足跡のない殺人
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足跡のない殺人とは、ミステリー作品で題材となる「密室トリック」の一種。雪や砂浜に囲まれた場所に殺された人物がいるにもかかわらず、犯人の足跡が周囲についていない状況を指す。「足跡のない」とはいっても、被害者自身や第一発見者の足跡はつくことが往々にしてある。雪面や砂浜といった平面が問題となることから「二次元の密室」と表現することもある。
作品一覧[編集]
年代順に並べている。
国内小説[編集]
- 江戸川乱歩『黒手組』(短編・1900年)
- 江戸川乱歩『無遊病者の死』(短編・1900年)
- 江戸川乱歩『何者』(短編・1929年)
- 大阪圭吉『寒の夜晴れ』(短編/1936年)
- 大坪砂男『涅槃雪』(短編・1949年)
- 高木彬光『魔弾の射手』(1950年)
- ネタバレ解説(以下伏字):ジョン・ディクスン・カー『プレーグ・コートの殺人』のトリックの応用である。
- 鷲尾三郎『白魔』(短編・1951年・)
- 楠田匡介『幼女の足音』(短編・1952年)
- 天城一『明日のための犯罪』(短編・1954年)
- あらすじ:名家の主人が胸にナイフを刺された姿で、自宅の居間で発見された。第一発見者の義妹は「死体のそばに女が立っており、自分も胸を刺されて気を失った」と証言する。雨上がりの庭へと伸びたハイヒールの足跡はなぜか中央で消えていた。まるで空に飛んで逃げたかのように...。
- ネタバレ解説:本当の死因は心臓麻痺。義妹は心臓麻痺で死んだ主人の体にナイフを刺した後、庭の中央までハイヒールを履いて進み、雨が止むまでひたすら待ち続けた。そして雨が上がった後、後ろ向きに進んで居間へと戻り、自分の胸を刺す偽装工作を行った。こんな手の込んだことをした理由は、主人の妻に家から追い出されることを恐れたため。主人の妻に愛人がいることを知っていた義妹は、不可解な事件をつくりだして警察沙汰にすることで、簡単に家から追い出されないよう牽制しようとしたのだ。人によって評価が大きく分かれる一作で「バカミス」と感じる人もいれば、素直に「傑作」と評価する人もいる。トリック自体はシンプルだが、わざわざそれを実行する状況が限られる。状況設定の妙で、単純なトリックに説得力をもたせている。
- 梶龍雄『白鳥の秘密』(短編・1956年)
- 鮎川哲也『白い密室』(短編・1958年)
- あらすじ:女子大生の佐藤キミ子が大学教授の座間家を訪れたとき、なかには雑誌編集者の峯と、亡くなった座間の遺体があった。座間は背中からナイフを刺されており、凶器は庭の真ん中に捨てられていた。門から玄関へと続く雪の足跡は、峯と佐藤の2人のもののみ。しかし、座間教授を敬愛している峯が犯人であるとは思えない。では犯人は足跡を残さず一体どうやって逃げたのか?
