ソナタ形式

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ソナタ形式: sonata formドイツ語:Sonatenform)とは、クラシック音楽の楽曲形式の一つ。主にピアノソナタや交響曲、室内楽曲などに見られる。

概要[編集]

バロック音楽後期に端を発し、前古典派時代に形成され、ハイドン、モーツァルトなどが活躍した盛期古典派音楽の時代に完成した最も重要な楽曲形式である。主題の提示部、展開部、再現部、コーダから成る。起源としては、三部形式を更に発展・複雑化・大規模化・拡張したものとみなされる。大まかに提示部をA、展開部をB、再現部をA'とも考えることも出来る。

提示部では2つの主題が示され、第1主題は主調、第2主題は主調が長調の場合属調、短調の場合は平行長調を用いるのが定型である。ソナタ形式の提示部は、繰り返しが任意で付いている。 展開部では第1・第2主題が自由な転調、移旋含め様々に主題労作され、一部形を変形・変奏などをさせ、提示部の中の素材を活用して組み立てられる。最終的に再現部への橋渡しをするために主調に戻る準備が始まる。再現部では、素材上、音形は提示部とほとんど同一で、第1主題と第2主題が復活したもので、第1主題と第2主題両方再現し、第2主題も主調にとどまり、調性を解決・調和させて曲を終わりに導く。こうして、曲に統一感を持たせることができる。ソナタ形式の由来は、イタリア語のソナーレ(「鳴り響く」)から変化したソナータ(「鳴り響かされるもの」)。ソナタ形式で書かれている曲を含んでいる曲を「ソナタ」という。

規模が小さく、展開部などを省略したものは「ソナチネ形式」と呼ぶ。古典派と同世代の作曲者、クレメンティは「ソナチネ形式」。

序奏 注1 提示部 展開部 再現部 コーダ 注2
第1主題 第2主題 第1主題 第2主題
長調の曲 主調 属調 自由な転調→主調に戻る準備 主調 主調のまま(短調の曲の場合は、同主長調の時もある)
短調の曲 平行長調

注1 無い場合もある。

注2 小規模な作品では無い時もある。

ソナタ形式の曲は、吹奏楽編曲版では、提示部は、繰り返し無しがほとんどである。

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モーツァルトの「フィガロの結婚 序曲」の楽曲形式は、展開部を欠くソナタ形式になっている。

後の時代の変化[編集]

晩期古典派[編集]

モーツァルトの死後も、保守的な作曲家は古典的ルールを守り作曲していた。しかし革命的作曲家ベートーヴェンは、調をより自由に選択するようになった。

提示部第2主題が上記に従っていない曲

古典派の作曲家、モーツァルトの時代までは、ソナタ形式は第1楽章に用いることが定型である。終楽章に用いるときもある。ソナタ形式は必須であり、一番大切な形式で、主調が長調の場合は第2主題は属調、主調が短調の場合は第2主題は平行調と決まっていた。ただし、モーツァルトの作品でも第1楽章がソナタ形式でない曲がある(ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付き」。この曲は、全楽章ともソナタ形式ではない)。モーツァルトの死後も暫くは古典的伝統に従った作品が聴衆に好まれた。しかし、ベートーヴェンは表現の革新のためにソナタ形式の転調のルールをより拡大し、その影響は徐々に他の作曲家にも広がって行った。古典派晩期は浪漫派音楽の入り口が近づいている時代であり、ベートーヴェンの革命的態度は音楽の歴史を前進させたのである。例えばベートーヴェンにおいては短調のソナタ形式にあっても、第2主題が属調、つまり第2主題も短調のままの曲がある〔例:ピアノソナタ第14番「月光」第3楽章(嬰ハ短調→嬰ト短調)、ピアノソナタ第17番「テンペスト」第1・第3楽章(ニ短調→イ短調)、ピアノソナタ第1番第4楽章(ヘ短調→ハ短調)〕。また、長調のソナタ形式にあっても、第2主題が属調でない曲もあり、ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」で、第2主題が長3度上の長調を採っている(ハ長調→ホ長調)[1]。月光ソナタでは終楽章(第3楽章)のみがソナタ形式である。短調のソナタ形式で第2主題が属調、つまり第2主題も短調のままの曲は、「曲として全然豊かでない」と感じ興味が無い人もいるそうであるが、緊張感が続くことから好む人もいる。要は音楽の構成として優れていればどちらもアリなのであって、それが興味の有無の原因になるようでは音楽芸術の深い世界に入る事はできない。ある人が「月光ソナタは、全体を聴いても、興味が無い場合もある理由は、短調のソナタ形式で第2主題も短調のままであるという暗さのせいなのかもしれない」と語ったが、これに対しベートーヴェンは「暗いから興味が無いと?そなたは未熟よのう」と語ったという。

浪漫派[編集]

再現部第1主題を欠くソナタ形式

前期ロマン派の作曲家ショパンの作品では、再現部第1主題を欠く。ショパンはピアノソナタにおける再現部で第1主題を再度用いるのは曲として冗長になると感じたのであろう。ロマン派によるソナタにもベートーヴェンの影響が残っているが、リストはソナタ形式と多楽章制を融合させ、かつて革命的であったベートーヴェンすらも旧時代の遺物として葬り、無調音楽を予言した。

後期ロマン派の時代になると、アントン・ブルクナは主題を三つに増やして「第3主題」を登場させ、さらに展開部と再現部の融合を進めるなど、ソナタ形式をさらに進化させた。

20世紀音楽[編集]

20世紀においては無調音楽が誕生し、「第2主題が属調、または平行調ではない」ことに驚くような感覚は完全に太古の遺物となった。例えばヴェーベルンの交響曲を聴くと、ソナタ形式の精神は調性と関係なくとも成立することを理解できるのである。

脚注[編集]

  1. 。ベートーヴェン以降の人がソナタ形式の転調を自由にしたのは、ベートーヴェンの晩年を物語るかの様なやるせなさといえる。ベートーヴェンの三大ピアノソナタは、「悲愴」「月光」「熱情」とされるが、さらにいくつかの一部の曲、「ワルトシュタイン」などを加えて「四大ピアノソナタ」と呼ぶことがある。しかし、「三大〇〇」「四大〇〇」が実際に三大、または四大であった試しはなく、例えば「三大テノール」は人気・知名度が当時トップ3であっただけで、実際の歌唱力とは別問題である。ベートーヴェンの最も優れたピアノソナタは「ハンマークラヴィア」以降の晩年の作品群である。

関連項目[編集]