはすでに逃走していた。
犯行の20分ほど後、事件現場から600メートルほどの距離にある日豊本線南小倉駅付近の踏切で、Bは列車にはねられて死亡した。前後の経緯などから自殺とみられている。[2]
影響[編集]
「位置情報共有アプリ」が原因という新奇な事件であったため、連日メディアで報じられた。やはり安全上の理由から、位置情報を四六時中公開するアプリに嫌悪感を示す人々は少なくなく、SNS上ではちょっとした議論となった。位置情報共有アプリ(Zenly)肯定派は「Zenly批判する人たちはZenly交換できる友達がいないだけ、かわいそう」「考え方が古い」などとして否定派を攻撃した。肯定派・否定派ともに一歩も引かないレスバトルが続いたが、時間の経過とともにこの話題は下火となっていった。 さすがに傷害事件が起きれば各種位置情報共有アプリの流行も収まる…ことはなく、2023年になっても若い世代に広く受け入れられている。実際、2023年1月にバイドゥ株式会社が行った「Z世代が選ぶトレンド寸前の『次世代SNS』」の調査では、一位に位置情報アプリ「NauNau」がランクインした。[3]
教訓[編集]
- 位置情報を、見ず知らずの人と共有しない。
- 若い世代は、SNSなどで「リムる」ことが少なくないが、それだけでも一部の人を異常な行動に駆り立てるのには十分である。
位置情報アプリを取り巻く状況[編集]
2022年8月31日、Zenlyを運営するSnap社は、当該アプリのサービス終了をほのめかした。Snap社全体で収益性が落ちている中、新たに収益を見込める事業に注力するのだという。翌9月1日、Zenly日本版の公式ツイッターアカウントが「親会社の事業の再構築と再集中化にともない、数カ月後に提供を終了いたします」と投稿したが、すぐに削除した。この決定に、北九州の事件が関連したのかどうかは不明。しかし、Zenlyの低収益の原因として、今回の事件のような悪用への対策が不十分であり、投資家から投資を引き出せなかったことが指摘されている。
2023年2月3日、Zenlyはサービスを終了。2023年6月現在では、ユーザーが前述のNauNauをはじめWhoo、Iシェアリング、Jagatなど複数の位置情報共有アプリに分散。位置情報共有アプリ界は、かつてのZenly一強を脱し、群雄割拠の状態になっている。