- ネタバレ解説(以下伏字):雪が降る前から座間と峯は座間家に集っていた。座間は外出して(この時はまだ雪が降っていないので足跡はつかない)恋人関係にある佐藤キミ子のアパートを訪れたが、痴情のもつれからナイフで刺されてしまった。座間は、背中にナイフが突き立った状態のまま自宅までどうにか帰ってくると(この時に雪の上に足跡がつく)、ナイフを引き抜いて庭の真ん中に捨てるよう峯に頼んだ。これは恋人の佐藤をかばうためでもあり、また自分の女性スキャンダルを世に広めないためでもあった。峯は、敬愛する座間の頼みを受け入れて凶器を投げ捨てた。しかし、門から玄関へと教授の足跡が残っていることに気づいた。このままでは自宅の外で殺されたことが簡単に露見してしまう。そこで自分の靴を風呂釜で焼き捨てて、警察には教授の靴が自分の靴であると嘘をついた。のちに様子を見に来た佐藤が座間家を訪れ、2つ目の足跡がついた。つまり、雪の上に残った2つの足跡は「峯と佐藤の足跡」ではなく「座間と佐藤の足跡」だったのだ。
- その他:先行作品であるカーター・ディクスン『白い僧院の殺人』に触れて、これと同じトリックではないと述べる箇所がある。
- 鮎川哲也『海辺の悲劇』(短編・1960年)
- 輪堂寺耀『十二人の抹殺者』(1960年)
- 海渡英佑『伯林-1888年』(1967年)
- 鮎川哲也『矛盾する足跡』(短編・1969年)
- 天城一『冬の時代の犯罪』(短編・1974年)
- 小林久三『暗黒告知』(1974年)
- 山村美砂『花の棺』(1975年)
- 解説:雪に足跡がついておらず、襖には中から鍵がかかっているという二重の密室が登場するが、(以下伏せ字)雪の足跡のほうは全く大したことのないトリックで、縁側から縁側へと木の板を渡してその上を歩いたというだけの話である。もう一方の「襖のトリック」は現代でも評価する声が多い。
- 高木彬光『狐の密室』(1977年)
- 鮎川哲也『マーキュリーの靴』(1980年)
- 島田荘司『斜め屋敷の犯罪』(1982年)
- 島田荘司『北の夕鶴2/3の殺人』(1985年)
- 斎藤栄『雪の魔法陣』(1988年)
- 法月綸太郎『雪密室』(1989年)
- 歌野正午『白い家の殺人』(1990年)
- 泡坂妻夫『ミダス王の奇跡』(短編・1990年)
- 「奇術探偵 曾我佳城」シリーズの一作。とある温泉宿の露天風呂で女性モデルが殺害される。現場に降り積もった雪には、被害者の女性モデルが残した一直線の足跡しか残っていなかった。
- ネタバレ解説(以下伏字):犯人は黒いラシャ紙を足の形に切り取ったものをいくつも用意し、紐でつなげて現場に設置した。黒い紙は太陽の光を吸収するのでその部分の雪だけ早く溶けて、まるで足跡が残ったように見える。紐でつなげるためどうしても足跡が一直線になってしまうが、逆に、被害者のモデル特有の歩き方に見せかけることができた。
- 折原一『丹羽家殺人事件』(1991年)
- 有栖川有栖『人喰いの滝』(短編・1992年)
- 二階堂黎人『吸血の家』(1992年)
- 3つの不可解な殺人事件が発生し、そのうち2つが「足跡のない殺人」である。
- 第一の事件:大邸宅の門扉から玄関に至る途上で、男が背後から首を刺されて亡くなった。現場についた足跡は被害者のほかに2人分あったが、どちらも背後から首を刺せるような位置ではない。一体なにが起きたのか? (以下伏せ字)男は幼い女の子をおぶって歩いていた。彼女は家族から悪魔的な英才教育を受けており、隠し持ったナイフで男を刺殺したのだ。家族の一人は死体に駆け寄った際、当然誰が犯人なのかすぐに分かったが、かばって何も見なかったふりをして幼子をおぶって家まで戻った。
- 第三の事件:テニスコートの真ん中である人物が刺殺された。(ジョン・ディクスン・カー『テニスコートの謎』を意識した設定である。)現場にあったもう1つの足跡は位置が遠すぎて、道具を使ったとしてもナイフを上手く刺せるとは思えない。なにが起きたのだろう? (以下伏せ字)犯行当時、テニスコートの表面は凍っており、足跡がつかなかったのだ。
