上代特殊仮名遣

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上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい)とは、上代日本語に使用された特殊な仮名の使いわけのこと。 

名称は国語学者橋本進吉論文「上代の文献に存する特殊の仮名遣と当時の語法」[1]由来。単に「上代仮名」とも。太字文

藤井游惟の説[編集]

(藤井游惟の新説については、2020年頃からWikipediaに於いて論議されはじめ様々な論議を生んだが、2022年末に決定稿となり、2023年6月30日まで上代特殊仮名遣いの項に普通に掲載されていた

ところが2023年7月になって、HN「Sumaru」およびその眷属と思われる「Ten]「Kzur」「Henlly3839」などといった上代特殊仮名遣とは全く関係のない者たちが突如「上代特殊仮名遣」の編集に介入してきて、陰険かつ強引な手段で「Ssaimass」ら藤井説支持派を追放し、わずか2週間ほどで藤井説はWikipediaから半永久的に追放されてしまった。 '

この「Sumaru一党」のような、自らの権力を誇示することだけを目的とするような人物が、Wikipedia編集の権力を握っていることは憂慮に耐えない。

この「Enpedia」はWikipedia編集者で良心的な者が、Sumaruのような恣意的権力によって排除された重要な記事を記事を拾って紹介しているようであり、藤井の記事に関する限り良心的な編集をしている。 このような良心的編集者が増え、Sumaruのような権力を振り回すことに快感を覚えるWikipedia内部の無法者を追放してくれることを祈る)


1980年代以降、松本克己説を巡っての上代日本語が5母音か否かの議論は長らく停滞していたが、21世紀に入って学際研究者の藤井游惟が、2001年国語学会春季大会[2][3]及び2002年日本音声学会全国大会[4]でその骨子を発表した後、2007年に音声学を中心として歴史学・朝鮮語・中国語などの多様な学際的観点を取りいれた単行本『白村江敗戦と上代特殊仮名遣い―「日本」を生んだ白村江敗戦 その言語学的証拠』[5]を上梓し、松本とは異なる上代五母音説を唱えた。

藤井の説は端的に言うと、日本語はもともと五母音であり、「上代特殊仮名遣い」とは、663年の白村江敗戦後、日本に大量亡命してきた朝鮮語を母語とする百済文化人達及び日朝バイリンガルに育った二世、早期の三世の帰化人書記官たちが、八種類の母音を持つ朝鮮語の音韻感覚で日本語の条件異音を聞き分け、書き分けたものであるとする「上代特殊仮名遣い百済帰化人用字説」というべきものである。

7~8世紀以往の古代朝鮮語に関する資料は皆無に等しく、朝鮮語の全貌が明らかになるのは1443年の『訓民正音』(ハングル文字)制定からであるが、当時から今日まで朝鮮語には八つの母音、就中日本語話者には判別困難な/오/[o]・/어/[ɔ]という二種類の母音があり、李 基文はその区別は1104年に中国人(宋)の外交官によって編纂された辞書の『鶏林類事』にまで遡ることができるとしている[6][注 1]。故に7~8世紀の朝鮮語にも/오/・/어/を含む八つの母音があったとみなすことは不当ではない、と藤井はしている[7][注 2]

一方で藤井は、現代日本語、特に現代関西方言のオ段音の発音をビデオなどを用いた音声学的実験によって分析し [注 3]、現代人も無意識のうちに唇の開き方が異なる2種類のオ段音を条件異音(conditional allophone)として規則的に発音し分けており、唇の窄まったオ段音を甲類、唇の開いたオ段音を乙類とすれば、その発現法則は有坂・池上の法則初め上代オ段甲乙の発現法則と一致することを発見した。

甲乙/O/母音の音価については、甲類は[o]としてよいが、乙類は典型的には[ɔ]であるが一定ではなく、声門音→奥舌音→前舌音→両唇音(オコヨロノソトモポ)の順で乙類の唇の開きは狭まり両唇音では甲乙の差が殆どなくなるとし、上代の「コ」の甲乙書分けが遅くまで残ったのは甲乙差の大きい声門音であるため、「モ」「ホ(ポ)」甲乙書き分けが判然としないのは甲乙差が殆どない両唇音であるためだとする[注 4]

またアクセントとの関係では、/O/母音は高音では唇が開く(乙類になる)、低音では唇が窄まる(甲類になる)という性質があり、「世・代」が乙類、「夜」が甲類である理由は、関西方言では前者がHアクセント、後者がLアクセントであるからであるとしている[9]

