カーラ (ロードス島戦記)
カーラは、『ロードス島戦記』とその前日譚である小説『ロードス島伝説』の登場人物で、架空の人物。「灰色の魔女」として500年以上もロードス島の歴史に干渉し、主人公パーンたちの前に立ち塞がる。
経歴[編集]
古代王国時代[編集]
灰色の魔女カーラは、パーンらと同時代の人間ではない。500年以上前にフォーセリア全土に広がっていたカストゥール王国(古代魔法王国)を支配した魔術師の一人である。本名はアルナカーラ[1]。かなり高位の貴族で、「ロードス島太守の娘」と伝えられる(初代太守ル・フロイの娘という説が有力)。最後のロードス島太守サルバーンや魔法王ファーラムシアにも直言できる立場であったらしい。当時の貴族(魔術師)としては珍しく、大地母神マーファの信者であった。
同じフォーセリア世界を共有する『ソード・ワールドRPG』にも記されているように、末期のカストゥール王国は「魔力の塔」によって世界から魔力を吸い上げ、「額の水晶」を埋め込んだ魔術師に供給することで、無限の魔力を得ていた。しかし魔精霊アトン討伐のため膨大な魔力を一度に消費した結果、魔力の塔が失われ、魔術師たちは魔法を使えなくなってしまう。ただしカーラを始めとするごく一部の魔術師は、敢えて「額の水晶」を持たなかったため、魔力を失わなかった(カーラが後述のサークレットを創造したのは恐らく魔力の塔消失よりも後の事である)。その直後、魔術師に「蛮族」と蔑まれていた階級の人々の叛乱が起こり、カストゥール王国はあっけなく崩壊した。この蛮族が、フォーセリアの今の時代に生きる人間たちの先祖である。
この大反乱によりカストゥール王国の貴族や市民は根絶やしにされ、当時の全人口が半減したとも伝えられる大破壊(大いなる破壊)が発生した。マーファの教えに従って蛮族に対しても平等に接してきたカーラも例外ではなく、「大破壊」そのものと、自分をも殺そうとする蛮族に対する失望から、マーファ信仰を捨てたと思われる。
ロードス島の支配階級に属していたカーラは付与魔術一門の一人であり、古代王国の崩壊に際して、自らの意識/精神と魔力をサークレット(額冠。頭冠の一種)に封じ込める。このサークレットは太守の秘宝の一つに数えられる「知識の額冠」と同種[2]で、歴代の着用者の記憶を写し取って知識として保存し、蓄えた知識全てを現在の着用者に与える力を持つ[3]。カーラはこれに自身の意思と相手の精神を支配する魔法[4]を加えることで着用者を支配=新たなカーラとする方法を確立した。更にその精神を支配する魔法を着用者が殺されたとき、殺した者を目標に発動するように設計したため、自身の記憶が拡散することを防止すると共に常に自身を倒した強者を支配できた[5]。かくしてカーラは己を殺した一人の蛮族の身体を奪い、歴史の影の中に身を潜める。
剣の時代[編集]
影の存在となったカーラは、宿主を転々としながら「大破壊」が二度と起こらぬようロードス島の歴史に干渉を続ける。その基本的な思想は「光と闇の均衡」である。強大な竜族や上位精霊さえもその魔力により支配した偉大なる魔法王国の崩壊に伴う大破壊を実際に経験した彼女は、力の一極集中が「大破壊」に至る根本要因と思い定める。それ故、光が優勢になれば闇に荷担し、闇が強力になれば光を助け、均衡を崩す恐れの有る傑出した人物を排除していった。
これらのことから、ロードスの歴史に干渉する存在に気付いた極少数の主に賢者と呼ばれる人達からは、黒と白の混ざり合った「灰色」に例えて伝えられる存在となる。
カーラの時間と思考は、自らをサークレットに封じた時から止まったままなのだ、と言う者もある。悲劇を回避する為に均衡を保つ事が、より多くの悲劇を生む矛盾に気づかないのはそのためだという。
伝えられる中で最も古いカーラの活動は、カストゥール王国崩壊直後にカーディス教団の最高司祭ナニールが起こした勢力拡大戦争への抵抗で、ナニールによる統一王国樹立を阻んだ。
魔神戦争期[編集]
カーラの活動の中で特に著名な例は、パーンたちの時代の約40年前に起こった、封印から解き放たれた魔界の怪物たち(魔神)との戦争(魔神戦争)である。
当時のロードスにとって手に余るほど強大な魔神王(デーモンロード)と魔神の跳梁に対して、それに対抗するため組織された「百の勇者」にカーラは助勢し、後に「名も無き魔法戦士」と呼ばれる「六英雄」の一人として歴史に足跡を残すことになる。ウォートのみ、この魔法戦士が「灰色の者」であることを察知したが、確実にカーラを殺さずに倒すことに自信を持てず、やむなく対決を避けた。
魔神からロードスを守るため活動すると同時に、「均衡を崩す恐れの有る傑出した人物」として「百の勇者」の盟主であったナシェルの排除を画策し、見事にナシェルを時代の表舞台から消し去った。しかしその際、ナシェルが名声を捨て去り自ら汚名を被ってまで「百の勇者」の結束を保とうとした行動に感じ入り、幻覚魔法で肉体があったころの自身本来の姿と本名を彼に明かし、さらに彼が妻と最期に会うのを手助けした。自らが退場させたとはいえ、最後的にはナシェルの人柄に心を惹かれていた部分も見受けられる。
