ベクトル解析は、空間上のベクトル場やテンソル場の微積分に関する数学の分野である。
多くの物理現象はベクトル場やテンソル場として記述されるため、ベクトル解析は物理学の様々な分野で応用される。
物理学では3次元ユークリッド空間上のベクトル解析がよく用いられるが、ベクトル解析は一般のn次元多様体上で展開可能。
物理学上のベクトル場の例としては、電場、磁場、重力場などがある。
以下は特に断りのない限り3次元ユークリッド空間上で直行座標系のベクトル解析を扱う。
内積と外積[編集]
3次元空間におけるベクトル解析の公式は以下のようである。特に、内積と外積は重要である。
内積は・で表して、各成分の積の和をとる。あるいは、各ベクトルの大きさの積、と、なす角θの余弦の積である。内積はスカラーである。内積は交換可能である。
自身との内積は2乗で表す。




外積は×で表して、以下のような式になる。外積の大きさは、各ベクトルの大きさの積、
と、なす角θの正弦の積である。外積の向きは、もとのベクトルの両方に対して垂直な向きである(そのような向きは2つあるがそのうちの一方に定まる)。外積はベクトルである。外積は交換すると(-1)倍する。
自身との外積は零ベクトルになる。




三重積など[編集]
以上の内積・外積について各成分を計算して、以下に示すようなサイクリックな等式が成り立つことがわかる。
スカラー三重積[編集]
スカラー三重積は、ベクトルと外積の内積なので、スカラーである。

ベクトル三重積[編集]
ベクトル三重積は、ベクトルと外積の外積なので、ベクトルである。詳しくは、外積#ベクトル三重積を参照されたい。

ヤコビ恒等式[編集]
ベクトル三重積と内積が交換可能なことから、ヤコビ恒等式が成立する。

スカラー四重積[編集]
スカラー四重積は、外積同士の内積なので、スカラーである。
スカラー三重積とベクトル三重積より、以下が成立する。行列式でも表記しやすい。


ベクトル四重積[編集]
ベクトル四重積は、外積同士の外積なので、ベクトルである。
![{\displaystyle (\mathbf {A} \times \mathbf {B} )\times (\mathbf {C} \times \mathbf {D} )=[\mathbf {A} \cdot (\mathbf {C} \times \mathbf {D} )]\mathbf {B} -[\mathbf {B} \cdot (\mathbf {C} \times \mathbf {D} )]\mathbf {A} }](https://ja.wikipedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/edc29b33cc5d01eb2e384f88049e9d829b4b861d)
微分(ナブラ)[編集]
∇(ナブラ)を用いて様々な微分概念が表記できる。

スカラー場Fに対してFの勾配は、ナブラをかけたように定義できる。1次元からN次元への変換になる。

ベクトル場Eに対してEの発散は、ナブラとの内積のように定義できる。N次元から1次元への変換になる。

ベクトル場Eに対してEの回転は、ナブラとの外積のように定義できる。3次元ベクトルに対して定義でき、3次元から3次元への変換になる。

相互の関係[編集]
勾配の回転、即ち
は常にゼロベクトルになる。
回転の発散、即ち
は常にゼロになる。
他に、勾配の発散、発散の勾配も考えることができる。
スカラー場Fの勾配の線積分は、その端点A,BでのFの差に等しい。

ベクトル場Eの発散の体積積分は、その体積を囲む閉曲面S上のEの面積分に等しい。

ベクトル場Eの回転の面積分は、その面積を囲む閉曲線C上のEの線積分に等しい。

座標系[編集]
極座標や球座標でもベクトル解析は考えられるが、公式や変換が難解になるものもある。
他の表現との関係[編集]
ベクトルが誕生するまでは直交座標系を用いた解析幾何学や四元数を用いた記法が主流であり、
力学・電磁気学の教育・研究でも解析幾何学的な多変数微積分学を用いた力学や四元数表記の電磁気学が普通であった。
四元数[編集]
ベクトルを四元数で表記すると、内積と外積はそれぞれ積の実部の符号反転と積の虚部に対応する。
と
を対応させる。
このとき、内積と外積はそれぞれ
と
が対応し、
と
が対応する。
以上は、各成分を計算すれば簡単に示せる。ただし、四元数における虚部Imはi,j,kのような虚数単位を含むとする。
ベクトルとしてかけることや内積・外積は四元数でも以上のように対応づけられるので、ナブラも四元数に対応づけられて、

である。
よって、ベクトル解析で表記されることの多いマクスウェル方程式なども四元数で表現できることがわかる。
マクスウェル方程式においては、実部と虚部を合わせて方程式の数を減らすことが可能。
さらに、四元数の係数に複素数を使った体系である双四元数を用いると、方程式を1つにすることも可能。