さらに藤井は、オ段甲乙音に充当されている漢字の朝鮮音をハングルが振られた朝鮮最古の韻書『東国正韻』(1447)で調べ、甲類漢字の母音は明確に円唇の/오/[o]、乙類漢字は/어/[ɔ]もしくはそれに近い非円唇母音[注 5]であり、上代特殊仮名遣いの用字者は百済帰化人である証拠だとしている[11]

そして藤井は「8世紀半ば以降上代特殊仮名遣いが急速に崩壊してゆくのは、八つの母音を聞き分けられた白村江帰化人一世はもとより、日朝バイリンガルに育った二世・早期の三世の百済帰化人書記官達も8世紀半ばには急速に死に絶え、日本語しか話せない後期の三世・四世・五世と世代交代するため」であり[12]、「平安時代に入ると言語的に日本人化した帰化人を含む日本人自身による日本語の研究が進んで平仮名や片仮名が発明され、表音文字体系も日本語本来の五母音に収斂して行ったのだ」としている[13]

なお藤井は、イ段とエ段の甲乙については、ア行の/イ/・/エ/が甲類、ワ行の/ヰ/・/ヱ/が乙類とする考えを述べ、イ・エ段音の甲乙の発音は、/ki/と/kwi/、/pi/と/pwi/、/mi/と/mwi/、/ke/と/kwe/、/pe/と/pwe/、/me/と/mwe/のように、乙類母音は/u/と/i/、/u/と/e/の二重母音、あるいは子音と母音の間に渡り音/w/や/je/が入った二重母音であろうとしているが、それは/O/の甲乙のような異音(allophone)ではなく、日本人自身が聞き分け、発音し分けられる性質の変音で、百済帰化人記述説などを持ち出さなくても音韻論的に説明できる現象であるとして、この問題はあまり重視していない[14]

特筆事項[編集]

  • 藤井(2007)は、甲類/O/母音はIPAで[o]としてよいが、乙類/O/母音の開口度は一定ではなく、頭子音やアクセントの違いにより[o]~[ɔ]の間で変化するとしている。

主な論点[編集]

オ段甲乙の存否[編集]

5母音説を主張する藤井游惟は、松本等の説で説明が難しかった「夜 yo₁」「世 yo₂」の単音節語のオ段の甲乙の対立はアクセントの副産物として生じる異音で、「夜」が低調、「世」が高調であったことによるとする。 また藤井は、「恋フ」と「乞フ」のように辞書に載っている終止形のアクセントは同じでも、用言のアクセントは活用形で変化するし、体言も複合語や接頭語・接尾語になるとアクセントが変化するので、どのような形でその単語が用いられているかを考慮に入れて比較すれば大半のペアはアクセントの違いで説明がつくだろうとしている。[15]

衰退の要因[編集]

上代特殊仮名遣の対立は徐々に消えていったが、言語変化の要因一般に言えること[16]から過去に研究者に言及されたものとして、以下の理由が挙げられる。

一方、藤井游惟は上述のように、上代特殊仮名遣は白村江の戦いから大量亡命した朝鮮語を母語とする百済からの帰化人書記官たちが、朝鮮語の音韻感覚で日本語の条件異音を聞き分け、書き分けたもので、8世紀中葉から上代特殊仮名遣が急激に衰退してゆくのは、白村江から100年近く経ち、世襲の白村江亡命百済人書記官達が日本語しか話せない三世・四世・五世へと交代していったためであり、現代日本人(特に関西方言話者)も上代オ段甲乙音と全く同じ法則に基づいて二種類の/O/母音を無意識に発音し分けていることを音声学的実験によって証明している。[17][18][19]

参考文献[編集]

  • 藤井游惟『白村江敗戦と上代特殊仮名遣い:「日本」を生んだ白村江敗戦 その言語学的証拠』東京図書出版会 2007年10月 ISBN 4862231470

関連文献[編集]

