針と糸の密室
(目張り密室から転送)
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針と糸の密室とは、古典ミステリに見られる密室トリックの総称。
概要[編集]
その名のとおり、針と糸を駆使してドアノブや錠前に細工を施し、密室状態を作り上げる物理トリックの総称である。現代においては「カビの生えた古臭いトリック」というニュアンスで言及されることが多く、ポジティブな意味で使われることは少ない。
しばしば目にする言葉であるが、具体的な作品例として何があるのかは、それほど知られていない。一つには、ミステリはネタバレを避けて紹介されることが多いためであり、また一つには、そうした古臭い作品は徐々に読まれなくなっていくためと思われる。
下記のような問題点がある。
- 説明が煩雑になることが多い。
- 文字で説明されても理解が難しい(図解があったとしてさえも)。従って、読み飛ばされがち。
- 「犯罪手口」を知る面白さはあるとしても、その部分が肥大化しすぎると、「小説」の全体の筋から浮いてしまう。「犯罪手口ガイドブック」を読んでいるようなものであり、「小説」を読んでいる意味がなくなってしまう。
- 日用品の「針と糸」は誰でも用意できるので、犯人特定につながりにくい。
- 「誰でもやろうと思えばできる複雑なトリックがありました」で、終わってしまいがち。
- つまり、「密室トリック」と「フーダニット」が結び付かずに、バラバラに並立しているだけの構成になりがちである。
作品例[編集]
下記に伏せ字で紹介するので、各々の責任で慎重に読むこと。年代順に並べています。
- イギリスの作家アレクサンドル・デュマの『パリのモヒカン族』(1854年)
- イギリスの作家エドガー・ウォーレスの『血染めの鍵』(1923年)
- アメリカの作家ヴァン・ダインの『カナリア殺人事件』(1927年)
- アメリカの作家ヴァン・ダインの『ケンネル殺人事件』(1933年)
- ただし、密室トリックがメインではない。
- イギリスの作家ジョン・ディクスン・カー『死が二人をわかつまで』(1944年)
- 日本の作家 横溝正史の『本陣殺人事件』(1946年)
- 広義では「針と糸の密室」に含まれるだろうが、現代でもなお評価の高い佳作である。
- 日本の作家 高木彬光の『刺青殺人事件』(1948年)
- 「密室の作り方」そのものではなく「その密室の活用方法(あえてボカして言ってます)」が重要。そのためか、現代でもそれなりに評価されていなくはない。
- 日本の作家 加賀美雅之『『首吊り判事』邸の奇妙な犯罪――シャルル・ベルトランの事件簿』(2009年)
目張り密室[編集]
「針と糸の密室」のアンチテーゼともいえるのが「目張り密室」である。扉や窓の隙間にテープを目張りした密室のことで、針や糸を通す余地がなくなる。(もっとも、針と糸に限らず、密室を成立する難易度が途端に飛躍するのであるが。)難易度が高いためか、作品例はそう多くない。
下記に作品例を紹介する。なお、針と糸の密室は事件の「真相」に触れるネタバレであるのに対し、目張り密室は事件の「発生状況」の分類であるから、特に伏せ字にはしていない。
- 海外小説
- カーター・ディクスン『爬虫類館の殺人』 - 目張り密室の最古の作品。今なおこのジャンルの頂点と評する向きもある。
- クレイトン・ロースン「この世の外から」(オットー・ペンズラー編『魔術ミステリ傑作選』などに収録)
- 未邦訳作品
- 江成「本格1/2殺人」「為生而死」
- 鶏丁「昆虫絞刑官」「孤墳」「密閉的鉄殻」
- 御手洗熊猫『島田流殺人事件』「藩籬之鐘」
- 林斯諺『氷鏡荘殺人事件』
- 国内小説
- 荒巻義雄『天女の密室』
- 有栖川有栖『マレー鉄道の謎』
- 幾瀬勝彬「密封された寝室」
- 井沢元彦『陰画の構図』
- 折原一「密室の王者」「脇本陣殺人事件」
- 大山誠一郎「彼女がペイシェンスを殺すはずがない」
- 貴志裕介「鍵のかかった部屋」
- 鯨統一郎『喜劇ひく悲奇劇』
- 楠田匡介「雪の犯罪」
- 斎藤栄「二重心中殺人」
- 柄刀一『密室キングダム』
- 二階堂黎人『稀覯人の不思議』「亡霊館の殺人」「最高にして最良の密室」
- 法月綸太郎『密閉教室』
- 東川篤哉「霧ケ峰涼への挑戦」「女探偵の密室と友情」
- 山村美紗『葉煙草の罠』
- 加賀美雅之「『首吊り判事』邸の奇妙な犯罪――シャルル・ベルトランの事件簿」
- 漫画作品
- 青山剛昌『名探偵コナン』
- 「バスルーム密室事件」(20巻所収)
- 「もう戻れない二人」(49巻所収)
- 「被害者はクドウシンイチ」(70巻所収)
- 映像作品
- 『蜘蛛女の恋』 (『相棒』season2 第5話)
- 『安楽椅子探偵とUFOの夜』(綾辻行人・有栖川有栖)
なんか似てる言葉[編集]
語感が似ているだけで、特に関係のない言葉。
- 剣と魔法のファンタジー
- フィクション作品にまつわる「ふんわりとした総称」という意味では、あながち共通点がなくもない。