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弐十手物語

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弐十手物語』(にじってものがたり)は、小池一夫原作の日本漫画作品。このページはその続編についても扱う。

概要[編集]

徳川吉宗の時代、司法・警察を担っていた奉行所とその配下たる同心らの活躍を描く時代劇。小池の古い作品の例に漏れず、壮絶なセックスとバイオレンスの描写がある成人向け漫画。
当初は二枚目の同心藤掛飯伍とその手下の岡っ引き羽子板の由造を主人公とし、この二人の友情と連携を称した「弐十手」がタイトルの由来ということになっていたが、わりと連載の(全体から見ると)早い段階で三枚目のお調子者菊池鶴次郎に主人公が交代。その後は「両手の指と十手で弐十手」というやや無理のある理屈が作中で付けられている。
作者の小池は自身の描いたキャラクターに対する愛着が深いことで知られ、「キャラクター原論」という一つの学問にまで昇華させたのであるが、流石に100巻を超える本作の中で全く設定の矛盾を作らないのは無理があったようで、主人公の交代を含めいくつかの矛盾は生じている。

登場人物[編集]

主人公[編集]

菊池鶴次郎
今作の(途中からの)主人公。南の定回り。
頭が切れ、雑学もあり、竹内判官流の目録でもあるなど文武に秀で、十手に対して真摯かつ正義感のあふれる十手者であるが、見習いとして登場した当初は三枚目で女にはもてず、お調子者で出世欲の強い生意気な若者として描かれていた。
しかし物語のなかで自分の愛した女が次々死んでいくという悲劇に見舞われ続けたことで達観した人格に変質。「生かされているからにはなすべきことがある」との信念のもとに、腐敗していく江戸の中で最後まで悪と戦い続けた。
一人ひとりの女に対してあまりにも真剣かつ捨て身で接する上、物語中盤以降はその超然とした人格もあって数多くの女を虜にし続けたが、それが故に女のほうも鶴次郎のためならばと自らの犠牲を厭わぬ態度に出てしまい、結果として愛した女の多くを失って「死に神鶴次郎」の異名を取った。鬼房の鶴次郎はなかったことになった
やり場のない怒り、悲しみを背負ったときに「つる」の真似をして耐え忍ぶ奇癖がある。
藤掛飯伍
今作の連載当初の主人公。南の定回りで、後に隠密回りに取り立てられる。
大変な男前で精力も強いが、十手生命の態度故女に縁がなく、手下の由造にいいところをもっていかれるのがお約束となっている。
剛腕に加え観察眼も併せ持ち十手者としての実力は確かだが、短気て近づきがたい性格から「狼の睾丸(おおかみのふぐり)」の異名を持つ。
奉行お抱えのろう人形師の女性ろう女と想い合うが、自らの危険な職を鑑みて夫婦になることを躊躇していた。しかし越前らの計らいもあって最終的には無事結ばれる。
主人公が交代してからはめっきり出番が減ってしまった。

奉行所[編集]

大岡忠相
江戸庶民から名奉行と慕われる南町奉行「大岡越前」その人。
人情に厚く、卓抜した機転で数々の名裁きを演出し、鶴次郎ら真っ当な十手者にも厚く慕われる一方、自らの職務は「庶民のためにお上の金蔵から金子を引き出すこと」と割り切り、目的のためには手段を選ばない側面もある清濁併せ呑む人物。
鶴次郎に対してはその十手に対する真摯さ、裁く側に立たず裁かれる側に立つ態度を深く気に入っており、危機に陥ったときには何かと助け舟を出している。
物語中盤ではすでに十年以上奉行の座に君臨し、庶民の生活を助けるための強引な施策がしわ寄せのいった海運問屋の反感を買うことになった結果、奉行の座を狙う者らの裏切りに遭うこととなった。
またその過程で自らの「過去の名裁きの大半は作り事だった」(そうまでしてでも江戸庶民の人気を得、お上と渡り合おうとした)という過去を鶴次郎に教え、反発して一度は十手を捨て歯向かってきた鶴次郎を許し、上方へ発たせて新たな経験を積むよう促す。
