秀逸な裁判所判決文

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秀逸な裁判所判決文(しゅういつなさいばんしょはんけつぶん)では、日々全国で行われている裁判の判決を引用する。

かっぱえびせんキャッチフレーズ訴訟[編集]

概要[編集]

カルビーかっぱえびせんについて、当時の広告代理店で担当者であった男性が原告となり、「やめられない・とまらない・かっぱえびせん」のキャッチフレーズを考案したのは自分であると訴えた裁判である。このキャッチフレーズはカルビー社員が考えたと紹介されているが、実際は原告が作成したため事実と異なるとしてカルビー社を訴えた事件。なお、原審は本人訴訟[注 1]であり、控訴審になって初めて代理人弁護士を付けている。

事件番号[編集]

原審  東京地方裁判所 平成29年(ワ)第25465号  損害賠償請求事件
控訴審 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所 平成30年(ネ)第10036号 著作者人格権確認等請求控訴事件

請求内容[編集]

  • カルビーのCM(昭和39年に制作したTVCM)つき、原告が制作した事実を確認すること。
  • カルビーが自社の社内報、ホームページに「やめられない、とまらない、かっぱえびせん」を考えたのが原告であったと記載した記事を掲載すること。
  • カルビーが原告に対して1億5000万円を支払うこと。

争点[編集]

以下の点が争点となっていた

争点1
原告がこのCMを制作した事実を確認する訴えが適法か
争点2
原告がこのCMを制作したか
争点3
カルビーが原告に対し、キャッチフレーズを考えた本人であると社内報に掲載することを約束したか
争点4
かっぱえびせんの由来に関するテレビ番組[注 2]の放送、同内容の新聞記事に掲載されたことにより、カルビーが原告の名誉を棄損した不法行為が成立するか
争点5
カルビーが本件に係る各書面を原告に送付したことで侮辱が成立するか
争点6
原告の損害額
争点7[注 3]
本件にかかる原告の名誉回復記事の掲載が適当か

結果[編集]

原審
  • TVCMを原告が制作した事実の確認を求める部分を却下する[注 4]
  • 原告のその他の請求をいずれも棄却する。
控訴審
  • 控訴および控訴審における追加請求の棄却

秀逸な判決文[編集]

1 争点1(原告が本件CMを制作した事実の確認を求める訴えは適法か)について原告は,本件訴えにおいて,原告が本件CMを制作した事実の確認を求めている。

しかし,確認の訴えは,原則として,現在の権利又は法律関係の存在又は不存在の確認を求める限りにおいて許容され,特定の事実の確認を求める訴えは,民訴法134条のような別段の定めがある場合を除き,確認の対象としての適格を欠くものとして,不適法になるものと解される(最高裁昭和29年(オ)第772号同36年5月2日第三小法廷判決・集民51号1頁,最高裁昭和37年(オ)第618号同39年3月24日第三小法廷判決・集民72号597頁等参照)。 したがって,本件訴えのうち,原告が本件CMを制作した事実の確認を求める訴えは不適法である。 なお,事案に鑑み付言するに,仮に,原告が,本件CMを制作した事実ではなく,原告が本件CMにつき著作権ないし著作者人格権を有することの確認を求めたとしても,確認の訴えは,現に,原告の有する権利又はその法律上の地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切である場合に,その確認の利益が認められるところ(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照),前10 記前提事実(第2,2),証拠(甲18ないし20,23ないし25,19,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,アストロミュージックから許諾を受けて本件キャッチフレーズを使用しているにとどまり,本件CMについて被告が著作権ないし著作者人格権を有するなどとは主張していないから,原告が有する権利又は法律上の地位に存する危険又は不安を除去するために,本件CMの著作権ないし著作者人格権の存否につき被告との間で確認判決を得ることが必要かつ適切であるとは認め難く,結局,確認の利益を欠くものとして不適法というほかない。 — 

平成29年(ワ)第25465号 著作者人格権確認等請求事件 判決文 第3 当裁判所の判断 より引用

秀逸な点[編集]

原審において請求が却下されている。これは訴訟要件を満たしておらず、訴えることができないものを訴えているということになる。却下された訴えは内容について判断されることなく退けられる点が棄却と異なる[注 5]。その上で著作権を有する確認であればどう判断するか、という点も述べられており、訴訟における「確認の利益」について考えるうえで有益であるとの見方もある。

