ルルイエの印

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

ルルイエの印』(ルルイエのしるし、原題:: The Seal of R'lyeh)は、アメリカ合衆国のホラー小説家オーガスト・ダーレスによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ファンタスティック・ユニヴァース』1957年9月号に掲載された。ダーレスが手掛けたインスマス物語群の1つであり、特にクトゥルフ崇拝者としての側面を強調したものである。

東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて、「<クトゥルーインスマス物語>群の一編。ダーレスの神話作品の中でも後期に属するため、作中で語られる神話の概要もよく整理されており、クトゥルー崇拝者の実態を知るには最適の作例となっている」と解説している[1]

インスマスの住民の多くが犠牲になった事件への言及が作中にある。邦訳ではこの事件を「28年前」の出来事としているが、これは「1928年に」(in '28)[注 1]の誤訳である。結末における主人公の失踪は1947年11月にあったとされる。またオバディア・マーシュという人物が言及され、既存のオーベッド・マーシュと異なるインスマス史が説明される[注 2][注 3]。また本作の世界線では、『闇に囁くもの』の語り手人物であるウィルマースは行方不明になっている。

あらすじ[編集]

18世紀末、インスマスのオバディア・マーシュ船長の船が遭難し、船長と航海士サイラス・フィリップスの2人だけが、ボートで生還する。マーシュとフィリップスは、出自不明の女性を妻に娶る。

マイアス・フィリップスは、祖父と両親によって、海や水に近づくことを禁じられて内陸部で育てられる。マイアスが22歳のときに母と叔父が相次いて亡くなり、マイアスは遺産を相続する。叔父が住んでいたインスマスの屋敷には、多くの魔道書や手記が残され、また室内は奇妙な円盤模様の印で飾られていた。

家政婦として雇い入れたアダ・マーシュは、シルヴァン叔父が調査していたものに興味を抱いており、何も知らないマイアスには失望したような態度をとる。マイアスは叔父の資料を調べ、旧神旧支配者の神話について知り、さらに叔父がクトゥルフ神話を信じ切っており、本気でルルイエを探し求めていた記録を読む。アダは、マイアスが何気なく立っている絨毯の模様こそが、シルヴァンが発見した「大いなるルルイエの印」なのだと指摘する。マイアスは、ルルイエの印が刻まれた銀の指輪を発見し、さらに指輪に導かれるままに、部屋から地下水脈に繋がる隠し階段を見つける。

海に呼ばれたマイアスは、足ひれと酸素ボンベを身につけて、沖へと向かう。理性ではボンベの酸素が長くはもたないとわかっているのに、見えない力に突き動かされるという状況に、マイアスは葛藤し、ついには溺れて沈む。そこに、泳いできたアダが、マイアスからマスクとボンベを「外して」助ける。オバディア・マーシュの子孫であるアダと、サイラス・フィリップスの子孫であるマイアスは、両棲人であった。シルヴァン叔父がルルイエを探していた方法というのも、潜水服でも機械でもなく、シンプルに泳いだだけである。

覚醒したマイアスは、叔父の遺志を継ぎ、アダと共に大いなるクトゥルフを見つけ出すことを己の目標とする。海底の同胞とも出会う。2人はポナペの海底を調べ、ついに巨石建造物の中でルルイエの印の原型を見つけ、己らが奉仕すべき大いなるクトゥルフが眠っていることを悟る。マイアスは、自分とアダの間に産まれる新たな子供に希望を抱きつつ、海と地球全土を自分達が支配することを夢見て海底へと向かう。

ポナペの船から不可解な失踪を遂げたマイアス・フィリップス夫妻について、シンガポールの新聞が報道する。船室から発見された原稿は「事実の装いをしているが小説にほかならない」ものとみなされる。

主な登場人物・用語[編集]

  • オバディア・マーシュ船長 - 過去の人物。1797年に遭難から生還した後、財をなすようになった。
  • サイラス・オルコット・フィリップス - 過去の人物。オバディア船長の船の航海士であり、腹心。
  • フィリップス祖父 - インスマスに住んでいたが、子や孫を海から遠ざけるようにしていた。
  • ジャレット・フィリップス - 父。若いころに交通事故死。
  • シルヴァン・フィリップス - 叔父。50歳で死去。奇人とされ、実父の命に従わず海のそばで暮らしていた。インスマスの街中と海べりの崖とに2軒の家を持ち、(祖父が過ごした前者の家は顧みずに)ほとんど後者で過ごしていた。
  • マイアス・フィリップス - 語り手。フィリップス家の最後の一人。22歳。海に心惹かれるものがあったが、海に近づくことを禁止されて育つ。
  • アダ・マーシュ - マーシュ家の生き残り。25歳。シルヴァンとも懇意であった。思わせぶりな態度をとる。
  • ルルイエの印」 - シルヴァンが発見して写し取り、家を飾っていた模様。印が刻まれた銀の指輪もある。

収録[編集]

関連項目[編集]

  • 永劫の探究 - 第2部が1940年のインスマスを、第5部が1947年9月のポナペを舞台にしている。『ルルイエの印』は5部直後の同じ場所を扱った話であり、『永劫の探求』で語られたルルイエへの核攻撃をほのめかす記述がある。

関連項目[編集]

オーベッド・マーシュ
インスマスの影』で言及される、インスマス史における重要人物でありながら、本作で言及されない人物。
19世紀に深きものどもに生贄を捧げることと引き換えに黄金や豊漁を得て、異教の神を崇めるようになった。人外と婚姻し、マーシュ家と、船員幹部のウェイト家、ギルマン家、エリオット家の三家がインスマスを掌握した。オーベッドに反対したマット・エリオット航海士は消されている。
対して本作においては、オバディア・マーシュ船長とサイラス・フィリップス航海士(マーシュ家とフィリップス家)という関係のみが言及されている。

脚注[編集]

[ヘルプ]

注釈[編集]

  1. インスマスの影』では、1927年の冬から1928年にかけて連邦政府が秘密裏にインスマスを捜査し、住民の大々的な検挙とイハ=ントレイへの魚雷攻撃を行ったことになっている。
  2. オバディア船長の行動はオーベッド船長を彷彿とさせるが、細部も時系列も異なる。またオーベッド船長への言及が一切無い。
  3. 二次資料『エンサイクロペディア・クトゥルフ』では、オバディア・マーシュとオーベッド・マーシュを世代の異なる別人ということにしている。

出典[編集]

  1. 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』368、369ページ。