闇に潜む顎
『闇に潜む顎』(やみにひそむあぎと、原題:英: Usurp the Night)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・E・ハワードが1970年に発表した短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つ。
概要[編集]
ロバート・E・ハワードは1936年に死去したが、後にグレン・ロードがコレクターを経て正式な遺産著作物管理者となり、残されていた多数の原稿・断片・完成稿などが発見される。これらの遺稿は、1960年代後半に起こったハワードのリバイバルブームに拍車をかけた。本作もそれら未発表であった作品の1つであり、1970年にセミプロジン『ウィアード・ブック』3号に発表された。
那智史郎は単行本解題にて「ラヴクラフトの小説に出てくる無力な主人公とはちがってヒーローが怪物を切り刻んでしまう」と解説している。[1]
東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて、「『ダニッチの怪』風の異次元怪物養育譚だが、主人公が先祖伝来の破邪の剣をひっさげて妖術師の屋敷に乗りこみ、蹄をもつグロテスクな怪物をめった切りにするあたりが、いかにもハワードらしい」と解説している。また同書ではハワード作品への総論として「ハワードの正調神話作品は、総じて作者の本領を十全に発揮するものとはなっていない憾みがある」と欠点を述べており、クトゥルフ神話の定石とハワードの特性“狂おしき闘争本能”の相性の悪さを指摘している。そのうえで本作は(神話から)「無理やりハワード世界に移行する」と言い「たしかに痛快だが、相手方の魔物が迫力不足になってしまう嫌いがある。ままならないものである」と解説している。[2]
あらすじ[編集]
近所で猫が消える事件が多発し、マージョリーの愛猫ボゾも姿を消す。彼女の婚約者マイケルは近隣に話を聞くうちに、半年ほど前に引っ越してきたジョン・スタークという学者と知り合う。マイケルはスタークの屋敷で奇妙な物音を聞き、尋ねられたスタークはペットが成長しているのだと回答する。マイケルはマージョリーに犬を与え、彼女は飼い猫と同じボゾという名前を付ける。時が過ぎるにつれ、犬や幼児、さらには浮浪者まで姿を消す。街は恐怖に震え、市当局は市民に警告を発し、警備を強化する。
マイケルがスタークに対して抱いていた疑念は、足を悪くしているはずの彼が松葉杖をついていなかったことに気づいたことを契機にさらに深まる。夜、ボロボロに傷ついたボゾが、マイケルの元にやって来る。ボゾはスターク邸へとマイケルを導く。マイケルは、スタークが電話でマージョリーをおびき出したのだと理解し、完全に敵とみなす。マイケルは家宝の大剣を構えて屋敷に突入し、縛られているマージョリーを発見する。屋敷じゅうに奇怪な蹄の足音が響き渡る中、マージョリーは、スタークが何かに餌を与えて育てているらしいことを証言する。マイケルはマージョリーとボゾを逃がし、単身で屋敷の奥へと切り込む。巨大化した怪物は、既にスタークを食い殺していた。マイケルは怪物と対峙し、負傷しつつも、怪物を切り刻んで殺す。しかし倒された怪物の死体は、不可解な化学反応を起こしながら、発光する流動体となり、少しずつ広がろうとする。マイケルは屋敷に火をつけて全てを燃やし、マージョリーとボゾを連れて生還を果たす。
主な登場人物[編集]
- マイケル・ストラング - 主人公。十字軍騎士の末裔で、家には大剣が伝わっている。
- マージョリー・アッシュ - マイケルの婚約者。20歳。
- ボゾ(猫) - マージョリーの飼い猫。品種はマルタ猫。冒頭で行方不明になる。
- ボゾ(犬) - 忠誠心の高いブルドッグ。猫を失ったマージョリーに、マイケルが与えた。
- ジョン・スターク - 半年ほど前に引っ越してきた学者。妖術師であり、肢体不自由を装っている。怪物に餌として猫や犬を与えて育てていたが、人間の味を覚えさせたことで、取り返しがつかなくなる。
- 怪物 - 外世界から来た吸血生物。蹄があり、どんな獣にも似ていない。食べるほど巨大化する。異次元の存在だが、現実世界に具現化したために剣が効く。
収録[編集]
関連作品[編集]
- 英雄コナン - ハワードの非神話作品。60年代後半にリバイバルブームとなっていた。