由造
藤掛の岡引(手下)であり、後に正式に隠密回りに取り立てられる。
桁外れの美形で毎日何通もの恋文が届くほど女にもて、女装すれば本物の女と見分けのつかない絶世の美女に化けられる。その美しい容姿から「羽子板」の異名を執る。
十手者としての実力も確かで、刃のついた小型の十手「小十手」の名手。
藤掛が主役から退いた後は本人の出番もめっきり減ってしまうが、エピソード「死走の風」は彼を主役にした数少ない章である。
池田大助
隠密回り組の責任者。影が薄い
越前の親友であり、剣の名手で人望も厚い。しかしのンの政吉の手にかかり殺された。
越前の親友というわりにはその後の木綿地蔵などでも全く触れられていない。
我毛大軒
大助の死後、隠密回り組の責任者を引き継いだ髭面の屈強な男。高名な拳法使いで、凄まじい腕力の藤掛と腕相撲を楽しむほど。物語序盤は普通の十手を使っていたが、中盤に再登場したときは短剣の付いた機械仕掛けの十手「マロホシ」を携帯していた。
こちらも越前の親友であり、町奉行となったころから越前を影で支え続けた。豪傑ながら心根の優しい人物。
…が、物語中盤では自らを表に出さず裏の汚れ仕事に従事させつづける越前に不満を持ち、勘定奉行らの裏切りに加担。巧みに越前を追い詰めるものの敗れ、自ら生命を絶った。
大軒の裏切りと死、それを呼んだ越前の独善的にも見える数々の所業は鶴次郎に彼への不信を抱かせ、上方へ発つきっかけとなる。
八百吉
是斉(夏バテの薬)を売り歩く青年。…というのは表の顔で、実は隠密回りの一人。藤掛をけしかけ、ろう女と近づけるための役割を担った。
刀は差していないが、その後も何かと隠密の作戦行動に従事している。というか普通にリーダーの大助よりも出番が多い。なんなら顔がほとんど同じなので見分けがつきにくい
袖屋摺吉
町家の大商人「袖屋」の跡取り息子。鶴次郎の活躍に惚れ込んで十手者になることを決意し、御家人株を買って直参となる。
町家の出ということもあり当初は十手者を軽く考えているような節があり、ボンボンの職務体験のような形で参加していたが、鶴次郎を間近で見て十手者という職の深さに感じ入り、実家を離れて独り立ちし本格的に十手者の道を歩む。袖屋の跡取りは大丈夫なんだろうか
世間知らずではあるが口八丁で頭も切れ、鶴次郎を慕い手下となる。悲劇を繰り返し経験して徐々に変質していく鶴次郎を本気で心配し、身を固めるように促すなど単なる上下の関係を超えた良き手下であり、物語の2~3合目における名脇役と言える。
「繋」において辻斬りにより重傷を負わされるも鶴次郎に救われて一命をとりとめ、鶴次郎の帰還後には回復した様子を見せたが、その後の登場はない。扱いに対してフェードアウトが軽すぎる気もするが、彼に限らずこの漫画では頻発する事象でもある
常吉
死んだ妻がくれた数珠を十手に付けていた岡引で、「羅漢の常吉」の異名を取るベテランの十手者。
堕落した岡引が十手を傘に金品を揺する「ちょっと来い」騒動の際、岡引制度が廃止されるに伴って泣く泣く十手を返上。以後は蕎麦屋として生計を立てつつ、随所で鶴次郎らに力を貸し、かもめを庇護して以降はその祖父役を務める。
後に鶴次郎に恨みを持つ上方の殺し人こぶしの仙造の凶刃にかかり生命を落とす。
東金弥治郎
「捕る金」の異名を持つ凄腕の十手者。比丘尼仕立ての死体が上がった事件で鶴次郎の凄みに触れて驚愕する。その後、心臓の病で死んだことが明かされる。
青井
南の定回り。初登場時は何らかの不祥事を起こして奉行の怒りを買い狼狽する、後輩の鶴次郎や摺吉に当たるなど小物で無能という描写だったが、次の登場時はなぜかなかなかの切れ者として描かれている。顔が同じ東金と作者が混同した可能性もある

鶴次郎と情を通じた女たち[編集]

お松
記念すべき鶴次郎の最初の女であり、「鬼神のお松」の異名を持つ冷酷無比な女悪党。
