乳癌

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
Wikipedia-logo.pngウィキペディアの生真面目ユーザーたちが乳癌の項目をおカタく解説しています。

乳癌(にゅうがん)とは、乳管から発生するのことである。このため、乳管癌(にゅうかんがん)とも呼ばれる。小葉から発生する乳癌もあり、こちらは小葉癌とも言われる。乳管癌か小葉癌かは乳癌組織を顕微鏡で病理検査して区別する。大抵は乳癌とはこの2つに分類されるが、他にも特殊な乳癌の例は存在する。

概要[編集]

症状[編集]

自分で気付く症状としては乳房のしこり、乳房のえくぼなど皮膚の変化、乳房周辺のリンパ節の腫れ、遠隔転移(胸膜腎臓)の症状がある。癌の種類や性質によって広がりやすさ、転移のしやすさは大きく異なる。乳癌が進行すると腫瘍が大きくなり、注意深く触るとしこりがわかるようになる。ただし、しこりがあるからと言って必ずしもそれが乳癌であるというわけではない。

乳頭から血の混じった分泌液が出ることもある。乳癌が乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなひきつれが出来たり、乳頭や乳輪部分に湿疹やただれができたり、時にはオレンジの皮のように皮膚がむくんで赤くなったりする。乳房のしこりがはっきりせず、乳房の皮膚が赤く、痛みや熱を持つ乳癌は炎症性乳癌(えんしょうせいにゅうがん)と言われる。

乳房周辺のリンパ節に転移すると、わきの下などにしこりが出来たり、リンパ液の流れがせき止められてしまうため、腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕がしびれたりすることがある。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合には骨転移が疑われ、負荷がかかる部位に骨転移がある場合は骨折を起こす危険があり、これを病的骨折という。肺転移の場合は咳が出たり、急に苦しくなったりする。肝臓の転移は症状が出にくいが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲が無くなったりすることがあり、さらに痛みや黄疸が出ることもある。

原因[編集]

  • 女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっており、体内のエストロゲン濃度が高いこと、例えば閉経後の女性ホルモン補充療法などでもリスクが高くなる可能性がある。
  • 閉経後の肥満。
  • 高齢での初産。
  • 成人期の高身長。
  • 早い初経年齢。
  • 遅い閉経年齢。
  • 出生時の体重が重い。
  • 習慣的な飲酒。
  • 喫煙。
  • 糖尿病
  • 食生活などの環境因子(乳癌発症者の90パーセントから95パーセント)。
  • 遺伝子(乳癌発症者の5パーセントから10パーセント)。

予防[編集]

閉経後の女性が運動を習慣的にすることにより、乳癌のリスクを減少させるということはほぼ確実であるという。

検査・診断[編集]

乳癌が疑われる場合、しこりや病変の存在などを視診、触診およびマンモグラフィ、超音波(エコー)検査などの画像検査で確認する。そして病変に針を刺して細胞や組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査、病理診断を行う。また病変の状態や広がりを調べるため、必要に応じてCTMRI、腹部超音波、骨シンチグラフィ、PETなどの画像検査も行う。

妊娠中に乳癌と診断された場合、検査や手術、薬物療法、放射線療法は妊娠の時期によって流産あるいは胎児への影響を起こす危険性がある。そのため、担当医や家族と相談を重ねる必要がある。

視診と触診[編集]

乳房を観察し、形状や左右差、皮膚の変化を調べる。次に指で乳房やわきの下に触れて、しこりの性質(硬さや動き方、大きさや形、個数)を調べる。

マンモグラフィ[編集]

病変の位置や広がりを調べるために行なう乳房専用のX線検査である。少ない被爆線量で乳房組織を鮮明に映し出すため、板状のプレートで乳房を挟んで圧迫し、薄く引き伸ばして撮影する。このため、乳房を圧迫される痛みを伴うが、視診や触診で発見しにくい小さな病変も見つけることができる。また、画像の性質上、乳腺の発達している若い人では病変が存在していても見つかりにくいことがある。またマンモグラフィで高濃度乳房とされる症例では超音波検査のほうが乳癌を検出できることが知られている。

