学校指定カバン
学校指定カバン(がっこうしていかばん)とは、生徒通学用に学校が規格やデザインを決めるカバン。
概要[編集]
中学生や高校生が通学用に用いるカバンのうち、学校が規格やデザインを決め、校則などで通学用として使うように指定したカバンのことをいう。
生徒は入学前に体育着や上履きなどの他の学用品と同様に、学校から通学用の携行品として指定された特定の鞄を買うので、学校指定カバン(単に指定カバン)と言われることが多いが、デザインや材質は、地域や学校によってさまざまなため、呼び方にもいろいろある。
昭和30年以降、主に高校や一部の私立中学校では、従来の肩掛けタイプの通学鞄に変わり、牛革又は人工皮革でできた取っ手が1本タイプの手提げ鞄(リーダー型スクールバッグ)が急速に普及し始め、学校が通学鞄として指定する場合もあったが、このタイプは学生が市販されている商品を自主的に購入して使う場合も多く、学生鞄とも呼び、指定カバンとは区別される。
この学生鞄は、昭和54年頃から人工皮革のものが、肩掛けカバンと同様に通学鞄として広く普及したが、平成元年頃から高校を中心に学生服のブレザー化やファッション化の流れと軌を一にして、従来型の学生鞄から、より軽く収納力があり、現代的なイメージをもつ新しいタイプのスクールバッグへの切り替えが学校の特色づくりを目指す高校を中心にして進み、学生鞄は急速にその姿を消していった。[1][2]
一方、肩掛けカバンは、学生鞄よりも前に普及しており、大手鞄メーカーによる大量生産ではなく、学校側の企画が加わったオリジナル通学鞄であることが多く、地域の鞄製造業者に特注して小ロット生産したものだった。このため、肩掛けカバンは、時代や地域、学校によって多種多様である。
高校に比べ学生服の自由化への社会的な要請が乏しかったため、肩掛けカバンを通学鞄として指定していた中学校では、男子は詰入りの学生服、女子はセーラー服が主流の中学校を中心に、新型スクールバッグへの切り替えは高校ほど急速には進展しなかった。 また、何を通学鞄として指定するかは、新型タイプの通学鞄への切り替えは、学校ごとの判断に委ねられていたことから、長年定着していた指定カバンを切り替えることへの動機づけが乏しかった。
しかしながら、1989年(平成元年)以降になると、教科書や参考書などの学習用具の多量化から生徒の体への負担の軽減や安全対策などを考慮した機能性に優れた新たな指定カバンの要請が強まり、新型スクールバッグへの切り替えは、中学校においても徐々に進められていった。[3]
このように、中学校においても従来型の肩掛けカバンを指定カバンに切り替える学校は着実に増え、現在では一部の地域の中学校や伝統を重んじる私立学校などで維持されているにとどまっている。[4]
指定カバンというジャンルは、学生鞄やその他の新型のスクールバッグも含めると幅広いが、本稿で取り扱う指定カバンは、主に、中学生が通学用に使っていた学校指定カバンとし、昭和40年頃から令和元年頃までの期間における肩掛けカバンの流行などについて記述する。 また、通学用鞄には、弁当箱や体育着などを入れるための補助的な鞄として補助鞄やサブバッグなどもあるが他稿に譲る。
変遷[編集]
昭和30年代頃から全国的に中学校を中心に指定カバンとして普及していたのは、鞄を片方の肩からななめ掛けするための肩ベルトと鞄の本体部分の材質が帆布製の肩掛けカバンだった[5]。 この肩掛けカバンは、日露戦争直後の明治37~38年頃から、軍隊で使われていた雑嚢(ざつのう)をまねたななめ掛けして使う布製鞄が通学用の鞄として学生の間で流行し始めたものが原型である。その後、新たなデザインが考案され、大正年間には現在の肩掛けカバンの形に近い四角いフォルムの麻製や帆布製の鞄が学生の間に定着していった。[6]
この肩掛けカバンは、生成りの帆布を主な材料としていたので、ズック鞄と呼んだり、生地が白く見えるため、白かばんと呼んだりした。ただ、帆布を主な材質としながらも、汚れや防水対策のために表面だけは白のほか、紺、緑、エンジといった着色したナイロン素材が使われる場合もあり、必ずしも外見上、生成りの帆布ばかりではなかった。
従来の肩掛けタイプの指定カバンに対しては、教師や保護者から安全面、健康面での問題点を指摘する声もあり、指定カバンのモデルチェンジを機会に、より機能性に優れた新型の指定カバンに切り替える学校が増えていった。[7]
このようにして、通学用鞄の自由化の風潮とあいまって、指定カバンの多様化が進み、従来の肩掛けタイプや学生鞄から、新しいタイプの指定カバンが主流を占めるようになっていった。[8]
新型の指定カバンの中でも、手提げ(トート)、肩掛け(ショルダー)、背負い(リュック)式の3つの持ち方が可能な3WAY式の通学用のカバンが平成元年前後から多くの中学校に導入され、普及していった。この指定カバンは両肩から掛けて使用することから、従来の肩掛けカバンよりも体への負担が少なく収納力、防水性、耐久性といった機能性を重視したものであった。
しかし、平凡なデザインと掛け方の工夫を奪った指定カバンの評判は必ずしも良くはなく、あえて変則的な掛け方をする生徒もあった[9]。