なお、これに先立ちカーラは「太守の秘宝」のひとつである“真実の鏡”を入手している。これは氷竜ブラムドによって守護されていたが、「マーファの愛娘」ニースがブラムドを禁忌魔法の呪縛から解放し、返礼としてその他の財宝と共に譲り受けていたものである。カーラは魔法でニースの姿に変身し、彼女の留守を狙って盗み出す事に成功した。これは魔神との戦いに役立てると同時に、人間に流出する事でその力が悪用されるのを恐れたものと思われるが、経緯は不明ながら鏡はターバ神殿に返還されている。この“鏡”は小説『ロードス島伝説』で重要な役割を果たしている。
英雄戦争期[編集]
魔神戦争が終息して姿を消したカーラは、闇の勢力である新興のマーモ帝国に合わせて活発に活動を始め、再び“真実の鏡”を持ち出すためにターバのマーファ神殿を来訪した。この時、ニースの娘で優秀なマーファの神官であったレイリアに賊として倒されたことで、レイリアを新たな宿主にして英雄戦争に姿を現す。当時光の側に大きく傾いた不均等を是正するため、マーモ帝国に荷担してカノン侵攻に助力し、対マーモ連合の切り崩しに暗躍した。
この工作の過程でパーン達と出会い、持論である「光と闇の均衡」を説いて彼を仲間に誘うが断られ、後にパーン達はロードスの平和の為にカーラを滅ぼすことを決意する。「そんな事は神々にでも任せておけばいい、一人の人間の恣意によって決めて良い事ではない」というのがパーンの主張である。その経緯は小説『ロードス島戦記 灰色の魔女』のクライマックスなどで語られている。なお、英雄戦争の終結時には、経緯は不明ながら“真実の鏡”が再びターバ神殿に返還されていた。
OVA版では、かつての戦友だったウォートにだけは心を許していたのか、普段と違って少し砕けた姿勢で会話をしていた。
邪神戦争期[編集]
英雄戦争直後のパーンとの対決の結果、カーラの宿主はパーンの仲間である盗賊のウッド・チャックに変わった。
ここから始まるパーンとの敵対関係が、カーラにとって予想できない結果を生み出す原因になった。カーラが暗躍したロードスの歴史の中で、今まで決して破られる事のなかったロードスの均衡を保つための策略に、初めて大きな歪みが生じたのであった。砂漠の民に与えた炎の魔神やヴェノン王国に与えた炎の巨人など、カーラが張り巡らせた陰謀の数々は、パーンの存在によってことごとく狂い、均衡は光の側へ大きく傾く結果となる。そのためカーラは、究極の闇である破壊神カーディスを復活させ「光の勢力」との共倒れにさせようと計り、復活を阻止せんとするパーン達と最後の戦いを繰り広げる事になる(邪神戦争)。
最終的にカーラのサークレットはウッド・チャックから取り外され、かつてカーラに支配され抵抗の術を知っていたレイリアが支配に抵抗しながら身に付けることで、カーラの活動は停止した。しかしサークレットの魔力は失われておらず、レイリア以外の者が身に着ければ再びカーラに支配されてしまうため、レイリアは自らが死を迎える際にマーファ神の降臨を願い、サークレットを破壊する意を固めている。
TRPGキャラクターとして[編集]
ルールにない「スタンクラウド」という専用魔法を持っていた。後に別のキャラクターがスタンクラウドを使う場合も、カーラのスペシャルマジックと呼ばれていた。
『ソード・ワールドRPG』のロードス島ワールドガイドでは、超英雄として設定されている。知力や精神力などの数値は決められているが、ソーサラーレベルに関しては「10以上」(基本ルール上の最大レベルは10)となっていて具体的な値は決められていない。公式ではこの扱いに関する質問に対して、ゲームマスターが10以上の任意の数値に設定すると回答している[6]。
担当声優[編集]
- 『ロードス島戦記』:榊原良子
- 『ようこそロードス島へ!』:深見梨加
- 『ロードス島戦記-英雄騎士伝-』:五十嵐麗
脚注・出典[編集]
- ↑ 『ロードス島伝説4 伝説の英雄』第Ⅲ章-5
- ↑ 「アルナカーラは、もうひとつの知識の額冠に己の記憶と意思とを与え、~」『ハイエルフの森 ディードリット物語』収録「復讐の霧」
- ↑ サークレットを外され解放されたレイリアは、カーラであった間の記憶を持っている
- ↑ 『ロードス島戦記7 ロードスの聖騎士(下)』最終章 ロードスの聖騎士-8 レイリアの意識はカーラに支配されている間時折眠っているらしい。おそらく現在は失われた魔法である。意思に付随する「均衡を保つ」という妄執が加わり、地の文通り「カーラの呪い」となっている
- ↑ 大賢者ウォートは、着用者が殺されずにサークレットが外れた場合(着用者の事故死も含む)でも、サークレットが新たな着用者を見つけ出す可能性を指摘している(『ロードス島戦記1 灰色の魔女』第Ⅳ章 大賢者-5)
- ↑ ソードワールドQ&A 2006年9月。