- 有栖川有栖『スウェーデン館の謎』(1995年)
- 大山誠一郎『佳也子の屋根に雪ふりつむ』(2001年・短編)
- 北山猛邦『アルファベット荘事件』(2002年)
- 貴志祐介『狐火の家』(2008年・短編)
- 「防犯探偵・榎本シリーズ」の第2作『狐火の家』の表題作。
- あらすじ:長野県の古い日本家屋で、一家の娘が殴殺され、大量の金塊が盗まれた。玄関にも窓にも鍵がかかっているが、ある一つの窓だけ開け放たれている。一見するとそこから犯人が逃走したように思える。しかし、前日に雨が降って土は濡れていたにもかかわらず、窓の外側にはまったく足跡がついていないのだった....。
- ネタバレ解説(以下伏字):娘を殺した犯人は、4年前に家出した素行の悪い一家の長男だった。金塊を奪うために実家に戻ってきたところ、運悪く妹に鉢合わせて殴り殺してしまった。しかし彼は、この密室状態の家から逃げ出してはいない。後から帰ってきた一家の父親が事の顛末を知り、この長男を絞め殺したのだった。父親は行きずりの物盗りの犯行に見せかけるために窓を一つだけ開け放ったが、濡れた土に足跡がつかないとおかしいというところまでは頭が回らなかった。
- 東川篤哉『霧ヶ峰涼とエックスの悲劇』(2013年・短編)
- あらすじ:ユーモアミステリ短編集『放課後はミステリーとともに』の一篇。殺人事件ではないが、2つの「足跡のない事件」が登場する。1つめは、陸上部の生徒が学校の砂場で後ろから突然殴られて気絶したが、周囲に足跡はないという事件。2つめは、「X山」と呼ばれる雑木林のなかにある地面がならされた畑の中央で女性が気絶しており、首に針金でしめたような足跡が残っているという殺人未遂事件。
- ネタバレ解説(以下伏字):1つめの事件:砂場のなかに隠れていたトンボ(砂をならすための道具)を気づかずに踏んだため、長い柄で後頭部が殴られた。第一発見者の生徒が「トンボを片づけ忘れた一年生」と「殴られた生徒」のあいだでトラブルが起きることを防ぐためにトンボを隠したことで不可解な状況が発生した。2つめの事件:ある男は、雑木林のなかの畑で、蛍光塗料を塗った凧を飛ばしてUFOのように見せかける悪戯に興じていた。そこに妻がやってきて子供じみた悪戯をやめるように詰られたため、ついカッとなって持っていた凧糸を首に巻き付けてしまった。そのとき風が強く吹いて凧が流され、女は首が締められたまま畑の中央へとよろよろ進んで足跡がついた。男は慌てて凧糸を切り、凶器は空へと飛び去った。
- 二階堂黎人『泥具根博士の悪夢』(2014年・短編)
- 柳広司『カランポーの悪魔』(2015年・短編)
- 密室殺人とは少々異なるが「足跡消失の謎」が登場する。『シートン動物記』で有名なシートンを探偵役に据えたミステリー。牧場で働く男の一人が喉を食いちぎられて殺される。現場に残った狼の足跡をたどっていったが、周囲に何もない平地でぷっつりと足跡が途切れてしまった。
- ネタバレ解説(以下伏字):男を殺したのは狼ではなく人間。犬の剥製の足の部分を切り取って、狼のような足跡を偽装した。(自分自身の足跡は砂をならして消しながら戻った。)足跡が何もない場所で途切れているのはずいぶんと雑な偽装工作だが、知能のあまり高くない田舎の荒くれ者が真夜中に行った偽装工作と考えれば、かえってリアリティがあると言えるかもしれない。トリック自体は大したことはない。シートンの観察力と推理力を楽しむ一作である。
- 大山誠一郎『雪の日の魔術』(短編集『ワトソン力』所収)(2016年)
- 建物が建てられている途中の造成地で、男が銃に撃たれて亡くなった。北以外の三方はブルーシートに覆われており、銃弾が通った跡はない。しかし、北の入口側に降り積もった雪には被害者と発見者の足跡しかついておらず、発見者が拳銃をこっそり捨てた形跡もなかった。一体、どうやってこの男は殺されたのか?
