バカ・ピグミー
バカ・ピグミー(ばか・ぴぐみー)とは、カメルーン南東部、コンゴ北部、ガボン北部、中央アフリカ共和国南東部にある熱帯雨林に住んでいる民族。別称はベバヤカ、ベバヤガ、ビバガ、バビンガなど。
平均身長は150cmほどである。
概要[編集]
人口は3~4万人と推定されているが、もっと多いとも言われている。
ピグミーの狩猟採集者たちは一般的に中央アフリカの熱帯雨林の原住民であると考えられていたが、最近の研究では,熱帯雨林で狩猟や採集によって単身で生活することはできないという仮説が提唱されている。 この仮説は,世界のさまざまな地域にある狩猟採集社会の研究者の間で議論されている。 しかし、この問題に関する研究は、狩猟採集者たちの実際の狩猟と生活に関する確実なデータに基づくものはほとんどない。カメルーン南東部のバカで長期の狩猟採集遠征であるモロンゴの参加者から得られたデータに基づいて、熱帯雨林における狩猟採集の可能性を検証すると、2カ月半の遠征の間,バカは野生の食糧、特にヤムイモだけで生き残った。このような森林生活の持続可能性を、野生食品資源の豊富で流通するパターン、狩猟採集技術、居住パターン、遊牧生活スタイルとの関連で検証する。
文化[編集]
生活形態[編集]
もとは森林の中にキャンプを作り、移動性の高い生活を送っていたバカだが、1930年代以降、フランス植民地政府やキリスト教ミッションによって定住化が促され、またプランテンバナナ、カカオ等の農耕が定着したことにより、今では街道沿いに集落を作って住むようになっている。しかし彼らは乾季には大挙して森に入り、数ヵ月にわたって村から数キロないし数十キロメートル離れた場所で狩猟・漁撈にいそしむキャンプ生活(バカ語でモロンゴと呼ばれる)を送ることが多い。
バカは焼畑農耕によってプランテンバナナ、トウモロコシ、キャッサバ、タロイモ、ピーナッツ、カカオなどを栽培しており、畑は農耕民に劣らず立派なものも多い。カカオ栽培は、彼らの主要な現金獲得源となっている。ピグミー系狩猟採集民のほとんどは、近隣の農耕民との間に、肉あるいは労働力を提供し、その見返りに農作物をもらうという、いわゆる「共生的関係」を形作っていることが知られているが、バカにおいても、農耕民のカカオ栽培などを手伝い、賃金や食料、物品を手に入れることが重要な生計活動となっている。しかしそこには、ムブティやアカで報告されている、農耕民との固定的なパトロン--クライエント関係は存在せず、両者の関係は雇用--被雇用とでも言うべき、より対等なものである。
狩猟活動は盛んだが、弓矢猟・槍猟はあまりおこなわれず、ダイカー(森林性のレイヨウ類)を対象とする跳ね罠猟の比重が高い。また、農耕民に借りた銃を用いた、主としてサル類を対象とする銃猟も盛んである。さらに、狩猟の熟練者「トゥーマ」を中心とした、ゾウを含む大型動物の狩猟もおこなわれている。これらの獲物は自家消費されるほか、生のままあるいは干し肉の形で売られる。とくに最近は、木材伐採会社で働く人の食料としての肉の需要が増えているようである。蜂蜜採集は大乾季にさかんにおこなわれる。また女性は乾季の間、小川で掻い出し漁にいそしみ、ときには魚毒漁もおこなわれる。野生植物の利用はさかんであり、野生のヤムイモなどの採集がおこなわれている。
社会構造[編集]
バカの社会には、「イェ」(ye)と呼ばれる父系のクラン(教科書的に言えば、「共通祖先が伝説となっている、規模の大きい出自集団」のことだが、バカの場合、共通祖先が認識されているわけではない)が存在する。イェは外婚的であるとされている8]が、それ以上の社会統合の機能はもたないようである。居住形態は、夫方居住婚の傾向が強いが、婚資労働のため、夫がしばらくの間妻方に住み込むということもしばしばある。集落には「ココマ」(あるいはフランス語で「シェフ」)と呼ばれる集落の代表者的な人物はいるが、強い政治的権力を持っているわけではない。大型動物の狩猟の名手トゥーマも、その権威が発揮されるのは、狩猟の場においてのみである。こういった意味で、バカ社会はあまり階層化のみられない社会であると言える。