超音波検査[編集]

乳房内の病変の有無、しこりの症状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無を調べる。乳房の表面から超音波を発生する器械をあてて、超音波の反射の様子を画像で確認する。X線のように放射線による被爆の心配が無いため、妊娠中でも検査が可能である。ベッドに仰向けに寝た姿勢で受けられる検査で、痛みも無く体に負担は無い。

CT・MRI[編集]

手術や放射線治療などを検討するとき、病変の広がりを調べるために行なう検査。CTはX線を、MRIは磁気を使って身体の内部を描き出す。CTやMRIで造影剤を使用する場合、アレルギーを起こす場合があり、この検査を受ける前に造影剤でアレルギーを起こした場合には医師に事前に申し出る必要がある。

病理検査・病理診断[編集]

病変の一部を採取して、それが癌であるかどうかを顕微鏡で調べる検査である。癌細胞が含まれている場合、その細胞の種類や性質なども調べる。

  • 細胞診検査 - 乳頭からの分泌液を採取して行う分泌液細胞診、病変に細い針を刺して細胞を吸引して行う穿刺吸引細胞診がある。この検査は身体への負担が比較的少ない検査ではあるものの、偽陽性(癌では無いのに、癌ではないかと診断されること)が稀に含まれるという欠点がある。
  • 組織診検査 - 病理診断を確定するための検査で、生検と呼ばれる。組織診では局所麻酔をしてから病変の一部を採取する。注射針より少し太い針を使用する針生検、さらに太い針を使用するマンモトーム生検、皮膚を切開して組織を採取する外科的生検がある。細胞診検査より調べる細胞や組織の量が多いため、より確実な診断と詳しい情報を得ることが可能となる。

病期[編集]

  • 0期 - 非浸潤癌と言われる乳管内にとどまっている癌、乳頭部に発症するパジェット病で極めて早期の乳癌である。
  • Ⅰ期 - しこりの大きさが2センチ以下。リンパ節や別の臓器に転移していない。
  • ⅡA期 - しこりの大きさが2センチ以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されず可動性がある。またはしこりの大きさが2センチから5センチで、リンパ節や別の臓器への転移がない。
  • ⅡB期 - しこりの大きさが2センチから5センチで、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周囲の組織に固定されずに可動性がある。もしくはしこりの大きさが5センチを超えるが、リンパ節や別の臓器への転移は無い。
  • ⅢA期 - しこりの大きさが5センチ以下で、わきの下のリンパ節に転移があり、そのリンパ節は周辺の組織に固定されている状態、またはリンパ節が互いに癒着している状態、またはわきの下のリンパ節転移が無く胸骨の内側のリンパ節に転移がある。
  • ⅢB期 - しこりの大きさやリンパ節への転移の有無に関わらず、皮膚にしこりが顔を出したり、崩れたり、むくんでいるような状態。炎症性乳癌はこの病期に当たる。
  • ⅢC期 - しこりの大きさに関わらず、わきの下のリンパ節と胸骨の内側のリンパ節の両方に転移のある、または鎖骨の上下にあるリンパ節に転移がある。
  • Ⅳ期 - 別の臓器に転移している。乳癌の場合は肺や骨、肝臓、脳に転移しやすい。

治療[編集]

治療としては手術(外科)、放射線治療、薬物療法(内分泌ホルモン療法、化学療法、分子標的治療)などがある。病気により可能な治療法が異なる。

手術[編集]

手術によって癌を取りきることが基本となる。手術は「乳房部分切除術」「乳房切除術」の2つに分かれる。なお、手術直後にはどちらであっても創から体液を排出するドレーンという管が数日間入れられる。排液量が減少したら管を抜き、抜糸や抜糸が不要のテープ、医療用接着剤を使用して創そのものの痛みは治まるケースが多い。なお病期は0期からⅡ期までが目安となる。

