谷間の家

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

谷間の家』(たにまのいえ、原題:: The House in the Valley)は、アメリカ合衆国のホラー小説家オーガスト・ダーレスによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ウィアード・テールズ』1953年6月号に掲載された。東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて、「<クトゥルー物語>群の一編だが、同時に「インスマスを覆う影」の後日譚でもある。アイルズベリイの商店主の名前が、オーベッド・マーシュであることに注目」と解説している。[1]

ダニッチ近郊のアイルズベリイが舞台となっている。主人公の一人称で話が進むのだが、思考が狂気に汚染されて信頼できない語り手となっていく。1928年のインスマス事件への言及があり、力を失った深きものどもの再起が進行している。

あらすじ[編集]

アイルズベリイ郊外の谷間の家に住むビショップ家の末裔、セス・ビショップは、周囲の者たちに嫌悪の目で見られ、しまいには家の中で隣人を殺す。

その後、画家であるジェファースン・ベイツが、谷間の家をアトリエとして借り受ける。ジェファースンは自分がバド・パーキンスら隣人たちに奇異の目で見られ監視されていることに気づく。ジェファースンは村のオーベッド店主からセスの生涯について聞き、また家の中からセスが作った抜粋写本や事件の新聞記事の切り抜きなどを発見する。ジェファースンはセスを「幼少と若いころは知能が低く、成長してから急に知識を修得した結果、精神に異常をきたし、人目を避けて生活することになった」のだろうと理解する。

ジェファースンは悪夢にうなされ、目覚めた後に家の地下室を調べ、トンネルと、散乱した骨を発見する。彼は濡れた地下に降りるために長靴を買うが、翌日、一度も履いてないはずなのに使用された痕跡を見て取る。近所で家畜の羊が姿を消した後、ジェファースンはトンネルの奥で引き裂かれた羊の死骸を見つける。村人たちは、ジェファースンをセスの再来と噂し恐れる。

以後、ジェファースンの思考は完全に狂気に汚染されるようになる。ジェファースンは家の中に別の人物が絵を描いている気配を感じる。また地下にいる「深きものども」に命じられ、食糧を持っていく。セスの日記には水の生物たちとの狂気にまみれた交流が書かれており、ジェファースンは戸惑うどころかセスの知性と独学を称賛するまでになっていた。

周辺の住民たちは、家畜被害をジェファースンによるものとみなして敵意を向け、保安官を差し向けるも、立証されずジェファースンは釈放される。だがバドは、ジェファースンにライフルを向けて警告する。続いて少年が姿を消し、隣人たちはさらに敵意を向ける。ついには群衆が押し寄せ、家は焼かれ、ダイナマイトで吹き飛ばされる。深きものどもは焼き殺され、クトゥルフの従者も焼かれて姿を消す。家から引きずり出されたジェファースンが我に戻ったとき、バドが引き裂かれて死んでいた。

ジェファースンは逮捕される。住民達は怪物など見ておらずジェファースン一人だけだったと主張し、裁判ではジェファースンに不利な証言が相次ぐ。ジェファースンは無実を主張し、憑依したセスの仕業とわめく。ジェファースンはもう長くないだろうと供述書を残すが、それは狂気と主観に満ちた怪文書であった。

主な登場人物[編集]

  • セス・ビショップ - 谷間の家に住んでいた人物。ネクロノミコンなどの抜粋本を作り、クトゥルフ信仰を研究していた。隣人を殺して失踪する。
  • ジェファースン・ベイツ - 語り手。画家。谷間の家に移り住み、セス・ビショップの宿主に選ばれる。
  • ブレント・ニコルスン - 友人。ジェファースンに谷間の家を斡旋する。
  • バド・パーキンス - アイルズベリイの若者。ジェファースンが引っ越してきた谷間の家を探りに行き、顔見知りになる。
  • オーベッド・マーシュ - アイルズベリイ村の店主。セス・ビショップの遠縁の親族。
  • エイモス・ボウドゥン - セスの隣人であり、犠牲者。

用語[編集]

ビショップ家
セス・ビショップの一族。ラヴクラフトの『ダニッチの怪』には同姓の人物が複数登場し、ウェイトリー家と並んでダニッチ近辺に多くの者がいる。オーベッド店主のセリフによると、魔女や迷信を信じていたという。セスの先代は、有毒・妖術に用いる植物の栽培に詳しかった。
マーシュ家
インスマスオーベッド・マーシュ船長の一族。(船長と同名の)オーベッド店主によると、魔女や迷信など信じていないというが、『インスマスの影』などにみられるように別の存在と繋がりを持つ。セスはマーシュ家の血も引いており、オーベッド店主はセスはビショップ家よりもマーシュ家に似ていると言う者もいたと語っている。セスの日記には、1928年のアメリカ政府による手入れのことが記されており、インスマスとマーシュ家は駆逐されたが、まんまと逃げおおせた者もいるという。
セス・ビショップ抜書
1919年から1923年にかけて、セスがミスカトニック大学で筆写した「ネクロノミコン」「屍食教典儀」「ナコト写本」「ルルイエ異本」の抜粋。旧神と旧支配者の闘争など、クトゥルフ神話が記されている。
クトゥルフの従者
水の生物であり、蛸に似た存在。クトゥルフの同種生物。深きものどもと共に、谷間の家の地下室に姿を現した。ダーレスが多用し、本作にも登場させることになった。

収録[編集]

関連作品[編集]

  • ダニッチの怪 - ラヴクラフトの神話作品。同名の人物、セス・ビショップが登場し、透明怪物事件の犠牲者となり死んでいる。ダニッチのビショップ一族の人物が何人も登場する。
  • 恐怖の巣食う橋 - ダーレスの神話作品。ビショップ一族の人物が登場する。妖術師セプティマス・ビショップによるダニッチバージョン。

脚注[編集]

[ヘルプ]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』366ページ。