なお、かっぱえびせんのキャッチフレーズ誕生には謎が多く、原告の男性が考案した説のほかにも「電通説」「アルバイトが言った説」などが存在しており、カルビー側も由来の断定はしていない。

同人イベントフェイスマスク事件裁判[編集]

概要[編集]

2020年8月に開催されたとある同人イベントにおいて、AとAが代表を務める企業[注 6]を揶揄するようなフェイスマスクや同人誌を頒布。その同人誌はいわゆるヘイト創作と取れるものであり、原告Aや原告会社を揶揄する内容であった[注 7]。さらにその同人誌の奥付には「Specialthanks」と題し、被告らの名前のほかに第三者の無関係なTwitterアカウント[注 8]も記載されている。このことから、本同人誌の頒布やフェイスマスクの着用により原告と原告会社への名誉棄損等が侵害されたとするものである。また、関連してイベント以前にTwitterへ投稿した内容についても名誉棄損等が侵害されるものとしたものである。なお、イベントについては神戸かわさき事変を参照のこと。

事件番号[編集]

東京地方裁判所 令和3年(ワ)第11118号 損害賠償等請求事件

争点[編集]

争点1
同人誌の頒布に関するもの。
同人誌の頒布等により、原告への名誉棄損が成立するか(争点1-1)
同人誌の頒布とフェイスマスクの着用により、原告Aのパブリシティ権[注 9]が侵害されているか(争点1-2)
同人誌の頒布とフェイスマスクの着用により、原告Aの肖像権と名誉感情が侵害されているか(争点1-3)
争点2
ツイートにより原告の名誉棄損が成立するか
争点3
ツイートにより原告Aの肖像権と名誉侵害が侵害されているか
争点4
フェイスマスクとそのデータを廃棄する必要性があるか
争点5
原告による損害とその金額について
争点6
謝罪広告[注 10]が必要か

結果[編集]

  • 被告は原告Aに対し、275万円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
  • 被告は原告会社に対し、165万円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年 3%の割合による金員を支払え。
  • 被告は当該フェイスマスクを複製又は頒布してはならない。
  • 被告は前項記載のマスク及びこれを作成するために使用したデータを廃棄せよ。
  • 原告らのその余の請求をいずれも棄却する(広告掲載は金員によって充当)

判決文[編集]

1 本件同人誌の頒布等による原告らの名誉毀損の成否(争点 1-1)について(1) 本件同人誌には、前提事実(3)のとおりの記載がある。

また、甲及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、本件ゲームに係る同人誌やイラスト、漫画、小説等の一般慣例的な「同人活動」について、公序良俗に反するもの、ゲームシステムのあるもの、ゲーム内の音源又は画像を使用したもの、関係者及び関係会社に迷惑を与えるもの以外は基本的に許容する旨の二次創作ガイドライン(本件ガイドライン)をツイッター上で公表していることが認められる。 他方、本件同人誌には、原告らが本件同人誌の制作等に関与したことないしその内容を許容していることを示す明示的な事実の摘示はない。もっとも、本件クレジット表記には、「SPECIAL THANKS」として原告らの名称が表示されると共に、「原作」欄に本件ゲームの名称が表示されている。 (2) 検討 本件同人誌は、本件ゲームの愛好者向け同人誌即売会である本件即売会において販売された同人誌である。その内容も、本件ゲームそれ自体とは異なり、本件キャラクターを性玩具として扱うなどの本件キャラクター描写のような卑猥なイラストやストーリーを含む漫画を主な内容とし、全体としては、本件ゲームないし本件キャラクターを揶揄する趣旨も含むものと理解される。しかも、本件同人誌は、随所に原告A個人を揶揄する趣旨のものと理解されるイラストや文言による描写をも含む。本件クレジット表記に「TwiFemis」として3つのツイッターアカウントが挙げられているところ、この語がツイッター上でフェミニズムに関する言動を展開する人々又はその現象を指すインターネットスラングであることに鑑みても、本件同人誌は、本件クレジット表記に表記された者を揶揄する趣旨を強く含むものであることがうかがわれる。 このような本件同人誌の性質及び内容に鑑みると、一般的な読者の注意と読み方を基準とした場合に、本件ゲームの制作者である原告らが本件同人誌の制作に協力したと理解されるとは考え難く、また、本件ゲームの設定が本件同人誌の内容に沿うものと理解されるともいい難い。 しかし、他方で、本件ガイドラインの内容がやや抽象的なものであり、本件ゲームに係る二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲が必ずしも明確でないことを併せ考慮すると、上記基準によっても、本件同人誌の頒布という行為それ自体をもって、このような内容の二次創作作品が本件ガイドラインにより許容される範囲内に含まれ、許容されるものであるという判断を原告会社が行ったという事実を摘示するものと理解されることは合理的にあり得る。しかも、「SPECIAL THANKS」として本件クレジット表記に原告らの名称が明記され、原作として本件ゲームの名称が記されていることは、このような理解を強めるものといえる。 この場合、原告会社は、自ら管理するコンテンツである本件キャラクターに対する愛着や敬意の乏しい企業として、その社会的評価が低下すると見るのが相当である。また、原告Aについても、本件ゲームのプロデューサーとして本件ゲームのユーザーの間では著名な人物であることなどに鑑みると、原告会社とは別に個人としての社会的評価が同様に低下すると見られる。