  • 乳房部分切除術 - 腫瘍の端から1センチから2センチ離れたところで乳房を部分的に切除する。乳房部分切除後は病巣を確実に切除し、患者が美容的に満足できる乳房を残すことを目的としている。しこりが大きい場合は術前薬物療法によって腫瘍を縮小させる。手術中には切除した組織の断端の癌細胞の有無を顕微鏡で調べて確実に癌が切除できていることを確認する必要がある。癌が手術前の予想よりもはるかに広がっている場合は、乳房切除術に変更するか、もしくは追加切除術を行うことがある。手術後に放射線照射を行い、切除後の乳房内再発を防ぐ。
  • 乳房切除術 - 乳癌が広範囲に広がっている場合や複数のしこりが離れた場所に存在する多発性の場合は、最初から乳房を全部切除する。

なお、乳房切除後に患者の腹部や背中などから採取した組織、またはシリコンなどの人工物を用いて新たに乳房を作る乳房再建術がある。再建の時期は乳癌の手術と同時に行なう1次再建、数か月から数年後に行なう2次再建がある。自分の組織を用いた再建術の場合は公的医療保険が適用されるが、シリコンなどの人工物を使用しての再建術の場合は保険の適用が成されない場合もある[1]

また癌細胞はリンパ液の流れに乗って周辺のリンパ節に入り込み、転移を起こすことが知られているが、現在の手術前の検査ではリンパ節に癌が転移しているかどうかは正確にはわからないため、乳癌の手術でわきのしたのリンパ節郭清(リンパ節を取り除く手術)を行い、転移の有無を調べる。この手術を行うと、手術後に腕が上がりにくい、痺れる、むくみといった症状があるため、現在では手術前にリンパ節転移が明らかな場合にのみ、わきのしたにリンパ節郭清が行なわれる。

放射線治療[編集]
薬物療法[編集]
  • 内分泌療法(ホルモン療法) - 抗エストロゲン剤、選択的アロマターゼ阻害剤、LH - RHアゴニスト(黄体ホルモン放出ホルモン抑制剤)などがある。
  • 化学療法 - 抗癌剤の殺細胞効果により、細胞増殖を制御しているDNAに作用したり、癌細胞の分裂を阻害したりすることで、癌細胞の増殖を抑える。
  • 分子標的治療 - 癌の増殖に関わっている分子を標的にしてその働きを阻害する薬を投与する治療。様々な薬剤があり、乳癌の場合は抗HER2薬を使用する。

経過観察・再発[編集]

乳癌の治療がひと段落した後、5年あるいは10年過ぎてから再発することもある。そのため、定期的な診察を受けるだけではなく、治療後の胸や反対側の乳房の自己検診を断続的に行い、体調に変化を感じた場合には医療機関に相談することが必要である。

乳癌は基本的に治療後3年までに再発することが多い。乳房部分切除術を行なった後の乳房に起こる再発は「乳房内再発」、または乳房を全部摘出した後の胸壁の皮膚やリンパ節に起こる再発は「局所・領域再発」という。これらの再発はその部分だけに起こっている可能性があり、遠隔臓器への転移とは治療方針が異なる。なお、これらの再発の場合には再度の切除が可能であれば手術を行なって根治を目指すが、状況によっては薬物療法や放射線療法を組み合わせることになる。

転移[編集]

乳癌は腫瘍の近くにあるリンパ節、骨、皮膚などに転移しやすい。遠く離れた臓器では肺、肝臓、脳への転移が起こることもある。乳癌は転移が早い時期から起こりやすいタイプであり、手術で乳癌を取り切ったようでも、その時点で検査では見つけることの困難な癌細胞が既に別の臓器に移動している場合がある。ただし、肺や肝臓、脳などの転移では内分泌療法、化学療法、分子標的治療などの薬物療法を中心にして進行を遅らせること、癌による辛い症状を和らげることが可能である。骨に転移している場合は放射線治療を薬物療法と組み合わせるか、骨折のリスクを減らすために骨吸収抑制薬が使用されることがある。

脚注[編集]

  1. 最近では病院によってはシリコンの場合でも保険が適用される場合もある。