信頼の原則

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信頼の原則とは、相手が規則や秩序に沿った行動をとると信頼できる場合、その相手が不適切な行動をとったことにより事故が生じた場合に特別の事情がない限り加害者の責任を制限するという刑法上の法理である。もともとはドイツで生まれた法理とされており、日本においては1960年代に定着したとされている[1]。もともとは交通事故裁判により生まれた法理であるものの、現在では医療過誤や工事災害など複数の当事者がいる事例にも適用されている。

概要[編集]

道路交通を例とすれば、自動車のドライバーには道路交通法の遵守のほかに事故を回避するという義務[注 1]を負っている。ある道路に接続する側道がある場合、道路を走っているドライバーは側道から自動車や人が飛び出してくる可能性(予見義務)や飛び出してきても安全に回避できなければならない(回避義務)というものである。しかし、道路が優先道路であり側道に一時停止の標識が設置されていたりする場合において信頼の原則が適用されることがある。この件については判例が出ており[2]、一時停止が維持されている側道の自動車に特段の事情がない限り、側道から一時停止せずに優先道路に進入することを優先道路側が想定して進行する義務はないとした。

かつては客観的な証拠がなく、事故の状況が当事者や目撃者の証言に頼っていたことから信頼の原則を立証するのが難しく、当事者同士が動いている場合はどちらにも少なからず過失があったとされることが多かった。しかし現在はドライブレコーダーなどの普及により客観的な証拠が残りやすく、事故の予見性や回避可能性を判断しやすくなったことからより妥当な過失割合が出されるようになっている[注 2]

なお、交通事故における信頼の原則は自動車対自動車の事故にのみ適用され、自動車対歩行者に対しては適用されないという考えが一般的であるが[3]、歩行者が「意図的に」自動車の進路上に飛び出した事故で「車両側の信号機が青であり、歩行者側が車の接近を認識している場合(意図的に飛び出していることから)は立ち止まるとドライバーが判断することが合理的である」として信頼の原則を適用したと思われる事例も出ている[4][注 3]

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. 一般には事故の原因に対する予見義務とその原因を回避する回避義務の2種類とされる
  2. かつては停止車両への衝突以外で10対0が判断されることは少なかったが、センターラインオーバーによる正面衝突事故などでも10対0の判断がなされることが増えている
  3. このケースの場合は前述のように「衝突目的」で意図的に飛び出しているため、道路利用者としての歩行者側の過失ではないということに注意。先にも述べたが、歩行者にどんなに大きな過失があろうとも信頼の原則は適用されない、という考えが一般的である

脚注[編集]

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  1. https://glim-re.repo.nii.ac.jp/record/2768/files/daigakuinhogaku_3_217_232.pdf 信頼の原則の民事上の適用に関する一考察
  2. https://www.5225bengoshi.com/guide/detail/masterid/46?start=45 交通事故における過失割合をめぐる裁判例①~優先道路側の過失割合がゼロとなる場合(名古屋高等裁判所平成22年3月31日判決)
  3. https://www.itarda.or.jp/contents/167/info100.pdf ITARDA INFORMATION 交通事故分析レポートNo.100
  4. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f360da6483a76f722609dfd97ab664848aea86fe 横断歩道の女子中学生を時速84キロではねて死亡させるも「無罪」に…なぜか?