これに対し、市販品に校章などがプリントされたものや企画段階から学校の独自色を出し、その学校を特色づけているものもある。
こうした指定カバンの自由化がもたらした弊害もある。たとえば、静岡市立高松中学校がデサントに特注、adidasのマークの入った15000円の鞄の購入を1994年から入学者に強制し、批判を集めた。デサント側はむしろ利益を切り詰めたとするが、この時期の静岡市内他校の指定鞄の価格は2700円から8800円程度であった[10]。また、一部の学生の間では、高校の通学鞄として、又は補助鞄として、あえて他校の指定カバンを買い求めて使うこともあり、特に、有名私立高校の指定カバンは、一種のブランドとして学生の人気を集め、学生間の売買でトラブルになるケースもあった。
流行[編集]
学生服などと同様に、生徒が個性をアピールする時にアレンジしたりカスタマイズしたりする対象となり、一種のファッション性を持つ。個性あふれる落書きやアクセサリーなどで飾り付ける、いわゆるデコファッションが流行り、指定カバンもその対象となった[11]。
しかし、学校や保護者側が非行防止や健全育成指導の一環として、生徒や学生の生活の乱れを改善する対策が考えられるようになった。また、社会経済情勢の変化もあって、こうした指定カバンへのデコ文化は急速に衰退した。
脚注[編集]
- ↑ アトナ商会「日本のスクールバッグの歴史」
- ↑ 株式会社小山鞄製「学生鞄の歴史」
- ↑ [https://ace-npo.org/fujikawa-lab/file/pdf/bulletin/2010/suzuki.pdf 鈴木郁衣、小杉満和子「養護教諭から捉えた児童生徒の通学時の携行品に関する実態 ̶授業実践に生かす一視点として̶」2010年3月では肩掛けカバンの問題点として「利き肩ばかりにかけていると身体のバランスは崩れることはあるかもしれない。」という意見とともに指定カバンへの切り替えが紹介されている。]
- ↑ 芝中学校・芝高等学校「中学入学式」
- ↑ 有限会社サンペイ鞄店「帆布製肩掛けカバン」
- ↑ 東洋経済ONLINEモノ・マガジン編集部「カバン改造がかつて不良学生の証だった理由 学生鞄の誕生」
- ↑ [https://ace-npo.org/fujikawa-lab/file/pdf/bulletin/2010/suzuki.pdf 鈴木郁衣、小杉満和子「養護教諭から捉えた児童生徒の通学時の携行品に関する実態 ̶授業実践に生かす一視点として̶」2010年3月では「格好つけて背負うかたちでは持ちたくない子も多く、肩にかけてくることが 多い。」という事例とともに指定カバンへの切り替えが紹介されている。]
- ↑ 株式会社小山鞄製「学生鞄の歴史」
- ↑ 「リュックサックのような肩掛け用のひもがあるが、両肩に掛けるのは「ダサイ」と年頃の女子たちに不評。女子生徒も中学2年のころから肩掛けに変えた。」という主旨のエピソードが紹介されている。『西日本新聞』2017年5月14日付
- ↑ 「1万5000円のカバンを指定 新入生の全員が購入 静岡・高松中」『毎日新聞』1995年3月25日付(静岡)
- ↑ 鷺ノ宮やよい「90年代の女子高生はスクールバッグを潰す! 汚す! 他校のカバンと交換する! など…今考えると謎文化が流行していました」
関連項目[編集]
- 鞄 - 鞄(かばん)は、荷物の運搬を目的とした取っ手がついた主として革や布でできた袋状の服飾雑貨のことである。
- ランドセル - ランドセルは、日本の多くの小学生が通学時に教科書、ノートなどを入れて背中に背負う鞄である。
- 校則 - 校則(こうそく)とは、学校内部における規則のうち、特に在学生自身に関わる定めのことである。
- 学生服 - 学生服(がくせいふく)または学ラン(がくラン)は、日本の学生・生徒が着用することを目的に規定された服の中で、男子向けの、主に詰襟の上着とズボンの上下セットの衣服である。
- 服装の乱れ - 服装の乱れ(ふくそうのみだれ)とは、日本において既存社会集団の服装に関する規範に適合しない個人の服装の状態を指す言葉である。
- 不良行為少年 - 不良行為少年(ふりょうこういしょうねん)とは、自己または他人の徳性を害する(非行同然の)行為をしている少年および少女のことを意味する。
- スケバン - スケバン(助番、スケ番)は、中学校、高校において不良行為をする女子生徒のことである。
- 中学生日記 - 1980年4月20日放送分にて「ふといカバン」というタイトルで放送された。これは鞄潰しをテーマにした内容で、クラスメイトと同じように学生鞄を潰したいけれども、なかなか実行に移せないという優等生の心の内が描かれた。
- 3年B組金八先生 - 『3年B組金八先生』(さんねんビーぐみ きんぱちせんせい)は、1979年(昭和54年)から2011年(平成23年)までの32年間にわたって、TBS系で断続的に制作・放送されたテレビドラマシリーズ。日本の学園ドラマの金字塔と称される作品である。