ポルノ・オナニー批判論
ポルノ・オナニー批判論(英: Criticism of Porn and Masturbation)とは、ポルノグラフィや性行為が人体や脳に弊害を及ぼすことやその有害性を批判したムーブメント、社会現象。2010年代後半より始まり、2020年代にはゲーリー・ウィルソンが『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』を出版したこともあり、本格的になっていった。WHOはポルノ依存を精神疾患の1つとして認定している[1]。
概要[編集]
多くの機関による研究ではポルノやオナニーによる脳への悪影響が現代社会の諸問題(犯罪、精神障害、心身衰弱など)の根源であるとしている。インターネット上には性的な画像・動画が溢れており、ポルノグラフィ中毒に対する批判は以前より行われていたが、2020年代にその動きが活発になり始め、様々な学術機関が研究データを公表している。
2021年にはゲーリー・ウィルソンが『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』を出版し、様々な医学的アプローチを用いた上でポルノやオナニーの有害性を記述した[2]。
有害性[編集]
人間はポルノ鑑賞・性行為などによってドーパミンの基準や感度が下がり、思い切った行動の減少、不安、鬱、怒りの過剰反応、精神障害、社交力低下、引きこもり、集中力欠如、やる気欠如、前向き(ポジティブ)な予想の欠如、落ち着きの無さ、恐怖、強迫観念症状など、マイナス面が強まるという[3][4]。またドーパミン代謝の変化は灰白質密度の減少に関係するのではないかとも考えられており、ドーパミンが過剰分泌されると人体に諸問題が生じるというデータも公表されている[5][6][7]。
医学専門誌である「JAMA Psychiatry」は2014年5月に、軽度のポルノ利用者でも灰白質(認知機能を司る脳部位)の減少や性的反応の低下がポルノ鑑賞と相関するという研究を掲載した[8][9]。
別の研究データによると、ポルノ鑑賞について、側坐核(脳の報酬中枢)と視床下部の性中枢の灰白質萎縮、灰白質の喪失は神経細胞分岐と他の神経細胞との接続喪失を意味し、ドーパミン信号の減少により8気筒エンジンが3気筒で無理に走るような物だという[10][11]。
また減少した灰白質は該当する問題行動を止めれば元に戻るという[12]。灰白質についてはカフェインやシリアルなどを実験対象にしたデータも公表されている[13]。
詳細は「灰白質」を参照
ストレス系は長期のストレス要因に耐えられるようにするが、ポルノ中毒はストレスホルモンの循環や脳のストレス系に多数の変化を引き起こし、ストレス耐性などにも悪影響を及ぼす[14]。
心理学者であるフィリップ・ジンバルドーはポルノやテレビゲームなどの興奮中毒が引っ込み思案などの社会不安を生じ、社会能力の発達を阻害するという[15]。
ノーマン・ドイジは著書『脳は奇跡を起こす』にて、ポルノの刺激は脳の不動産を乗っ取り、配線を変えてしまうと述べている[15]。
2023年8月8日に毎日新聞はネットポルノ依存の深刻さについて記事を取り上げた[1]。
対処法[編集]
灰白質はポルノや性行為を断って時間が経てば回復し[12]、増加させることが可能だという[16]。日常を多忙にしてポルノ鑑賞や自慰を行う時間を強制的に無くしたりするなど、関心を現実世界に向けることだといい、ウィルソンはそれをコンピューターを再起動させたり元の工場出荷状態に戻すような事に例えている[17]。まずは行動を先に変え、行動を変えることで人間の構造も自ずと変わり、新しい生き方や思考が脳機能の変化に反映されるという[17]。
またウィルソンはReboot Nationを活用することも推奨している。
脚注[編集]
- ↑ a b https://www.facebook.com/mainichishimbun.+“「やめたくてもやめられない…」 実は深刻なネットポルノ依存” (日本語). 毎日新聞. 2023年8月8日確認。
- ↑ “TEDxトーク900万回以上再生の著者が書き下ろし!〈スマホ脳〉に続く社会問題〈ポルノ脳〉を解き明かす唯一の書籍『インターネットポルノ中毒』が発売”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2023年3月9日確認。
- ↑ ゲーリー・ウィルソン 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 山形 浩生訳、DU BOOKS、2021年3月31日、140, 141。ISBN 978-4866471419。
- ↑ “Watching Adult Films Alters Brain Activity Similar To Drug Addicts, Alcoholics: The Pornographic Mind” (英語). Medical Daily (2015年8月12日). 2023年3月9日確認。
- ↑ “線維筋痛症患者の灰白質密度の減少がみられる部位とドーパミン代謝との相関関係 - 慢性の痛み情報センター” (日本語) (2018年11月15日). 2023年3月9日確認。
- ↑ “統合失調症はドーパミンの過剰分泌が原因か” (日本語). Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」. 2023年3月9日確認。
- ↑ France-Presse, Agence (2014年5月29日). “Porn viewing linked to less grey matter in brain” (英語). The Guardian. 2023年3月10日閲覧。
- ↑ ゲーリー・ウィルソン 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 山形 浩生訳、DU BOOKS、2021年3月31日、14, 83。ISBN 978-4866471419。
- ↑ Kühn, S.、Gallinat, J. (2014-05). “Brain Structure and Functional Connectivity Associated With Pornography Consumption: The Brain on Porn”. JAMA Psychiatry: 71, 827-834.
- ↑ ゲーリー・ウィルソン 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 山形 浩生訳、DU BOOKS、2021年3月31日、120頁。ISBN 978-4866471419。
- ↑ 『Macrostructural Alterations of Subcortical Grey Matter in Psychogenic Erectile Dysfunction』PLOS ONE 7、Cera, N. et al.、e39118、2012
- ↑ a b “定期的なカフェインの摂取は脳の構造に影響”. LINK de DIET. 2023年3月10日確認。
- ↑ “第78話 食べ物で変わる脳の大きさ! - さくら薬局グループ”. www.kraft-net.co.jp. 2023年3月10日確認。
- ↑ ゲーリー・ウィルソン 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 山形 浩生訳、DU BOOKS、2021年3月31日、130頁。ISBN 978-4866471419。
- ↑ a b ゲーリー・ウィルソン 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 山形 浩生訳、DU BOOKS、2021年3月31日、81頁。ISBN 978-4866471419。
- ↑ 日経ビジネス電子版. “脳の構造を変える! マインドフルネスって何?” (日本語). 日経ビジネス電子版. 2023年3月10日確認。
- ↑ a b ゲーリー・ウィルソン 『インターネットポルノ中毒 やめられない脳と中毒の科学』 山形 浩生訳、DU BOOKS、2021年3月31日、148頁。ISBN 978-4866471419。