- ネタバレ解説(以下伏字):南から撃たれた銃弾は、ブルーシートの足元を突き破って男に命中した。ブルーシートの足元は雪に覆われているため、雪の上だけ調べた警察は穴に気づかなかったのだ。
- 青崎有吾『いわゆる一つの雪密室』(2016年・短編)
- 楠谷佑『案山子の村の殺人』(2023年)
海外小説[編集]
- アーサー・モリソン『サミー・クロケットの失踪』(1894年)
- 発表当時「ホームズのライバル」と称された探偵マーチン・ヒューイットが登場する超古典作品。徒競走の選手が競争路の途中で消失してしまう。
- バルドウィン・グロルラー『奇妙な跡』(1908年・短編)
- モーリス・ルブラン『テレーズとジェルメーヌ』(短編・1923年)
- 短編集『八点鐘』所収。怪盗ルパンが探偵役として事件を解決する。「ルパンシリーズ=通俗的なスリラー」というイメージが強いが、本作で描かれたトリックはその後の本格ミステリで繰り返し使われるトリックの原型となっている。
- 海水浴場に立つ脱衣小屋のなかに男が入っていく。その後、誰も小屋に近づかなかったのに男は背中を刺されて亡くなっていた。しかも現場からは凶器が消えていた。
- ネタバレ解説(以下伏字):男は小屋の外でとある女性にナイフで刺された。その女性をかばうために、男は最後の力を振り絞って小屋のなかに入り、密室状況をつくった。いわゆる「内出血型の密室」の初登場作品である。
- モーリス・ルブラン『雪の上の足跡』(短編・1923年)
- 上記と同じく、短編集『八点鐘』所収。怪盗ルパンが探偵役をつとめる。「雪の足跡による密室」を初めて生み出した歴史的作品。
- ネタバレ解説(以下伏字):犯人は後ろ向きに歩いて、偽の足跡をつくった。
- G・K・チェスタートン『翼ある剣』(短編・1924年)
- あらすじ:大地主の三男アーノルドは、遺産争いのために養子ストレークから命を狙われている。迷信に囚われたアーノルドは、ストレークが黒魔法を使って空を飛んでくることに怯えていた。ある日、屋敷のなかに銃声が響き、庭にはコウモリのように長いマントを着たストレークが倒れていた。周囲の雪に足跡はない。ストレークは空を飛んでやってきたのだろうか?
- ネタバレ解説:足跡のトリックだけ取り出して解説すると何てことはない内容になってしまう。アーノルドがストレークを殺して室内から死体を置いたのであり、外から侵入してきた足跡がないのは当然なのだ。ただ本作はそれ以外の部分にもっと大きなトリックが仕掛けられている(原典を読まれよ)。
- カーター・ディクスン『プレーグ・コートの殺人(黒死荘の殺人)』(1934年)
- あらすじ:大邸宅に付随する離れの石室で、交霊術師ダーワースが何者かに刺し殺されて死亡する。石室は鍵のかかった密室であった。さらに、石室の周りの地面は雨でぬかるんでおり、まったく足跡がついていない。石室の密室がメインであり、足跡自体はサブトリック程度である。
- ネタバレ解説(以下伏字):犯人は、屋敷の周囲にめぐらされた塀と大木を伝って離れに近づいたのだ。なぜこんな簡単なトリックが露見しなかったのか? 警察官の一人が共犯であり、「大木は人が乗ったらすぐ折れてしまう」という偽の推理で周囲を欺いたからである。
- カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』(1934年)
- あらすじ:「白い僧院」という屋敷の別館「女王の鏡」で、女性の死体が発見される。周囲の雪に残った足跡は二人の発見者のものだけだった。
- ネタバレ解説(以下伏字):筆者未読のため、少々言葉足らずの解説になってしまいますがご容赦を → 女性は本館で殺された。第一発見者は自分が疑われることを恐れて、遺体を別館に移動させアリバイ工作を図ったのだ。より詳しく解説できる方の加筆をお待ちしております。
- ピエール・ヴェリイ『サンタクロース殺人事件』(1934年)
- ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』(1935年)
- いまなお評価が高い不可能犯罪の傑作。2つの密室殺人が発生し、第二の事件が「雪の密室」である。
- あらすじ:ある冬の夜、人気のないカリオストロ街の真ん中で「二発目はお前に」という叫び声と銃声が鳴り響いた。たまたま前を歩いていた3人が振り返ったところ、フレイという男が倒れて死んでおり、ピストルが落ちていた。近くに人影はなく、周りに隠れられるような場所もない。さらに驚くことにフレイの背中の傷口を調べたところ、ピストルは至近距離から接射したものであることが判明した。犯人は一体どうやって彼を殺したのだろうか?
