墓はいらない
『墓はいらない』(はかはいらない、われ埋葬にあたわず、原題:英: Dig Me No Grave)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・E・ハワードが1937年に発表した短編ホラー小説。『ウィアード・テイルズ』1937年2月号に掲載された、ハワードが生前に最後に発表したクトゥルフ神話作品である。語り手のキロワン教授とコンラッドは、過去作『夜の末裔』から引き続いての登場人物である。
東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて「典型的な<妖術師物語>の一編だが、マリク・タウス[注 1]、コスなど、独自の神話アイテムが盛り込まれている」[1]と解説している。
ラヴクラフトが創造した神話用語「コス」をハワードが導入している。固有名詞コスは、ラヴクラフト設定では主にドリームランドの用語であるが、ハワードは地名として用いている。この固有名詞は、リン・カーターが神の名前(大地の神々の一柱)としているという、難解で複雑なことになっている[注 2]。またハワード神話らしく、「カトゥルス」への言及もある[注 3]。
あらすじ[編集]
老オカルティストのジョン・グリムランは、唯一の友であるジョン・コンラッドに遺言状を渡し、死ぬまで決して開封しないことや、死んだら正確に指示に従うことを約束させる。1930年3月10日、グリムランは発作に倒れ、コンラッドに遺言状を破り捨てるようわめきながら、苦痛に悶えて息を引き取る。コンラッドは遺言状を開封して、約束通りに指示に従うことにする。
遺言状には「書庫の黒檀のテーブルに遺体を置き、周囲に7本の蝋燭を灯し、別途記す呪文を唱える」よう指示があり、墓は不要とされていた。またグリムランの財産は、マリク・タウスという東洋人に全て譲ると取り決められていた。怖くなったコンラッドは友人のキロワンに助けを求める。キロワンは、マリク・タウスは人名どころか絵空事の悪神の名であると、困惑する。
コンラッドはキロワンを伴ってグリムランの屋敷に戻る。すると蝋燭に火が灯されており、グリムランの友人を名乗る東洋人がいた。コンラッドとキロワンは男の雰囲気に呑まれ、彼の事務的な指図にぼんやり従う。コンラッドが読み上げる呪文の紙には、グリムランが悪魔と契約して長命を得たことや、今夜が悪魔への支払いの期日だということなどが書かれていた。コンラッドの声は震え、読み進めるごとに蝋燭が1本ずつ消えていき、キロワンも恐怖に身動きができない。コンラッドが読み終わると同時に、最後の蝋燭の炎が消え、部屋は闇に包まれる。奇怪な叫び声が上がり、悪臭がたれこめ、混乱したコンラッドが明かりをつけると、東洋人とグリムランの死体が消えていた。
2人が炎上する屋敷から脱出した際、巨大な生物がグリムランの死体を掴んで空を飛んでいた。
主な登場人物[編集]
- キロワン - 主人公の一人。語り手。
- ジョン・コンラッド - 主人公の一人。グリムランの唯一の友人であり、死を看取り遺言を託された。一方で、秘かにグリムランの過去を調べていた。
- ジョン・グリムラン - 陰鬱な老オカルティスト。1630年3月10日に生まれ、50歳で悪魔と契約し、250年の命を得るも、支払いの刻限が迫ることに恐怖していた。最終的には契約の対価に全てを取り立てられる。
- 東洋人 - 鋭い目と黄色のローブの男。グリムランの友人を名乗る。
- 村の老人 - グリムランが、屋敷に引っ越してきてから20年間まったく老け込んでいないようだと証言する。
- フォン・ベーンク教授 - ウィーンの教授。80歳以上の高齢。コンラッドからグリムランの存命を聞き驚く。50年前に、50歳ほどのグリムランに会ったことがある。
- 「コスの黒き城の帝」 - グリムランが契約した暗黒神。死の町コスに住まう、翼ある存在らしい。中東の邪悪神マリク・タウスの名で呼ばれ、真鍮製の孔雀の偶像で崇拝され、回教徒からはシャイターン(悪魔)とみなされる。貌を秘め隠すとされ、他の異称にサタナス、ベルゼブブ、アポレオン、アーリマン、エデンの蛇、セイタンなどがある。[注 4]
収録[編集]
関連作品[編集]
- 夜の末裔、黒の詩人 - キロワンとコンラッドのコンビが登場する。
- アッシュールバニパルの焔 - ハワードが固有名詞コスについて言及した作品であり、こちらでは神名として扱われている。
関連項目[編集]
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』348ページ。