メルツェルの将棋差し

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メルツェルの将棋差し』(メルツェルのしょうぎさし、原題:Maelzel's Chess-Player)とは、アメリカの作家・エドガー・アラン・ポー1836年に発表したエッセイ。18世紀当時実際に存在し世間の注目を集めていた、チェスを指す自動機械人形「トルコ人」について考察を加えたものである。トルコ人を扱ったエッセイとして世界で最も有名なもののうちのひとつであり、また、アラン・ポーのエッセイのうちでも有名な作品である。

概要[編集]

1836年4月『南部文芸通信』に掲載された。

深い洞察力と分析力に裏打ちされた論理的・理智的内容のエッセイである。結論としては、トルコ人は本物の機械人形ではなく中で人が操作しているのだ、ということを主張している。実はトルコ人の正体は1820年前半には明らかになっていたのだが、ポーはこのことを知らなかったのであろう。結論だけでいえば、ポーのこの推測は当たりではあった。しかし以前からポーの他にも、トルコ人は人間が操っているのだ、という考えを主張している者は何人か居り、それ自体は格別新しみのある考えではなかった。また細かなトリックの解説の段に至ると、真相と異なる部分も多々見られ、畢竟するにポーの考えは、残念ながら的を得ていなかったことになる。

とはいえ彼の主張する論説は、可能性のひとつとしては十分有得そうなことであり、幾つもの状況的証拠を挙げてグイグイと一つの答を指差していくさまは、今なお読んでみて十分面白いものがある。

日本への紹介[編集]

小林秀雄が『新青年』昭和5年(1930年)2月増刊号に訳を発表したのが、日本で最初の紹介である。この翻訳は原典と比較すると訳出されていない部分も多く、幾分"抄訳"の気味がある。理由のひとつとしては発表当時小林は無名で、また『新青年』が飽くまで小説専門誌であったため、それほど紙数を割いてもらえなかったためである。もうひとつ理由として挙げられるのは、小林の訳はボードレールの仏訳からの重訳であり、ボードレール訳の時点で遺漏が多かったためというのがある。本エッセイは当時、ポーの作品としてあまり重要視をされておらず、英文原典を手に入れることが難しかったのである。又、冒頭に原典にはない数行を附すなど、小林のオリジナリティによる面も大きい。

発表当時、訳者名は紹介されず、小林の全集にも本作は収録されなかった。1956年に発刊された『世界推理小説全集』第一巻(東京創元社)内に於いてはじめて訳者名とともに紹介をされた。

この小林の訳文に、後に大岡昇平が補綴を加えている。小林独特の文調を殺さないように配慮しつつ、3分の1程度の訳文が新たに追加されており、『ポー小説全集』1巻(創元推理文庫)内に収録されている。

なお、邦題の「将棋」は西洋将棋、すなわちチェスのことを指している。「将棋差し」という表現についても、現在では「将棋指し」と表記するのが一般的ではあるが、はじめて日本に紹介されたときの題名が今でも名残として一般に通用している。

影響[編集]

1945年に発刊された、チェスの歴史をまとめた本『A Short History of Chess』(著・Henry A. Davidson)内では、ポーの誤った推測による説明が行われている。

関連項目[編集]

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