亭主であった両個投げの政が手下である歯磨き売りの葉吉をそそのかして裏切ったことを知り、二人を無惨に殺し、葉吉に化けてお松を誘い出そうとしていた鶴次郎をも捕縛する。しかし鶴次郎の世の中に対する理想を聞いて情が移り、鶴次郎を殺せなかったことが次の自分の犯罪の露見に繋がり自分の身を滅ぼすことになった。
人質をとって立てこもるが鶴次郎との直接の交渉の末、自分のわきがの匂いまで捉えて命がけで追ってきた鶴次郎に惚れ込み、一夜のまぐあいの末に自首を決意する。
その後は磔となるが、三尺高い木の上から鶴次郎に愛を叫び、壮絶に絶命した。その光景を目の当たりにした鶴次郎を十手者として大きく成長させるきっかけとなった人物である。
…なお、このエピソード「鶴一番」の時点では主人公の交代を含めプロットの変更が未定だったらしく、鶴次郎の異名も鬼神の髪を房に付けたことに由来する「鬼房」になる予定だった。その後鶴二十番以上もこのパターンのストーリーが続くことになるとは当時の読者はだれも予想しなかったことであろう。
また、鶴次郎に「一生で女はお前だけ」と言われながら死んだというのに、その後の鶴次郎の遍歴を考えるとある意味ではもっとも哀れと言えるかも知れない。
おりん
「可盃のおりん」として知られる酒豪の夜鷹。人を食ったような態度で客に酒をたかり、酔わせて抱かせてまた金を取ることで界隈では有名。
普段は汚い体をしており、欠けた歯をむき出しにして笑う人三化七の醜女だが、整えると非常に美しい容姿をしている。
夜鷹の苦痛を紛らすために酒に溺れており、登場時点で頻繁に血を吐き助かりようのないほどの病状となっていた。
お松を失い傷心の鶴次郎と火事の跡地で出会い、町中にわざと空き地を設けて延焼を防ぐ「火除地」の知恵を鶴次郎に授けた。
そのご褒美金で余命いくばくもないおりんに最期の思い出を作らせようと鶴次郎は奔走し、事切れた後も火除地の異名「風鈴地」に名を残した。
およね
夜鳴きそばの屋台を一人で切り盛りする三十六歳の醜女。巨体で怪力、ふてぶてしい態度をとるが、「醜女の深情け」の諺通り、労咳の父を見捨てることもなく一人で屋台を営み生活を支えている。
自分に対しても、父に対しても軽んじることなく立ち会う鶴次郎に惚れてしまいその怪力と職を利用して彼の仕事を支えるようになるが、身分の差と自らの容姿へのコンプレックスから鶴次郎の妻になることを決断できず、鶴次郎の役に立って死ぬことで彼に迷惑をかけることなく消えることを密かに画策していた。
鶴次郎の力になりたいという意思を汲み取った彼の計らいで十手を与えられ手下となるも、最期は江戸巾着切りのアジトへ単身乗り込み柱をもぎ取って戦うなど人外じみた奮戦を披露。その中で負った傷がもとで危篤に陥るが、「十手者の家族はみな心に十手を持たされている」との言を残してこの世を去る。彼女の生き様は鶴次郎はもちろん、藤掛との関係性に悩んでいたろう女や藤掛本人にも影響を与え、越前さえも感服の涙を禁じ得ないほどだった。
千万
「十六後家」の異名を取る絶世の美少女。登場時は若干作画崩壊気味だが。彫物師の夫にふとももに白粉彫りのヘビを彫られた後、狂ったように抱かれて腎虚で死なれた過去を持つ。
もとは郭で生まれ、その容姿の美しさから初潮後すぐに老中に買われるなど波乱の人生を送る。その中で男ならば何でも自分の思い通りに出来るという歪んだ自信を持つに至り、偶然自分を助けた鶴次郎をも籠絡しようとするが、彼の十手への信念に絆され逆に惚れ込んでしまう。このパターンが以後30巻以上続くことになる
登場時点では巾着切りの元締め八兵衛の妾になっており、そこから逃げ出して鶴次郎に匿われて惚れる。その後は八兵衛との縁を切って一味の逮捕二協力し、越前の計らいで剃髪の刑に処され鶴次郎と将来を誓い合うが、その直後に八兵衛の子分に殺されてしまう。
おせん
背中に見事な閻魔の刺青が入っていることから「閻魔小兵衛」の異名を取る女悪党。
