月光ソナタ

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月光ソナタ(英語:moonlight sonata、ドイツ語:mondschein-sonate)とは、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番の通称。1801年、ベートーヴェンが30歳の時に作曲した作品。キーは嬰ハ短調(英語:C#m、C# minor、ドイツ語:cis-moll)。1801年は、1800年代を過ぎている範囲なので、伝統的な古典派ソナタから離れてロマン派の入り口に接近している。3楽章構成。

そもそも、「月光」というタイトルは、ベートーヴェン自身が付けたものではない。「月光」という名前は副題(サブタイトル)である。

全楽章の演奏時間=約15分。

楽曲構成・分析[編集]

第1楽章

キーはC#m(嬰ハ短調)。4/4拍子と思いきや、オリジナルは2/2拍子。指揮するときは、4/4拍子で行う。adagio sostenuto、自由な三部形式。テンポ=(四分音符=)58。「前奏-A(提示)-B(中間)-A’(再現)-後奏」の形で構成されている。合計は69小節ある。月光といえば、まず思い出されるのが、有名な第一楽章。「月光の曲」とも呼ばれる。演奏時間=5分0秒。音域は、最低音:F0(約43.65Hz)、最高音:D#5(Eb5)(約1244.51Hz)。

ベートーベン本人が書き記したのは「幻想曲風ソナタ」であり、前奏曲風で、ソナタ形式に囚われない自由な三部形式をとっている。月光が波に照らす背景と、寂しい雰囲気を持つミステリアスな曲である。

第1楽章冒頭…
冒頭から奏でられる右手の三連符と左手の重厚なオクターブのフレーズを持っている。フレーズの始まりは、「ソ#.ド#.ミ.ソ#.ド#.ミ…」という伴奏になっている。冒頭の部分は前奏4小節で、3小節目の後半にはナポリの六で、変則的なサブドミナントで、雪明りのように温かみのある和音に変化している。

第1楽章提示部…
第5小節目からは提示部の始まりで、嬰ハ短調で第1テーマの旋律から始まり、このフレーズの次は、主調のⅣの和音に移行して、平行調のホ長調に転じている。ホ長調への転調を行うとき、右手の旋律がラ-ソ#-ファ#-シ-ミと、美しいメロディ動機を奏でる。第1主題は5小節となり、終わりはホ長調となる。そして、10小節に入ると、ホ長調のトニックコードの第3音がフラットし、すぐさまホ長調の同主短調のホ短調に変化する。このホ短調は、実は次にハ長調への転調を準備するものである。主題提示の確保は、ハ長調を経由して、すぐさまロ短調に転調し、主題が転調を繰り返されている。

提示部の後半で、次に続く素材は、Bmコードの第3音がシャープして、Bのメジャーコードに変わり、呼びかけと応答のような第2テーマで、15小節目後半~19小節目前半で、ロ長調?(第2音、第6音がフラット)で出される。♭2ndはナポリ音、♭6thは準固有和音のキーポイント。この場合、ロ長調の第3音(レ#)は、ホ短調の導音になりうるので、2ndと6thが♭したロ長調は、元のロ長調に比べてホ短調っぽくなる。ロ長調の第3音と、♭した第2音までの音程は、ホ短調の減七の和音(レ#.ファ#.ラ.ド)の減7度の音程と一致している。この音階は、ホ短調の和声短音階(Eハーモニックマイナースケール)の第4音が♯したものである。コード進行は、右手の上声(ド→ラ#)は無視し、B→Em→Bととなっていて、Emは、ロ長調のサブドミナントマイナー=準固有和音のⅣの和音である。16小節目と18小節目の1拍目は、右手がオクターブ+半音なので、張り詰めたような雰囲気である。

第2テーマが終わると、あえてホ短調のトニックには解決せずに、23小節目で嬰ヘ短調に転調し、別の方向へと道を切り替えている。まとめていうと、提示部では、数回の転調を経ている。嬰ハ短調→ホ長調→ホ短調→ハ長調→ロ短調→ロ長調?(第2音と第6音が下方変位のため、ホ短調っぽく聞こえる。サスペンスっぽいロ長調。ホ短調の和声短音階の第4音がシャープした音階。Eハンガリアンマイナースケール。ロ長調の第3音は、ホ短調の導音でもある)→嬰へ短調。提示部は、5小節~23小節。