このことは、本件店舗描写に関しても同様である。

(3) 小括 以上の事情に鑑みると、一般的な読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件キャラクターに対する卑猥な描写をその内容とすると共に、クレジット表記に「SPECIAL THANKS」と付して原告らの名称等を記載した本件同人誌を頒布する行為及び本件店舗描写は、原告らそれぞれの名誉を毀損するものといえる。これに反する被告の主張は採用できない。 — 

東京地方裁判所 令和3年(ワ)第11118号 損害賠償等請求事件 判決文 第 3 当裁判所の判断 より引用
3 本件同人誌の頒布、本件マスクの着用等による原告Aの肖像権及び名誉感情

の侵害の成否(争点 1-3)について (1) 肖像権侵害の成否 人はみだりに自己の容貌,姿態を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有するところ,ある者の容貌,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合的に考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決せられる(最高裁平成 17 年 11 月 10 日第一小法廷判決・民集 59 巻 9 号 2428 頁参照)。 撮影された写真が雑誌等に掲載されるなどして公開された場合も,同様の判断枠組みが妥当すると考えられる。前記 2 のとおり、本件マスクは、原告Aの写真を粗雑な方法で加工したも のであり、原告Aの肖像の写真(甲 10)とは相応に異なる印象を与えるものではある。しかし、本件同人誌では本件マスクが原告Aの「リアルマスク」と紹介されていること、原告Aが本件ゲームの愛好者等の間で著名であること等の事情に照らすと、被告が本件マスクの写真が掲載された本件同人誌を本件マスクを着用しながら頒布した行為は、原告Aの写真を無断で公開した場合と同様に理解することができる。また、本件同人誌の内容、とりわけ本件マスクの紹介の仕方等に照らすと、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で本件マスクを作成し、これを着用の上、その写真を掲載した本件同人誌を頒布したといえる。 以上のような写真の使用目的及び使用態様等に照らすと、本件マスクに係る被告の各行為は、自己の容貌等の写真をみだりに公開されないことについての原告Aの人格的利益を侵害し、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものというべきであり、不法行為法上違法と認めるのが相当である。 これに反する被告の主張は採用できない。

(2) 名誉感情の侵害 前記のとおり、被告は、専ら原告Aを揶揄する目的で本件マスクを作成し、これを着用の上、本件即売会にて本件同人誌を頒布した。加えて、本件同人誌には、原告Aと同定される男性イラストに係る本件男性イラスト描写が掲載されている(前提事実(3))。また、本件店舗描写についても、本件同人誌の他の記載と合わせると、「(省略)」などの記載は原告Aを指すことが明確に理解される。 このような被告の行為は、原告Aに対する社会通念上許される限度を超える侮辱行為であり、原告Aの人格的利益(名誉感情)を侵害する違法なものとして、不法行為に当たるとするのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。 — 

東京地方裁判所 令和3年(ワ)第11118号 損害賠償等請求事件 判決文 第 3 当裁判所の判断 より引用

秀逸な点[編集]