盗人の頭として君臨し、自らの刺青を利用して捕り方の目を引き一味を逃がすなど情に厚い面も持つ女だが、細かい経緯は不明ではあるものの部下たちに裏切られて捕縛され、なぐさみものにされる。
その部下は皆殺しにしたもののその際に妊娠させられており、以後はお腹の子をかばうために刺青を使いながら出産と育児の準備を一人整えていた。
しかし刺青の噂が出回ったことで町方に目をつけられ、鶴次郎に妊娠を見抜かれたことで水天宮で逮捕される。以後は例によって鶴次郎に惚れ込んでしまい、子供を大事に育てると言い張る鶴次郎のために自首して子を生むことを決意する。
しかし自らの過去の象徴である刺青に対する負い目が消えず、無理に消そうとした結果体を傷つけてしまい早産。出血多量で子供共々息を引き取った。
上方を中心に暴れまわる凶悪な盗人のンの政吉、別名「月の光」の妻。そうはいっても悪事には加担しておらず、十四のときに政吉に犯されて以降否応無しに同行させられていた。
上方で政吉の手を逃れ、江戸奉行所まで逃げ込むも政吉の策略により奪還され、汲み取り式便所に漬け込まれるという悲惨すぎる方法で隠されていた。鶴次郎に助けられ、その真摯な心根に惚れ込み、鶴次郎と情を通じた様を見せつけることで政吉を誘い出す餌を買って出る。
釣り出された政吉は無事逮捕されるも、悪人の妻としての自分を鶴次郎が妻に迎えることを良しとせず、隠密回り組の助けを得て、政吉の隠した金を得て狂喜する性悪女の芝居を演じる。それは女に関して散々苦労しその内面を知り尽くした鶴次郎さえ騙し切るほどの真に迫ったもので、望み通り鶴次郎は激昂し雲を見放した。その後ことごとく女の嘘を見破っている鶴次郎を騙し切るというのは並大抵ではない
その後の消息は不明だが、無事に上方へ戻ったものと思われる。鶴次郎と別れることにより死を免れたという作中でも希少な人物の一人。
お紺
船宿の女将で、三十路に至るがまだまだ若々しい美女。
繁盛する船宿を明るく切り盛りするが、その美しさ故にほうぼうの男たちから迫られて脅かされており、人の好さもあってそれを断ることができず板挟みとなり人知れず苦悩していた。それを悪党の黒独楽に付け込まれ、ついには船宿を盗人宿に利用されその情婦としていいように使われるまでになる。その中でわらをもすがる思いで鶴次郎に助けを求めることとなり、その中で本音をさらす生き方を知って彼と情を通じ合い、またしても将来を誓い合う。
だが、黒独楽を捕らえるための仕掛け船と知らずに鶴次郎と情事に及んでいたところに仕掛けが作動して船が沈み、溺れかけた鶴次郎を助けようとして自分が生命を落としてしまう。
夢香
郭編で登場した吉原の花魁。くっきりした顔立ちに泣きぼくろが特徴的な明るい性格の女性。物語前半の事実上のヒロイン。
花魁としての自分の役割をわきまえ、達観した考え方で風俗業に従事する。性欲も強いので仕事としても向いている気がする
その正体は吉原の総支配「四郎兵衛」の娘であり、ゆくゆく襲名して元締となる運命にある。
郭回りとしてやってきて苦悩する鶴次郎をその権力と明るさで支え、例に漏れずその真摯さに惚れ込む。鶴次郎に惚れる女にしては珍しく素直に好意を示し幾度となく夫婦になるよう迫るが、不幸な女がほっとけない気質の鶴次郎とは体を重ねることはあっても情を真に向けられることはなかった。
にも関わらず本人は諦めることもなく純粋に鶴次郎を愛し続け、また彼の気持ちが他の女に向いていることが分かっても嫉妬に狂うようなこともなく、彼と彼の愛する女たちをひたむきに守った。その職と裏腹に、ある意味では今作で最も一途な女と言えるかもしれない。
郭編の終了後も吉原の実力者として鶴次郎の最も強力な人脈の一人となり、事あるごとに立場、権力、財力、そして身体を健気に尽くし続けた彼女だったが、中盤にて人殺しの破戒僧を集めた三界寺の事実上の元締である紫貴尼の凶弾に倒れる。最後まで身を挺して鶴次郎を守り、吉原を鶴次郎に託して事切れた。彼女の死を境に物語の方向性は大きく転換し、鶴次郎は徐々に「死に神」ではなくなっていく。