定住集落間の人々の行き来はかなり頻繁で、森の中を歩いてしかたどり着けない、何十キロも離れた集落の間でも、「この間あそこから来た男に会った」などといった話はよく聞く。また都留によるバカの歌と踊りの集会「ベ」の分布調査では、近隣の農耕民よりもはるかに広いバカの居住域の中でも、メジャーな「ベ」は非常に分布していることが明らかになっている[Tsuru 1998]。このようなバカ文化の均質さは、人々の流動性によって支えられていると考えられる。
他民族との関係[編集]
バンツー族[編集]
バカ族は隣接して住むバンツー族と共生関係にあり、交易を行なうためによく道沿いにキャンプを構え、物々交換を行なう。また、観光を意識して、多くのバカ族以外の人間がピグミーの村を訪れたり、留まったりする手筈を整え、自然保護林を訪れる人へバカ族のガイドを雇う。このようにしてバカ族とバンツー族は密接に関係し、依存しているためか、バカ族とバンツー族の部族間結婚の率は上昇している。
アカ族[編集]
バカ族はアカ族と、言語を除いて強く類似している。バウシェの民族言語学的分析によると、両者は数百年前まで、バアカ(Baaka)と仮称されるひとつの集団であったと推定されている。またバカおよびアカはイトゥリ・フォレストのムブティとも、社会構造、生業、儀礼、歌と踊りの様式などの諸点で強く類似している。このような理由からバウシェは、バカ・アカの祖先は過去にムブティから分かれ、西方へ移住してきた人々ではないかと推定している。
農耕民[編集]
バカの分布域には、バクウェレ、バンガンドゥ、ボマン、ボンボン、コナベンベ、ンジメ、ンジェムといったバントゥー系・ウバンギアン系の農耕民が居住している。一般に狩猟採集民は、地域社会の中で他の民族集団に対して低い地位に押しやられていることが多い。バカは生業活動においては農耕民との差がなくなってきているのだが、両者の間にはいまだに明瞭な差異意識が存在する。農耕民はことあるごとに、バカたちに命令しようとする。農耕民の男がそのような事態を「パトロン--クリヤン(クライエント)」という「社会科学的用語」で表現しているのも聞いたことがある。農耕民の男性はバカの女性と結婚することができるが、バカの男性は農耕民の女性と結婚することはできない。
しかし、他のピグミー系狩猟採集民に比べれば、バカと農耕民の関係は、より対等に近づいていると言える。たとえば、バカは農耕民から肉を買うことがあるが、アカでの長い調査経験を持つ北西氏はそれを見て「アカでは絶対に見られないことだ」と驚いていた。またバカは農耕民に対してかなりの「敵愾心」を抱いているらしく、第3者に対しても、ことあるごとに「Kaka (農耕民)は悪い」「Kakaはわれわれを殴る」などと愚痴をこぼしていた。しかし農耕民と同席しているときには、彼らはそういった態度を表に出さず、和気あいあいと会話を交わす。ピグミー系の人々の特徴である社会的態度の変幻自在さが、このようなところにあらわれていて興味深い。
農耕民はそれぞれの民族集団の言葉を話す。ドンゴ近辺の農耕民の言葉バクウェレ語は、のバントゥー諸言語の分類ではとされ、ウバンギアン系のバカ語とは系統的に遠い。しかしンバカ集落のバカの多くはバクウェレ語を喋ることができ、バクウェレのなかでも片言のバカ語を使える人は多い。またリンガラ語、フランス語も両者の共通語として使われることがある。