暗黒星の陥穽

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暗黒星の陥穽』(あんこくせいのかんせい、原題:: The Mine on Yuggoth)は、イギリスのホラー小説家ラムジー・キャンベル1964年に発表した短編小説。クトゥルフ神話の1つ。

1964年にアーカムハウスから短編集『The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants』に収録されて発表された[1]

あらすじ[編集]

ユゴス星の甲殻生物のテクノロジーは、不死を実現した。その方法とは、ユゴスにで採掘される<トゥク=ル>金属で特製の容器を作り、35年ごとに脳を別の身体に移し替え続けるということである。また甲殻生物は、地球の金属を採掘するために、ユゴス星と地球上を門(ワープ装置)で繋いで地球でも活動している。これらの事実は、禁断の文献に記録される。

1920年ごろ、ブリチェスター大学で黒魔術カルトが摘発される[注 1]。団体は解体され、多くのメンバーが懲りてやめるが、エドワード・テイラーは逆にのめり込む。禁断の文献を読んだテイラーは、不死の秘法に魅せられ、<トゥク=ル>金属を入手したいと考えるようになる。そのために、ユゴスの甲殻生物が地球上に建造した門を突き止め、その門を逆に辿ろうと計画する。

必要な情報が「グラーキの黙示録」に書かれているが、黙示録はカルトが潰れたことでテイラーには手が届かなくなっていた。しかし、ダニエル・ノートンが黙示録を所持しているという話を聞き、テイラーはノートンに会いに行く。ノートンはもう怪異には関わりたくないと言い、貴重な文献である黙示録をあっさりと手放す。テイラーは、門は「悪魔の階(きざはし)」であることと、甲殻生物すら恐れて近づかない怪物がいることと、防御呪文に用いる「アザトートの異名」を知る。

テイラーは岩山「悪魔の階」を登攀し、頂上に建つ塔の中へと入り、門を通ってユゴス星の夜の都市へと出る。だが、住人の気配が全く無かった。いざとなればアザトートの名で退散させられるはずだと思い、テイラーは歩を進める。しかし採掘坑で緑に発光する怪物を目にしたテイラーは、あまりの恐怖に一目散に逃げ出す。塔に戻り、門を通って空間を超え、岩山を駆け下り、文献を破棄する。

錯乱して保護されたテイラーは「あれがユゴスから門を越えて地上に降りてくる」などと意味不明のたわごとを主張し、精神療養所送りとされる。またレントゲン検査により、肺が人間とは似ても似つかない物に変質していることが判明したが、にもかかわらず生きている。医師たちは、無用な混乱を起こす必要はないだろうと判断し、公表を伏せる。

登場人物・生物[編集]

人物
  • エドワード・テイラー - オカルティスト。1924年に24歳。不死を求め、<トゥク=ル>金属を入手したいと考える。
  • マイケル・ハインズ - カルトの元メンバー。テイラーにノートンを紹介する。
  • ダニエル・ノートン - ゴーツウッドの外れに住む農夫。耳が遠く、頭の回転も鈍い。「グラーキの黙示録」の完全版を所有する。
生物
  • 甲殻蜥蜴 - ユゴスや地球で、その惑星でしか入手できない金属を採掘している。怪物を恐れて、炭鉱の周囲から逃げ去っていた。必要以上に近づく人間は宇宙空間に放り出したり[注 2]、怪物への生贄とする。
  • 怪物 - 「地に穿たれし採掘坑に棲めるユゴスの裔」。ユゴスの甲殻生物すら恐れて近づかない。緑の光芒を発しつつ脈動し蠢く。
  • アザトート - 異名があり、聞くだけでユゴスの甲殻生物は恐れて退散するという。

用語[編集]

文献
  • ネクロノミコン - テイラーの蔵書の一つ。大英博物館が所蔵する本[注 3]の一部複写。甲殻蜥蜴たちがユゴスと地球上を空間で繋いでいるらしいことが記されている。アザトートの異名が記されているが、記述が不完全。
  • グラーキの黙示録 - 大学のカルトが所持していたが、カルトが解体されたことで行方不明となる。しかしノートンが完全版を所持しており、テイラーの手に渡る。ユゴスの採掘場付近には甲殻蜥蜴すら恐れる化物がいることや、アザトートの異名が記されている。
  • ヨハネス・ヘンリカス・ポットの無名の書 - テイラーの蔵書の一つ。あまりのおぞましさに、イエナの出版社に上梓を拒否されたという曰くがある。不死の秘法が書かれている。
用語
  • 「悪魔の階(きざはし)」 - ブリチェスター近郊に聳える、高さ200フィート以上の岩山で、急斜面がまるで天に向かう階段のように見える。悪魔が空から降りてきたという伝説があることから、そう呼ばれている。頂上には塔が建つ。
  • バリヤー(隔界面) - 「悪魔の階」頂上の塔内に設置されている装置。境界面を通過する際に、身体の内部を作り変える[注 4]。これにより、環境が異なるユゴスと地球で、甲殻生物が活動できるようになっている。逆に地球人であるテイラーがユゴスに行くことも可能。

その他[編集]

アザトートの異名について、「ネクロノミコン」にはNで始まると書かれ、「グラーキの黙示録」には完全な名が明記されている。この名は「トンドの悪魔」「ヰ・ゴロゥナクの僕」「ユゴスの常闇に棲めるもの」などを退散させる呪文として作用するという。

また作中には<ざあだ ふぐら・そーろん>(新クの表記)[2]という謎の言葉が登場し、これを受けてTRPGでは「ザーダ=ホーグラ」がアザトートの二枚貝の姿の化身体ということになっている。

ユゴスと地上を繋ぐワープ装置(バリヤー)は、『湖畔の住人』でも言及される「タグ=クラターの逆角度」というものであるらしい。新クでは「タフ=クレイトゥールの天使」と表記されている[3]が、これはangle(角度)をangel(天使)に取り違えている。『湖畔の住人』では、邪神グラーキが地球にやって来た方法として隕石が挙げられているが、異説として「タグ=クラターの逆角度」を用いた、つまりユゴスから空間移動してやって来た可能性が挙げられている。

収録[編集]

  • 国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系4』岩井孝
  • サウザンブックス社『グラーキの黙示 1』森瀬繚訳(邦題『ユゴスの坑』)

関連項目[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ヴェールを破るもの』でも言及される。
  2. 気圧差で、肺臓が破裂したり、顔が青ぶくれになって惨死する。
  3. ラヴクラフト設定における、大英博物館が所蔵するネクロノミコンの15世紀ラテン語版のこと。
  4. どこでもドアテキオー灯

出典[編集]

  1. 国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系4』解題435-437ページ。
  2. 国書刊行会「新編新ク・リトル・リトル神話大系4」『暗黒星の陥穽』336ページ。
  3. 国書刊行会「新編新ク・リトル・リトル神話大系4」『暗黒星の陥穽』321ページ。