花蝶
本名は早苗。もとは浪人の妻であり、労咳の夫を案じて自らを担保に女衒から金を借りるが、それを返せず吉原へ身を落とすことになる。足抜き(脱走)しようとするが見つかって連れ戻され、以降は花魁としての生涯を送ることになる。
郭番として苦悩する鶴次郎は、生きる希望を失わされた彼女を生き延びさせるために憎まれ役を買って出、花蝶はその筋書き通りに鶴次郎に憎悪を燃やす。しかし鶴次郎の真意を偶然聞いた花蝶は感じ入り、例によって惚れ込んでしまい、鶴次郎とも情を交わすようになる。
その後は郭番と花魁という越え得ない壁の前で苦悩し合うが、鶴次郎が郭を捨て十手者を続ける決意を固めたことにより別れることとなり、その後の消息は不明。最後の身請けの話は芝居だったが、その人気を考えると本当に誰かに身請けされた可能性もある。
かもめ
江戸の凶悪な盗人海猫の三次の娘で、その犯罪に加担していた美女。
「地下に埋められたお宝を掘り出すために上に立っている建築物を燃やし尽くす」という倫理観もへったくれもない作戦に従事させられるも、良心を捨てきれず半鐘を叩いて火事を知らせてしまったことで父の逆鱗に触れる。その自分を本気で心配する鶴次郎にやはり惚れてしまい、鶴次郎に自ら接触したことで父に関係が露見、生命を狙われるようになる。
鶴次郎とともに死線を越えた後は常吉の蕎麦屋の看板娘として働きつつ、例によって鶴次郎の情婦となる。しかし鶴次郎の不幸な女を救いたい癖はとどまることを知らず、ついには殺し人の女流囚人に付き添って島役を買って出ると言い出したことに激昂。納得して送り出しはしたものの心は鶴次郎を離れ、彼の不在のうちに男前の客とやんごとない仲となる。常吉の死に際のセリフを見るに、その客と結ばれ蕎麦屋を続けて居る模様。
一度鶴次郎を愛しながら「自発的に別の男になびいた」数少ない女であり、それが故に死に神の凶刃にかかることもなく幸福なその後を送った。
お竜
大道芸人のようなことをしている手妻師。縄抜けの芸を見せていたところ、調子に乗って失敗した摺吉を救うために出てきた鶴次郎と知り合い、彼に接近する。
実は鶴次郎をよく思っていなかった奉行所の縄術指南役唐沢孫兵衛と通じており、彼の十手を紛失させて彼を失脚させようと企んだ唐沢の手先として動いたのであるが、その企みは失敗に終わり、唐沢はお竜に色仕掛けを命じる。だが例によってお竜のほうが本気になってしまい、唐沢は自らの負けを認めて退いた。
もとは巾着切りであったが、唐沢の財布をスリにかかったところ逆に捕縛されてしまい、坐禅ころがしをかけられて以後身体が虜にされてしまっていた。
みぎわ
齢七十を数える白髪の上品な老婆。その正体は江戸を騒がせた謎の怪盗「白虎」の一員。
江戸中を股にかけて暴れまわりながら、人は殺さず金品もほとんど奪わないという謎の盗賊一味に手を焼いた奉行所だったが、彼女は鶴次郎を気に入り自ら正体をさらけ出すと白虎宅に招き入れ、そこで鶴次郎と情により情を交わす。
社会から見捨てられた熟女たちが自分たちの存在を誇示せんと些細な悪事を仰々しく働いていたというのが白虎騒動の真相であり、鶴次郎の勧めでその後は義賊に転身した。
もとは大名の家に生まれ、大名の正室となったとんでもない家柄の女性。しかし子をなすことができずに側室にその立場を奪われ、その後夫をすぐに無くし藩も取り潰される。しかし実家への帰参も許されず、実家から送られる金で家を買って生活していたという非業の老婆。
白虎四名はいずれも常人離れした身体能力を持つが、七十になってもこの体力とハリのある身体を維持しているのは驚異的というほかない。作中では病に倒れ生先も長くないという描写があったものの、作者がそれを忘れ何事もなかったかのようにもう一度登場してしまったこともある。しかもそれを二度繰り返した。やはり人外なのでは?