和文(単行本)
  • 橋本進吉『国語音韻の変遷』岩波書店
  • 橋本進吉『古代国語の音韻に就いて』岩波書店
  • 松本克己『古代日本語母音論:上代特殊仮名遣の再解釈』ひつじ研究叢書(言語編 第4巻) ISBN 4938669315
和文(論文)
  • 大野晋「上代日本語の母音体系について」『言語』5-8, 1975年8月
  • 服部四郎「上代日本語の母音体系と母音調和」『言語』5-6, 1975年6月
  • 服部四郎「上代日本語の母音音素は六つであって八つではない」『言語』5-12, 1975年12月
  • 平山久雄「森博達氏の日本書紀α群原音依拠説について」『国語学』128, 1982年3月
  • 平山久雄「森博達氏の日本書紀α群原音依拠説について、再論」『国語学』134, 1983年9月
  • 松本克己「古代日本語母音組織考 -内的再建の試み-」『金沢大学法文学部論集文学編』22, 1975年3月
  • 松本克己「日本語の母音組織」『言語』5-6, 1975年6月
  • 松本克己「万葉仮名のオ列甲乙について」『言語』5-11, 1975年11月
  • 森博達「唐代北方音と上代日本語の母音音価」『同志社外国文学研究』28, 1981年2月
  • 森博達「平山久雄氏に答え再び日本書紀α群原音依拠説を論証す」『国語学』131, 1982年12月
  • 森重敏「上代特殊仮名遣とは何か」『萬葉』89, 1975年9月
  • 安田尚道「上代特殊仮名遣い」『日本語学研究事典』明治書院、2007年。ISBN 9784625603068
欧文
  • Frellesvig, Bjarne; Whitman, John (2008), “Introduction”, in Frellesvig, Bjarne; Whitman, John, Proto-Japanese: Issues and Prospects, John Benjamins, pp. 1–9, ISBN 978-90-272-4809-1. 
  • Miyake, Marc Hideo 『Old Japanese : a phonetic reconstruction』 RoutledgeCurzon、London; New York、2003年。ISBN 0-415-30575-6。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. 鶏林類似以前の資料で朝鮮語の「文章」と呼べるものは、『三国遺事』(1289)に14首、『均如伝』(大華厳首座円通両重大師均如伝)に(1075)に11首収録された、朝鮮式の万葉仮名とでもいうべき「郷札」借音仮名で記された25首の「郷歌」があるのみであり、他は『三国史記』(1445)等の資料いに百済・新羅・高句麗などの人名・地名などが借音仮名で記されているのみで、詳しいことは解らない。
  2. 「『三国類事』『均如伝』などに記された朝鮮語は「新羅語」であり、「百済語」とは違う」という論者がいるが、『鶏林類事』は高麗朝時代で都は京畿道の開京、『訓民正音』は李朝でやはり京畿道の漢陽を都としており、京畿道は三国時代には百済領であるから、『鶏林類事』や『訓民正音』で「百済語」を論じることに全く問題はない。
  3. この発音実験の模様を録画した音声ビデオCDを自著に添付しているほか、朝鮮語と中国18カ所の方言話者に方言漢字音で『万葉集』の歌十首を発音させる実験を行い、その模様もCDに収録している。
  4. 藤井は「ヲ」と「オ」は母音音節/O/の甲乙だと考えている[8]
  5. 「ト乙類」相当の「더」、「ノ乙類」相当の「너」、「モ乙類」相当の「머」、「ソ乙類」相当の「서」の音を持つ漢字は、そもそも『東国正韻』に存在しない。故にこれらの乙類オ段音は/어/に近い非円唇母音の漢字で書き分けるしかなかったとしている[10]
  6. 例えば大野晋などが述べている
  7. 例えば松本克己などが述べている

出典[編集]

  1. 國語と國文學』第8巻第9号、1931年9月。後に『橋本進吉博士著作集3「文字及び仮名遣の研究」』(岩波書店、1949年11月)所収。
  2. 日本語学会公式ウェブサイト 国語学会2001年度春季大会 2022年9月7日閲覧
  3. 国立国会図書館リサーチ 上代特殊仮名遣いと朝鮮帰化人 : オ段甲乙音を中心に調音音声学と朝鮮語音韻論からみた万葉仮名 2022年9月7日閲覧
  4. 日本音声学会公式ウェブサイト 2001年全国大会 2022年9月7日閲覧
  5. リフレ出版 ISBN978-86223-147-5
  6. 李 基文; Ramsey, S. Robert (2011), A History of the Korean Language, Cambridge University Press, ISBN 978-1-139-49448-9.
  7. 藤井(2007)P.255~284
  8. 藤井(2007) P.196~203
  9. 藤井(2007) P.186~192
  10. 藤井(2007)P.243~244
  11. 藤井(2007)P.239~247
  12. 藤井(2007)P.10
  13. 藤井(2007)P.102
  14. 藤井(2007) P.209~211
  15. 藤井(2007) P.206~208
  16. これは例えばエウジェニオ・コセリウ『言語変化という問題』(岩波文庫)などを参照。
  17. 藤井游惟(2007)『白村江敗戦と上代特殊仮名遣い―「日本」を生んだ白村江敗戦 その言語学的証拠 』東京図書出版会 https://hakusukinoe.site/
  18. https://6216.teacup.com/youwee/bbs 2017年 3月10日(金)21時04分21秒の投稿
  19. 詳しくは藤井游惟 https://hakusukinoe.site/ 参照

関連項目[編集]