企業家
企業家(きぎょうか)とは、市場経済の均衡を破壊・創造するイノベーション(革新)の実行者である。企業家は古くから着目されており、18世紀のフランスの経済学者カンティヨンの企業家論、米国の経済学者J.シュンペーターの企業家論が特に知られている。企業家はイノベーションの担い手であり、経済・社会発展の原動力と考えられている。
概要[編集]
フランスの経済学者リシャー・カンティヨン( Richard Cantillon、英語読みでは「リチャード・カンティロン」)は『商業論』(Essai Sur la Nature du Commerce en Général)[1][2]で生産要素があるだけでは生産が行われず、それらを使う方法を考え、何をどのように生産するかを決める主体の必要性を説き、その主体を「企業家」(アントレプレナー、entrepreneur)と規定した。「内在価値」は企業家によって創出される価値であるとした。企業家は世間の明があり、リスクを進んで引き受け、利潤を生みだすために必要なアクションを取るものであると規定した。カンティヨンは2セクターの一般均衡系を開発し、そこから価格理論を導き、産出理論を導出し、その主体である「企業家」を定義した。
J.シュンペーター(Schumpeter)は『経済発展の理論』[3]で生産要素の増加がなくとも経済が停滞しないことを発見し、企業家が生産要素の結合を変化させる何らかの行為「新結合」を行う行為者を企業家であるとした。経済発展の駆動力は企業者によるイノベーション(新結合の遂行)であるとした。「新結合」を行う行為は創造的破壊、イノベーションである。新製品の開発、新市場の創造、新生産方式の導入、新しい組織形態の実現、原料の新たな供給方式の開拓、新技術の開発などがこれに当たる。イノベーションは、シュンペーター理論の中心概念となっている。シュンペーターの新結合は連続的ではなく、非連続的であるとした。
企業家と実業家の違い[編集]
- 実業家は農業・工業・商業・水産など生産・流通・販売などの事業に従事するものをいう。英語ではBusinessmanである。取り組み姿勢としてアクティブな要素は求められない。
- 事業家は事業のオペレーションを巧みに行う人であり、既存の枠組みを前提として、それらのマネジメントが出来る人である。仕組みの改善やイノベーション等は想定されていない。英語ではBusinessmanなので、実業家と同じになる。
- 企業家は単に事業に取り組むだけでなく、「よりアクティブに経営を進めていく精神を持つ人」を指す。英語ではentrepreneur なので、起業家と同じになるが、必ずしも新規事業だけに限定されない。階層としては経営層・管理職層が対象である。新しい生産方式の導入、新技術の開発、新商品の開発、経営や組織の改革を図る人物が想定される。起業家も企業家に含まれる。
- 起業家は新しい事業を起こす人であり、創造的要素が必要となる。アントレプレナー(entrepreneur)ともいう。
日本の企業家シリーズ[編集]
PHP研究所創立70周年記念出版として「日本の企業家」シリーズ全13巻が刊行されている。日本の代表的な企業家の業績が解説されている。
- 1巻 渋沢栄一: 日本近代の扉を開いた財界リーダー
- 2巻 松下幸之助: 理念を語り続けた戦略的経営者
- 3巻 土光敏夫: ビジョンとバイタリティをあわせ持つ改革者
- 4巻 久保田権四郎: 国産化の夢に挑んだ関西発の職人魂
- 5巻 小林一三:都市型第三次産業の先駆的創造者
- 6巻 中内功:理想に燃えた流通革命の先導者
- 7巻 本田宗一郎:夢を追い続けた知的バーバリアン
- 8巻 井深大:人間の幸福を求めた創造と挑戦
- 9巻 丸田芳郎:たゆまざる革新を貫いた第二の創業者
- 10巻 大原孫三郎:地域創生を果たした社会事業家の魁
- 11巻 安藤百福:世界的な新産業を創造したイノベーター
- 12巻 江崎利一:菓子産業に新しい地平を拓いた天性のマーケター
- 13巻 小倉昌男:成長と進化を続けた論理的ストラテジスト
企業家の研究団体[編集]
『企業家研究フォーラム』は2002年9月、大西正文・第22代大阪商工会議所会頭の顕彰事業として「企業家研究基金」を活用して設立された。学会誌『企業家研究』を発刊している。