伊予
五十を過ぎた茶髪の女性。白虎の一員であり、剣の達人。
幼少期から剣一筋に育てられ、嫁ぐこともできず父の道場を継ぐものの、徐々に道場は廃れ、やむを得ず彼女は色仕掛けで男を落として弟子を取るという壮絶な生活を送るようになる。
なおも剣の腕は衰えず、自らを江戸でも10の指に入る使い手と称し、その後も名を捨てた剣豪綿引露心斎と真剣勝負で圧倒するなどその言にそぐわぬ実力を見せる。
お甲
四十後半に差し掛かった、小間物屋のもと女主人。
亭主に死なれ、乳飲み子を抱えて必死に生き抜いてきたものの、いざ子供が手を離れ店を継ぐようになると、今度は自分に何の役目も残されていないことに気づき絶望した。
美乃
四十を越えた、油問屋の女将。
自分が三十路をすぎたころ、亭主は若い女を囲って自分に見向きもしなくなった。
鈴江
江戸でも名うての薬問屋の女主人。薬問屋としては恵まれない庶民に薬を与えるなどして広く感謝され、また本人は武家出で武芸に長けるなど文武に長けた女性。かつては父の道場で鍛えられており、その道場に鶴次郎も出入りしていた。背が高く美人で強かったため、まだ子どもの鶴次郎に憧れられ初恋の相手となる。
しかし自分の強さと器量に奢りがあり、過剰な防犯意識でかえって店を危険にしていると鶴次郎に指摘されたときには高慢な態度で追い返した。の後はさらに見せつけるように老齢の剣豪露心斎を用心棒に雇うが、その露心斎が鈴江に近づき"実"を取ろうとしていたことに気づかなかった。
そして、夜な夜な金倉に一人入り小判で自らを慰めていたところに踏み込まれ、襲いかかられ恐怖で失禁。白虎と鶴次郎に助け出される。その後は鶴次郎に影響されて自分の弱さをさらけ出す生き方を知り、却って店の評判も上がったことに感謝して鶴次郎に惚れてしまい、しばらく夫婦同然に鶴次郎の家で暮らしていた。
しかしさすがに分別のある女性であり、繁盛している薬屋を続けることを優先。一人の女では鶴次郎を繋ぎ止められないと感じて潔く身を退いた。
清良井
江戸有数の札差(金貸し)「和泉屋」の女主人。美しいが頬がこけるほどの痩せぎす。
鈴江と同様に自らの立場に引きずられ意地を張る生き方をしてきたが、御徒浪人と小人を間違い口汚く追い返したことで誇り高い御徒衆大久保源伍の逆鱗に触れ、かばった鶴次郎と大久保が決闘することになってしまう。
責任を感じつつも意地を捨てきれなかった彼女だが、鶴次郎の巧みな話術によって本音をさらけ出すことになり、以後は意地を捨てて大久保に謝罪。大久保も鶴次郎の人徳に痛み入り、拳を下ろした。
その後は鶴次郎と夫婦同然の生活を送るも、清良井本人は性的な充足以前に心理的な充足を求めていることを鶴次郎は理解しており、身体の交わりではなく食事や生活を共にするだけの割合に澄んだ関係性で終わった。
…といくはずもなく、おかんに付き添って江戸を離れることを知った彼女は鶴次郎に跡取りの子種を求め、処女を捧げた。逆に言えば鈴江ともども死に神の凶刃にはかからずに済んだ。
おかん
評判の小料理屋の女主人…という表の顔を利用して、江戸の殺し人たちに"仕事"を与えていた「つなぎ」の女。鶴次郎の女のなかでもかなりの極悪人。
殺し屋を束ねる「三七屋」の娘として生まれ、江戸の殺し屋たちを束ねていたが鶴次郎に目をつけられる。夫を使って摺吉に重傷を負わせ、鶴次郎も殺そうとするが返り討ちにされ、自ら勝負を挑むも敗れて捕縛される。
おかんの恨みを買って摺吉を守ろうとした鶴次郎により弄ばれ、その思い通りに部下の清兵衛らを連れて乗り込むが、正体をなくすほど酔っていた鶴次郎を殺すことができず、逆に部下に裏切られて窮地に陥る。そこを鶴次郎に救われ、例によって惚れ込むことになる。
