プレーグ・コートの殺人

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プレーグ・コートの殺人』(The Plague Court Murders)は、アメリカの作家カーター・ディクスン[1]1934年に発表した推理小説。

概要[編集]

探偵役のヘンリー・メルヴェール(H・M)の初登場作品。

黒死荘の殺人』という題名で邦訳されることもある。H・Mシリーズの第2作品が『白い僧院の殺人』(The White Priory Murders)、第3作品が『赤後家の殺人』(The Red Widow Murders)であり、「色+施設名」で統一されていることを考えれば、むしろ「黒死荘の殺人」のほうが作者の意図に適っているといえるだろう。(なお、原題の Plagueペストを意味する単語。)

江戸川乱歩はディクスン・カーの特徴として「不可能犯罪・怪奇趣味・ユーモア」の3つを挙げているが、その分類に照らせば、本作は「不可能犯罪」「怪奇趣味」の度合いにおいてカー屈指の作品であり、「ユーモア」の要素はまったく無い本格ミステリである。

メインの物理トリックはかなり有名なもので、ミステリクイズ本などで知っている人も多いであろう。以下、伏せ字で表記するので各々の責任で慎重に読むこと。

(ここから伏字)密室トリックや人物入れ替わりトリックなどが使われているが、特に有名なのは「密室トリック」。鉄格子の外側から「塩を固めた銃弾」を撃って、部屋の内部にいる人物を射殺。暖炉の近くで死んだため、塩は溶けて血液と混ざり合って分からなくなってしまう。現場には千枚通しのような丸い断面の刀が残されているため、まるでその刀でメッタ刺しにして殺されたように見える。法医学の進んだ現代では成立しない、1930年代ならではのトリックといえよう。(ここまで伏字)

なお、1955年発表の国内作品である高木彬光『魔弾の射手』ではこのトリックが流用されている。

ちなみに、横溝正史の『本陣殺人事件』は本作品に着想を得て書かれているが、トリックは全く別物なので安心してお読みいただきたい。[2]

他作品との比較・連想[編集]

ゴシックホラー的な怪奇趣味においては、『火刑法廷』と並んでカー屈指の作品である。ホラーを演出するために「首の動き方の奇妙さ」に注目している点も『火刑法廷』と類似しており興味深い。[3]

暗がりの部屋から誰が抜け出したかが問題となる点では、『緑のカプセルの謎』や、戦後にアガサ・クリスティが発表した『予告殺人』を連想させる。

被害者みずからが仕掛けた罠によって、状況が複雑化して真相が分かりにくくなる点は(いちおう伏字)『三つの棺』『緑のカプセルの謎』『貴婦人として死す』(ここまで)などと似た構成といえる。

本作のメイントリックは、当時フランス警察で使われていたものであるという。フランスの犯罪事情に着想を得ている点で『九人と死で十人だ』と共通しているといえよう。いずれもH・Mが登場する事件であり、陸軍省の幹部として海外事情に通じているH・Mだからこそ解きえた事件である。

パスティーシュ作品[編集]

  • 二階堂黎人『亡霊館の殺人』は、本作を強く意識したパスティーシュである。

脚注[編集]

  1. ジョン・ディクスン・カーの別名義。アメリカのモロウ社や、イギリスのウィリアム・ハイネマン社から刊行するときに用いた。
  2. 余談になるが、『本陣殺人事件』はむしろ、ジョン・ディクスン・カーの別の作品(伏せ字)『テニスコートの殺人』(ここまで)と似た部分がある。共通点は(重大なネタバレ)片腕の不自由な人が絞殺を実行していること(ここまで)
  3. その女の首はぴったり躯にくっついていなかったような気がするんです――『火刑法廷』ハヤカワ文庫版 p.107

外部リンク[編集]