表現行列とは、線形写像を表現する行列。変換行列とも。
次元ベクトル
を
次元ベクトル
に写す線形写像を
とすると以下のようである。

このとき、
は
行列である。
線形写像同士の線形結合は線形写像なので、表現行列の線形結合も元の写像同士の線形結合である線形写像の表現行列になっている。
また、線形写像同士の合成写像は線形写像なので、表現行列同士の積も元の線形写像同士の合成写像の表現行列になっている。
つまり、次のようなことが言える。
線形写像
の表現行列を
と書くこととする。
線形写像
と実数(あるいは複素数など)
について、
線形結合の写像が求まるような条件下での
の表現行列
は、
である。
同様に、合成写像が求まるような条件下での
の表現行列
は、
である。
また、写像が可逆であることとは、その写像の表現行列が正則であることと同値である。
さらに、その写像が可逆であるとき、逆写像(逆変換)の表現行列は、元の写像の表現行列の逆行列である。
2次元平面上の表現行列[編集]
2次元ベクトル
を
次元ベクトル
に写す線形写像の多くは、
行列で表記できて、
平面上の点
を
に写す写像であると捉えられる。
ただし、平行移動は原点を動かすので、次元を上げて
行列にする必要がある。また、
行列で示す行列も、適切に成分を追加することで
行列として扱える。
行列では、

と考える。
行列では

と考える。
このとき、
ならば、
行列での扱いは
である。
軸についての反転の行列[編集]
軸についての反転の表現行列は以下のように表せる。

軸についての反転の表現行列は以下のように表せる。

これらの写像は可逆で、表現行列は正則であり、逆行列はそれぞれ自分自身である。
軸に射影する行列[編集]
軸に射影する表現行列は以下のように表せる。

軸に射影する表現行列は以下のように表せる。

これらの写像は不可逆で、表現行列は正則でなく、逆行列は存在しない。
原点からの距離を変える行列[編集]
原点からの距離を
倍にする表現行列は以下のように表せる。

この写像は可逆で、表現行列は正則であり、逆行列は
である。
一般の拡大縮小行列[編集]
成分を
倍に、
成分を
倍にする表現行列は以下のように表せる。

#軸についての反転の行列や#軸に射影する行列,#原点からの距離を変える行列は、この特殊形になっている。
この写像は
のとき可逆で、表現行列は正則であり、逆行列は
である。
のときは不可逆で、表現行列は正則でなく、逆行列は存在しない。
せん断の行列[編集]
軸方向にずらして、
軸から
ラジアンだけ傾かせる表現行列は以下のように表せる。

軸方向にずらして、
軸から
ラジアンだけ傾かせる表現行列は以下のように表せる。

これらの写像は可逆で、表現行列は正則であり、逆行列はそれぞれ
である。
原点回りの回転行列[編集]
原点回りに
ラジアンだけ回す回転行列は以下のように表せる。

この写像は可逆で、表現行列は正則であり、逆行列は
である。
詳しくは、回転行列を参照されたい。
平行移動の行列[編集]
方向に
だけ、
方向に
だけ平行移動する表現行列は以下のように表せる。

この写像は可逆で、表現行列は正則であり、逆行列は
である。
ただし、平行移動では

と考える。
アフィン変換の行列[編集]
アフィン変換は、拡大縮小,せん断,回転,と平行移動の組み合わせの変換である。(より一般に、始域と終域が異なるものも含めるとアフィン写像と言う)
#概要に記した通り、表現行列同士の積も元の線形写像同士の合成写像の表現行列であり、アフィン変換は線形変換である。
平行移動を含むので、2次元のアフィン変換は
行列で考える。
例えば、
成分を
倍に、
成分を
倍にして、
軸方向にずらして、
軸から
ラジアンだけ傾かせ、
原点回りに
ラジアンだけ回し、
方向に
だけ、
方向に
だけ平行移動するアフィン変換の表現行列は以下のように表せる。

このとき、行列を掛ける順番は区別し、これはアフィン変換の各要素の順番によって表現行列が一般には異なることを示している。
また、一般にはアフィン変換の表現行列は以下のように表せる。

ここで、このアフィン変換の平行移動の部分は、
方向に
だけ、
方向に
だけの移動であり、
は、平行移動を除く変換の表現行列(
行列表記)の積である。
また、このアフィン変換が可逆であることと、
が正則行列であることは必要十分条件の関係にある。
なぜなら、このアフィン変換が可逆であるということは、
に対して
となる行列
が存在することである。
ただし、
は単位行列であり、何もしないでそのまま写す写像の表現行列である。
まず、
となる行列
が存在するということは、
次に
の逆行列
が存在することであり、
が正則であることであり、
である。
行列式の計算によって、
である。
そして、
ということは、
が正則であることである。
以上の同値関係をまとめると次のようになる。
で表現されるアフィン変換が可逆
↔
に対して
となる行列
が存在
↔
の逆行列
が存在
↔
が正則
↔
↔
↔
が正則
よって、このアフィン変換が可逆であることと、
が正則行列であることは必要十分条件の関係にある。
さらに、アフィン変換が可逆であるとき、その逆変換の表現行列は

である。
を掛けて単位行列になることを確認することができる。
関連項目[編集]