- ネタバレ解説(以下伏字):まごうことなき傑作なので出来れば原典を読んで頂きたいが....以下トリックを解説しよう。フレイは別の場所で背中を撃たれ、瀕死の状態で病院に向かって歩いていた。銃撃者はフレイが即死したものと思い込んで現場を離れたのだが、帰宅の途上で殺したはずのフレイと鉢合わせになってしまう。フレイは最後の力を振り絞ってピストルを取り出し「二発目はお前に」と叫びながら、銃撃者に向かって撃つ。しかしそこで力尽きて死んでしまったのだ。
- クレイトン・ロースン『帽子から飛び出した死』(1938年)
- ジョン・ディクスン・カー『テニスコートの謎』(1939年)
- あらすじ:テニスコートの真ん中で、男の絞殺死体が見つかった。しかし周囲の土はぬかるんでおり、第一発見者以外の足跡は近くにない。犯人は走り幅跳びの世界記録に挑戦したのだろうか?
- ネタバレ解説(伏せ字):犯人は「テニスの対戦ロボットを開発したいから手伝ってほしい」という口実で、被害者を呼び出す。テニスコートの周囲にある金網にロープの一端をくくりつけ、もう一端を反対側の金網のほうへと通す。「ロボットのサイズを考える材料として色々なデータを取得したい」といって、言葉巧みにロープを被害者の首に巻かせる。首に巻いた瞬間に、ロープを力強く引いて絞殺する。あとはロープだけ外して回収すれば、テニスコートの中央に死体が置かれた状態になる。ちなみに、雨が降って「足跡のない殺人」になってしまうことは犯人にとって想定外だった。犯人は片腕と両足に障害のある人物であり、「絞殺」であれば自分が疑われないと考えて、このトリックを実行したのだ。通常の絞殺では両腕を使う必要があるが、このトリックなら片腕だけで絞殺できる。
- ジョン・ディクスン・カー『空中の足跡』(1940年・短編)
- クリスチアナ・ブランド『切られた首』(1941年)
- カーター・ディクスン『貴婦人として死す』(1943年)
- あらすじ:ラヴァーズ・リープ(恋人たちの身投げ岬)と呼ばれる崖まで、一組の男女の足跡が続いている。落ちたら確実に死ぬ高さだ。警察が調べた結果、「後ろ向きに歩いて足跡をつける」といった小細工のない足跡であることが判明した。しかし、崖下で死んだはずの二人の遺体は数マイル離れた地上で発見され、死因は溺死ではなく拳銃による射殺だったのだ....。
- ネタバレ解説(伏せ字):男女は、自分たちが自殺したように見せかけて秘かに国外逃亡する計画を立てていた。まず最初は、崖の先端から後ろ向きに歩いて足跡をつけ、それを第三者に目撃させることで岬から身投げしたのだと誤認させた。しばらく経った後、ローラーを使って最初の足跡を消しながら崖に向かって進み、今度は本当に崖下へと身を投げた。しかし最初のときとは違い、この時には潮が満ちているため地面に衝突して死ぬことはなく、二人は泳いで別の場所へと逃亡した。(その後、何やかんやあって銃殺される。)後からやってきた警察が足跡を調べても、正真正銘の「崖に向かっている足跡」である。また、最初に足跡を見た第三者の証言から「二人は身投げして死んだ」という誤った結論が導かれることとなった。
- ヘイク・タルボット『魔の淵』(1944年)
- クリスチアナ・ブランド『自宅にて急逝』(1947年)
- ネタバレ解説(伏せ字):トリックだけ取り出して見れば、そこまでの作品ではない。犯人はバレエシューズを履いて爪先立ちで母屋と離れを往復して犯行に及んだ。その後、自分が第一発見者となったときに、小さな足跡を踏み消した。
- ハーバート・ブリーン『ワイルダー一家の失踪』(1948年)
- フレドリック・ブラウン『笑う肉屋』(1953年・短編)
