Merry X'mas you, for your closed world, and you...
『Merry X'mas you, for your closed world, and you...』とは、フリーのサウンドノベルゲーム。
概要[編集]
製作者は饗庭淵(あえばふち)氏。2010年1月ごろ発表。製作期間2年。
プレイ時間は5時間前後。一部に性的・猟奇的な描写がある。公式な年齢推奨は特になし。使用ツールは吉里吉里。
典型的な恋愛ゲームの設定を借りたメタフィクション的ストーリーである。恋愛ゲームの中の世界にどうしたわけか入り込んでしまった高校生・辻祐紀が主人公。彼にとってこの世界での生活は、幸福どころか苦心惨憺きわまりないものである。まず背景画像が学校のぶんしか用意されていないため、学校の外に出ることができない。一部のヒロインキャラを除き人間に会うことができない。そしてそのヒロインたちも型にはまったテンプレの存在である。唐突に殴りかかっても怒ったり歯向かったりしないし、「死ね」と罵倒を浴びせても型にはまった同一の反応しか返すことができない。公式には「メタメタフィクション」とジャンル説明されている。
ゲームの中の世界に入り込んでしまうというメタゲームは、他にもいくつか作品例があるが、大抵はギャグ・ユーモア的展開のものが多い。本作のようにシリアスなものは極めて稀である。(特にフリーゲーム界においては。)虚構作品にたいする深い洞察と懐疑精神・批判精神が通っている。ホラーゲームではないにも拘らず、ゾッとさせられることもあるほどだ。
また単なる「ありきたりな展開にツッコミを入れるだけの作品」でもない。虚構世界への考察をとおして、人間の存在論などへと話は進んでゆき、なかなかに難解。少し哲学書を読んでいるのに近い雰囲気もある。
ゲーム的リアリズム・メタ美少女ゲームについて考察を行ったゲーム、と捉えることもできるだろう。作者・饗庭淵氏はブログ内で、海猫沢めろんのライトノベル『左巻キ式ラストリゾート』から本作の着想を得た、と語っている。ところが、このライトノベルはまさに、評論家・東浩紀が著書『ゲーム的リアリズムの誕生』において「ゲーム的リアリズムを鍵概念として分析できる作品」の一例として挙げている小説なのである。
「電波ゲー」「不条理文学」などを髣髴とさせる一面もある。雰囲気は電波ゲーに似ているが、根本的な構造でいえば単純に同一視できない側面もある。電波ゲーは、「異常な現実世界の出来事」が「夢、精神病者の妄想・幻覚など」の構造によって、その存在をメタ的に保証されている場合がしばしばである。主人公の視点から見れば世界が狂っているかもしれないが、客観的に見れば世界そのものは正常である場合が多い。対してこの作品は外部的・客観的保証が必ずしも明確ではない。あるいは全くない。
不条理文学との類似性については本作のなかでも自己言及されている。どちらかといえば不条理文学のほうに近い内容といえるだろう。
文章は基本的に読みやすいが、話が進んでくると自然科学・哲学・神話にたいする衒学趣味の傾向があり、やや難しい。作中に登場する専門用語をいくつ知っているか・理解できるか、によって、作品にたいする見方・評価も変わってくるものと予想される。小難しい内容が嫌いな人にはあまりオススメできない。登場する単語はほとんどがネットでググれば出てくる単語なので、適度に調べてみるのが吉である。ウィキペディアの解説はたいてい厳密さゆえに小難しいことが多いので、むしろニコニコ大百科やはてなキーワードなどを読んだ方が理解しやすいだろう・・・・・・・おっと誰か来たよ(ry
選曲・演出・システムなど全体的に完成度高し。グラフィックは違和感を感じるものが多いが、これはわざとそうしているのであり、むしろ上手に違和感を出せているという意味では完成度は高い。動作処理速度は、古い低スペックPCだと読み込みがほんの少しだけ長めに感じる可能性があるが、プレイに支障がでるレベルではない。
エンディングは一つで分岐は無し。
ネット上の反応を見ると、ラストがあっさりしていることに対して若干不満を感じる人もいるようである。しかしながら、あのシナリオ・あの設定で、綺麗なオチを思いつくことは相当難しいと思われる。作者の力量が不足しているから思いつけないのだ、とかいう次元ではなくもっと根本的に難しい。まるで過度に擁護するようだが、世界中の誰でもあのゲームに綺麗なオチを持ってくることは難しいだろう。そもそもオチがあっけない展開になることは、オチの一歩手前の時点で明示的にネタバレされている。とはいえ作者はブログで「ラストについては確かに難アリ」「様々な反響を得られましたので、次回に活かしたいと思います」と高い上昇志向を見せており、現状に慊焉たらぬようでもある。
なお、作者の饗庭淵氏は、普段はエロい絵や小説を書くことに全精力を注いでいるド変態である。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- Vector - ここからダウンロードできる。
- 喘葉の森 - 製作者・饗庭淵氏のブログ。他にサイトは持っていないようである。
- 喘葉の森 架空レビュー:『めりくり!』 - ある意味での作者の自己解説。大きなネタバレはないが、プレイ後に見ること推奨。
- 公式プロモーションビデオ(公式MAD) - ニコニコ動画