提示部で、特徴として、9小節目~20小節目前半までは、ラは使われていない。9小節~19小節目前半までは、ソ#は使われていない。ナポリの六は、3小節後半(ファ#.ラ.レ)と、21小節目前半の「シ.レ.ソ」。

第1楽章中間部…
24小節目からは中間部または展開部とみなされ、中間部の始め・冒頭・第1主題は嬰ヘ短調で第1テーマの旋律を出し、すぐに主調の嬰ハ短調に戻るという転調楽節を作る。28小節目からは、主調の属音のソ#の保続音が長く続く。途中の部分、32小節からは、右手の減七の和音(シ#.レ#.ファ#.ラ)のアルペジオがあり、緊張が高まり、右手のみでは減七の和音の印象が強調されることに成功している。

第1楽章再現部…
42小節目からは、曲の始まりの旋律が戻り、再現部の始まり。再現部の始めから5小節間は、コード進行が提示部と同じで、嬰ハ短調で第1テーマの旋律から始まり、平行長調のホ長調に転調し、再現部の始まりから5小節目は、コード進行だけ同じで、そして、その次の部分から変わってくる。46小節目後半~48小節目前半であり、そのままのホ長調で第1テーマを出している。つまり、短調だった第1テーマの旋律を長調に移旋したタイプで、期待してた部分が明るい調性の旋律を導き出しているため、救い・希望の光が差し込んできた感じがする。ようやくホ長調で第1主題の旋律を手に入れた明るい調性のフレーズとなった。その後、また主調の嬰ハ短調に戻ってきて、ナポリの六が出て、主調の嬰ハ短調で確保される。その次は、直ちに第2テーマの再現を行う。小節番号は、再現部の第2テーマは、第51小節目後半から第55小節目前半であり、51小節目は、コード進行はC#m→C#になり、C#mの第3音がシャープし、ミがミ#になり、嬰ハ長調?(第2音、第6音がフラットしているため、嬰ヘ短調っぽく聴こえる)で再現される。これは、嬰ヘ短調の和声短音階の第4音がシャープした音階で、F#ハンガリアンマイナースケール。この場合、嬰ハ長調の第3音(ミ#)は、嬰ヘ短調の導音になりうる。嬰ハ長調の第3音と、♭した第2音までの音程は、嬰ヘ短調の減七の和音(ミ#.ソ#.シ.レ)の減7度の音程と一致している。これを嬰ハ長調として扱った場合、これは、同主調で、第2テーマがソナタ形式の慣習通り、主調の主音が同じであるという解釈になりうる。第2テーマが終わると、ミ#は嬰ヘ短調の導音と解釈され、自動的に嬰ヘ短調に解決し、56小節目では、コード「B7/D#」=ホ長調のドミナントセブンスとなり、ホ長調に行きそうな感じがして、その後一瞬ホ長調になるが、Eコードがわかりにくく、テーマではないため、ホ長調とは言い切れない。それは、56小節目は和音が2つあり、スペースが4拍開いてて、和音が2個入るのに、全て2拍ずつではなく、ホ長調のドミナントセブンスが3拍、ホ長調のトニックが1拍のみで、わかりにくいため、56小節目の和音の個数はセミダブルである。これで、旋律の出番はおしまいとなる。再現部は、「嬰ハ短調→ホ長調→嬰ハ短調→嬰ハ長調(?)→ホ長調(?)→嬰ハ短調」という経路を通った感じであり、最終的に原調の戻りが可能となった。