オンラインゲームの運営側が角に批判的なユーザー、いわゆるアンチを相手にした裁判であり、二次創作という名の過度な批判に対して一石を投じる裁判例となるとされている。昨今ではガイドラインに従った二次創作を自由にし、ユーザー同士での交流や新たなユーザーを呼び込む動きが多くみられており、原告の会社が運営するゲームについても広く二次創作が行われているものである。しかし、それを逆手にとって批判をするためだけの二次創作をし、超えてはいけないラインをK点越えしたユーザーに対して行われた裁判であり、特にや面に立つことの多いゲームプロデューサーなどが救われる可能性のある裁判例であろう。オンラインゲームの運営には何を言っても良いというような風潮がある中、具体的なラインを示した秀逸な裁判例であり、何を以て不法行為になるかをわかりやすく示した判決文であるといえよう。

パチンコ攻略本裁判[編集]

概要[編集]

原告であるAはパチンコパチスロの攻略情報を商品としている被告[注 11]の情報が正しいと信じ、40万円で攻略情報を購入。翌日と翌々日の二日で20万円[注 12]を費やしたものの儲けることができなかった[注 13]。被告の勧誘は明らかに虚偽であるため不法行為であるとし、情報の購入費用など90万円の損害賠償を請求するものである。

事件番号[編集]

広島簡易裁判所 平成17年(ハ)第2302号 損害賠償請求事件

請求内容[編集]

90万円の内訳

  • 情報料 40万円[注 14]
  • パチスロで負けた分 20万円
  • 慰謝料 10万円
  • 弁護士費用 20万円

結果[編集]

  • 被告は原告に対して66万円とこれに対する平成17年7月6日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払う。
  • 原告のその他の請求を棄却する。
  • 訴訟費用は原告が1/3、被告が2/3で負担する。

判決文[編集]

原告本人尋問によれば,この20万円という金額は,原告らが引っ越すために蓄えていた費用であった。そして,原告は,夫とともに,きっちり20万円を持ってパチスロに出かけ,最終的にその全額を失っている。

 原告が攻略本に記載されている誘発手順をそのとおり行おうとしても,到底,素人にはできるものではなかったが,それでも,原告は,3日くらいで取り戻せるという説明を受けていたため,このまま継続すれば取り戻せると信じて,最後まで断念することなく,結局,20万円全額を失ったものである。
 したがって,この金額は前記不法行為と相当因果関係にある損害と解される。
 次に,慰謝料について検討する。
 原告は,引越費用に蓄えた大切な金銭を全てパチスロで失うことになった。しかし,そもそもパチスロにより確実に儲けようとすること自体が,労働によらず安易に利益を受け,かつ生活手段の一部としようとするものであって,これらは単なる趣味娯楽の域を超えるものである。また,原告に見通しの甘さがあったことも否めない。
 このような原告の動機等を勘案すると,本件において,前記被害の回復のほかに,特段,原告に慰謝料を認めるべき事情はない。
 次に,本件訴訟提起に至る事情から,弁護士費用として6万円を認めるのが相当である。

広島簡易裁判所 平成17年(ハ)第2302号 損害賠償請求事件 第3 当裁判所の判断 より引用

秀逸な点[編集]

 明らかに怪しい情報商材を購入し、パチスロで負けた分まで戻ってきている点やパチスロで稼ごうとする原告の見通しの甘さも指摘している点、請求していた慰謝料が認められていない点が興味深い。

ワザップジョルノの裁判が本当にあったらこんな感じなのかもしれない。

脚注[編集]

  1. 弁護士を立てず、原告自ら訴えるもの
  2. かっぱえびせんの販売会議において、キャッチフレーズが生まれるきっかけが描かれている
  3. 控訴審で追加
  4. 確認の訴えが不適当であるとされたため
  5. 棄却は審理したうえで訴えを退けられることを指す
  6. 両者とも本件の原告
  7. 原告会社が展開するイベントを揶揄したものもある
  8. Twitterアカウントには「TwiFemi」と書かれており、いわゆるツイフェミを揶揄したものとされ、本同人誌内容と照らし合わせても皮肉っている悪趣味なものである
  9. 端的に言えば、有名人や著名人など、その名前や写真で顧客を引き寄せることができる場合、第三者に使用権を与えることができる権利
  10. 本件では被告のTwitterにおいて、固定ツイートで1年間とされている。なお、被告のtwitterは凍結されている
  11. 法人であり、Webサイトもあるが現在では更新も止まっている
  12. 原告の夫と打っている
  13. なお、打ったのは吉宗である模様
  14. 判決文においては送金額