屋根の上に
『屋根の上に』(やねのうえに、英:The Thing on the Roof)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・E・ハワードによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ウィアード・テイルズ』1932年2月号に掲載された。
本作はハワードが創造した魔道書『無名祭祀書』が重要な役まわりを果たしており[1]、文献に複数の版があり内容が異なる(情報が抜け落ちる)ために初版を探すというストーリーが展開される[注 1]。また同じくハワードが創造した詩人ジャスティン・ジョフリは直接登場しないものの、冒頭に彼の詩が引用されている。
あらすじ[編集]
1793年に中米ホンジュラスの密林を訪れたスペイン人冒険家のフアン・ゴンザレスは、「地下に異常なものが隠された神殿」という原住民の伝説を、懐疑的に記録する。100年以上後、ドイツ人神秘家のフォン・ユンツトはこの神殿を訪れ、「蟇の神殿」と名付けたうえで著書「無名祭祀書」に記録する。この文献は版を重ねる中で、誤訳や検閲により情報が抜け落ちる。20世紀、山師タスマンが偶然神殿に迷い入るも、時間も道具もなく引き返す。タスマンは「無名祭祀書」の第3版で、神殿とミイラへの簡単な言及をみつけ、かつての神殿のことだと察する。第2版には、誤訳だらけの中で「宝玉は鍵である」と記載されていた。タスマンは財宝伝説の裏付けをとるべく、初版を読まねばならないと結論付ける。
その後、タスマンはロンドン在住の考古学者であるわたし(語り手)に、「無名祭祀書」の初版の入手を要求する。タスマンはかつて、わたしの研究に難癖をつけて信用を傷つけようとしたことがあったが、本が見つかれば先の非難を全面撤回して誌上に謝罪広告を掲載すると言われ、わたしは要求を受け入れる。後日、わたしが入手した初版本から神殿の記述を確認したタスマンは、急いで中米へと向かい、神殿に入る。彼はミイラの持つ「蟇形の宝玉」を奪い取って祭壇の隠し扉を開いたが、中に財宝などは無く、失意の彼は宝玉だけを持ち帰る。
タスマンはわたしを呼び出し、探検の顛末を語る。タスマンは中米からずっと何かに追跡されており、言動も要領を得ない。さらに屋根の上からは、蹄を踏み鳴らすような足音が響く。わたしはタスマンが完全に狂っていると確信しつつ、本を読み返して「眠れるものを乱すなかれ」「神殿の神こそ、神殿の霊宝なり」という言葉から、タスマンが持ち帰った宝玉が神そのものであり、彼が封印を解いてしまったことに気づく。
その後、タスマンは頭部を砕かれて死ぬ。現場には蹄の跡と粘液が残され、宝玉は無くなっていた。
主な登場人物・用語[編集]
- わたし - 語り手。ロンドン在住の考古学者。題材はユカタン。タスマンの依頼で「無名祭祀書」の初版を入手する。
- タスマン - 考古学界で悪評高い山師。強欲で軽率な性格をしており、「無名祭祀書」の初版を入手するも、熟読しなかった。
- フアン・ゴンザレス - 18世紀末のスペインの冒険家。ホンジュラスの神殿について懐疑的に記す。
- フォン・ユンツト - 19世紀前半のドイツの神秘家。著書「無名祭祀書」に「蟇の神殿」を記録する。著書内で「鍵」という言葉を多用する。一般的には、狂人の妄想と評される。
- ジャスティン・ジョフリ - 1926年に死去した狂詩人。詩『旧世界より』にて、屋根の上で蹄を打ち鳴らす怪物を詠む。
- 「蟇の神殿」/「大蟾宮」[注 2] - インディオ以前にホンジュラスの密林に住んでいた民族(古代人または非人間種族)が築いた。触角と蹄を備えて嘲笑する神を祀る。宝玉を鍵として用いることで、隠し通路が開く。
- 「赤い宝玉」 - 神官のミイラが身につけていた真紅の宝玉。蟇の形に加工されている。銅の鎖には文字が刻まれており、ハンガリーの黒の碑の文字に似ている。
怪物について[編集]
蟇の神殿で崇拝された怪物については、作中では名前は設定されていないものの、後にロバート・M・プライスが、本作を含むハワードの作品群(他に黒の碑、バル=サゴスの神々など)に登場する怪物は、全てゴル=ゴロスであり、つながりがあったと説明している。その一方で、プライスはヒキガエル(蟇)に似ていることでツァトゥグァの化身とする説を否定している。
クトゥルフ神話TRPGにおいて、本作の怪物が「ツァトゥグァの末裔(Scions of Tsathoggua)」と名付けられ、『黒の碑』の怪物はゴル=ゴロスとされている。しかしツァトゥグァの末裔の解説ではゴル=ゴロスとの関係が示唆され、またゴル=ゴロスの信仰地の一つがユカタン半島とされるなど、両者の混同もある。作中でも古代文字を介して、『黒の碑』と本作は関係性がほのめかされている。[注 3]
収録[編集]
関連作品[編集]
関連項目[編集]
- オルメカ文明 - 紀元前1200年ごろから紀元前後にかけて中米に実在した文明。蟇の神殿は、似ておらず、さらに古いとされる。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』336ページ。