その後は江戸の殺し人の大半を挙げることに協力したことで死罪を免れるも、日本中の殺し屋に生命を狙われる立場となる。これを守るべく、鶴次郎は江戸を離れて島役として付き添うことになる。
その後は憑き物が落ちたように純粋になり、島の暮らしを良くしようと奔走する鶴次郎を支え、また潰れかけていた社「おたいさま」を手入れして巫女まで始め、神秘的なオーラで手を出そうとした流人たちさえ跳ね除けた。その後、自らを殺すためにやってきた止人お柳と邂逅するも彼女さえも改心させ、共に島で暮らすようになる。
しかし優れた十手者である鶴次郎を島につなぎとめるのは民にとっても忍びないと考え、鶴次郎を江戸へ帰す。その後、風病にかかり鶴次郎の知らないところで亡くなる。ここで死んでいなかったとしてもくらまに殺されていたので、どのみち死に神の凶刃からは逃れられなかったという悲しい運命であった。
女々
定回りの父を持つ勝ち気な少女。自分も十手者になって人を助けると言い張り、兄貴分の貞吉に手を焼かせている。
江戸へ帰り浮浪者のふりをして町を見て回っていた鶴次郎と出会い、例のごとくその真摯さに引かれ鶴次郎の妻の座を求める。だがそれは鶴次郎そのものというよりも、十手者の妻という立場を得たがったがゆえのことであった。
最後はおかんのことで鶴次郎に恨みを持つ殺し人こぶしの仙造の凶弾に倒れる。あれだけ強気だったのに本物の切り合いを見て腰が抜けるという女子らしい側面もある
お杉
巾着切りで、やくざ明神綱の親分の妾だった女。
女々の死に落胆し何でも屋となって俗世を離れた鶴次郎と知り合い、その助力で親分の元を去り巾着切りの足も洗って鶴次郎の情婦としてしばらくの時を過ごした。
その後、越前の虚像を知った鶴次郎が上方へ左遷された折に別れることとなる。
千世
上方で枕探しで生計を立てていた少女。姉の百世、その背後についていた役人鈴木主水と組み、大坂へやってきた鶴次郎をかどわかして生活費を奪う。
しかし根こそぎ奪い取ろうとした姉と鈴木は逆に鶴次郎にはめられ、逆上した鈴木は百世を殺し鶴次郎に挑むが返り討ちにされる。
鶴次郎が姉を殺したものと思い込んで敵討ちに乗り込んだところを、上方のやくざ者上方怨造に捕縛され全裸にされて閉じ込められた上、阿片中毒にまでさせられる修羅場を味わう。
大阪城代の協力によって上方怨造を壊滅させた後は鶴次郎の情婦として彼の旅に付き添うが、穂ともども吉宗に向けて放たれた刺客尾張くろかみの凶刃に倒れる。
掛川穂
上方屈指の剣豪の娘に生まれ、女ながら剣の達人に育つ。
しかし父は上方の札差のあくどいやり方に反発した鶴次郎の行動により、とばっちりで責任を負わされ切腹。彼女は鶴次郎に激怒し自殺を図るが、父の遺言でそれを止めるように言われていた鶴次郎は必死に追いすがる。
その最中で押し込みの賊に襲われるがその剣技で返り討ちにし、またその修羅場で鶴次郎の生き様に触れたことで彼を見直し、急に惚れる。
その後は鶴次郎の旅を支え、猫座にまでたどり着いたが吉宗に扮した鶴次郎を守って果てる。
鞍馬
猫座のくノ一。大奥での一部始終を知った鶴次郎の監視として送り込まれたが、その過程でやはり鶴次郎の生き様に惚れてしまう。今作後半のヒロイン。
くノ一として育てられ男に対して感じない身体にされてしまっていたが、南蛮の媚薬ヨヒンビンにより治療され、以後は鶴次郎が眠れないほど彼の精を吸い取っている。
鶴次郎よりも40cmは長身という大女で、そのケタ外れの強さで鶴次郎を影から守り続けた。ヒロインが彼女