第1楽章コーダ…
60小節目からは、コーダ・後奏であり、コーダでは第1テーマの旋律が左手のバスに移って静かに楽章を閉じ、曲を締めくくる。

アタッカで次の楽章に入るという指定がある。

第1楽章のコード進行
分類 小節番号 小節 小節 小節 小節
1拍 2拍 3拍 4拍 1拍 2拍 3拍 4拍 1拍 2拍 3拍 4拍 1拍 2拍 3拍 4拍
冒頭 1-4小節 C#m C#m7 A D Csus4M7 C#m G#sus4 Cdim
提示部 5-8小節 C#m G#7 C#m F#m E B7
9-12小節 E Em G7 C Em A#dim7 F#7
13-14小節 Bm Em6 Bm F#  
15-18小節 Bm B EmM7 Em B EmM7 Em
第2楽章

3/4拍子、同主調、変ニ長調。演奏時間=2分半。嬰ハ短調の同主調。メヌエットのような主題でできている。両端楽章とは異名同音の調関係となる。リストはイメージを「2つの深淵の間の一輪の花」と名付けてある。

複合三部形式。スケルツォもしくはメヌエットに相当する楽章である。一番始まりは変イ長調であり、その後はじめて変ニ長調となる。

第3楽章(終楽章)

キーはC#m(嬰ハ短調)、4/4拍子。ソナタ形式。presto agitato。テンポ=156。演奏時間=7分10秒=7分ちょっと。月光ソナタでは、第3楽章のみがソナタ形式となっている。音域は、最低音:F0(約43.65Hz)、最高音:E5(約1318.51Hz)。第1主題では、16分音符のアルペジオが長く続くという、感情の激しい楽章である。ベートーヴェンの心の中の嵐で、怒りの効果音、熾烈な戦い、闘争をイメージする。8小節目では構成音が「ラ.ド#.ミ.ファx」で、ドイツ増六の和音であり、コードネームは「A(add#6)」(実音は「A7」で演奏する)となり、これは、D#7(レ#.ファx.ラ#.ド#)の裏コード借用であり、バスのラはソ#音に進む。

第2主題には、短調のソナタ形式としては珍しく、属調であるG#mキー(嬰ト短調)が用いられている。提示部の第2主題では、途中、33小節からは、経過句の部分にナポリの六の和音が結構長く使われている。嬰ト短調のナポリの六は、「ド#.ミ.ラ」で、コードネームは「A/C#」。その次は、嬰ト短調のドミナントに行くが、1回目の後は、偽終止になり、2回目は、1オクターブ下がった状態のナポリの六で、その後、嬰ト短調のドッペルドミナントが入り、構成音は「ドx.ミ#.ソ#.シ」(Ddim7)という減七の和音になり、停電のように突然暗くなるという印象をよく味わう。第2主題の最後の57小節から63小節までは、嬰ト短調の主音のソ#音の上にトニックとドミナントが交互に出る。

展開部では、第1主題は一瞬嬰ハ長調で始まると思いきや、これは実は嬰ハ長調の第3音(ミ#)は嬰ヘ短調の導音になりうるので、67小節で嬰ヘ短調のドミナントセブンスの第3転回形が鳴り響き、次に嬰ヘ短調への転調を準備するものであって、すぐに嬰ヘ短調による第2主題へと接続される。展開部全体としての第1主題は嬰ヘ短調だけである。途中で、一瞬ト長調に転調するが、すぐに嬰ヘ短調を呼び戻し、次に主調に戻る準備のため、嬰ハ短調の属和音まで突進する。ト長調の部分は、短調だった第2主題の旋律を長調に移旋したタイプである。

この曲は、絶望の曲であり、短調のソナタ形式で、第2主題も短調のままの曲なので、展開部になっても平行長調は現れず、嬰ハ短調・嬰ト短調・嬰ヘ短調・ト長調のみである。

再現部は第1主題に経過句を省略し、推移無し、確保も無しとなり、主調のままの嬰ハ短調で第2主題の再現を行う。第2主題の再現部の途中の部分では、提示部と違う部分が数か所ある。134小節では、1小節カットされている場合が多く、これについては、後回しにしておく。145小節・147小節にちょっとした変奏が求められている。

コーダでは、第2主題の再現から始まる。最後に、第1楽章から使ってきた動機の発展である嬰ハ短調の長大なアルペジオで曲を締めくくる。

外部リンク[編集]