- E・D・ホック『過去のない男』(1956年・短編)
- ジョン・ディクスン・カー『見えぬ手の殺人』(1958年・短編)
- あらすじ:浜辺で男が絞殺されたが、近くに人が近づいた跡はない。
- ネタバレ解説(伏せ字):長いムチを使った超絶技巧で遠くから絞殺した。流石にこれは「バカトリック」と言わざるをえまい。
- ジョン・ディクスン・カー『引き潮の魔女』(1961年)
- アーサー・ポージス『殺人者は翼を持たない』(1962年)
- マイケル・イネス『終りの終り』(1966年・短編)
- D・マクダニエル『ソロ対吸血鬼』(1966年)
- E・D・ホック『不可能な“不可能犯罪”』(1968年・短編)
- E・D・ホック『有蓋橋事件』(短編・1974年)
- クリスチアナ・ブランド『屋根の上の男』(1984年・短編)
動画作品[編集]
- 【パーカー探偵】 消えた足跡の謎 - YouTube
- あらすじ:大学生レイカは、雀荘で出会った老婆・斎藤麻子の家を訪れて、家族と一緒に徹夜でマージャンを行っていた。夜24時、落とし物に気づいて家の外を探し回っていたレイカは、公園の真ん中で腹部を刺された麻子の死体を発見する。数時間前に雨は上がっており、ぬかるんだ土の上には麻子とレイカの足跡しかついていなかった。現場に凶器は存在せず、のちに車で20分ほど離れた山の祠から「血のついた杭」が発見された。動機がありそうなのは麻子の3人の子供たちぐらいだが、麻雀中の離席は最大でも20分程度であり、誰にも犯行をなしえたようには思えない。いったい誰が殺したのか。そしてなぜ犯人の足跡がないのか。
- ネタバレ解説(以下伏字):保険金を家族に残すための斎藤麻子の自殺。凶器は、自分の髪の毛(!) 自宅でドライアイスを使って、長い髪の毛を杭のような形で凍らせたあと、近くの公園に行き腹部を刺して自殺した。麻子には「足跡のない不可能状況」をつくる意図はなかった。本来の計画では、次の日の早朝に発見される予定であり、その前にはもう一度台風が訪れて足跡はすべて流れ去るはずだった。しかし、レイカが落とし物を深夜に探すという予期できない事象があったため、発見が早まってしまったのだ。山の祠にあった杭は、麻子が事前に用意したダミー。こんな手の込んだことをした理由は「自殺では保険金が下りないので他殺に見せかけるため」「しかし家族に疑いが掛かっては意味がないのでアリバイを作ってあげるため」。雀荘で出会った大学生のレイカを誘ったのも、第三者の証言によって家族のアリバイを確保するためだったのだ。
- 【パーカー探偵】 消えた足跡の謎・番外編 - YouTube
- あらすじ:ある屋敷の離れで家政婦が殴殺された。雪は数時間前に止んでおり、母屋とのあいだについた足跡は被害者自身と、第一発見者である一家の主人シンジのもののみ。最初はシンジが犯人かと思われたが、死亡推定時刻より後の時間帯に母屋側にいたことが近隣住民の証言で明らかになっており、あくまで足跡は発見時についたもののようだった。主人の妻カオリは家政婦と足のサイズが同じであるため、一見すると家政婦の靴を履いて後ろ向きに母屋まで歩くことで足跡を偽装できるように思える。しかしその方法では、離れで倒れている被害者の足に靴を戻すことができない。被害者が履く靴は、型だけではなくすり減り方まで雪の足跡と一致しているのだ。いったい犯人は二人のうちどちらか?
- ネタバレ解説(以下伏字):妻カオリは、事前に同じ靴を2足用意し、毎日交互に履くことで同じ程度すり減るように細工していた。離れで家政婦を殴殺した後、用意した靴を履かせる。そしてもう1足の靴を履いて、後ろ向きに母屋まで歩いた。