C. elegans
シー・エレガンス(Caenorhabditis elegans) は、カンセンチュウ目カンセンチュウ科に属する線虫の一種。土壌に住む、体長一ミリほどの自由生活性の線虫である。シドニー・ブレンナーによって全体細胞の発生系譜が記載され、ゲノム研究のモデル生物としても用いられる。成体の細胞数が約1000個であり、受精卵細胞の予定発生運命は厳密に決まっていて、その生活リズムは安定環境下において非常に規則的で、実験室内で飼育することも容易である。(ブレンナーは、器官発生とアポトーシスの遺伝制御に関する発見をした成果に対し、ロバート・ホロビッツ、ジョン・サルストンと共に2002年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。) 多細胞生物として最初に全ゲノム配列が解読され、総遺伝子数が約1万9千であることが示された。
"Caenorhabditis"という属名が長ったらしいので、通常C. elegansと略される。通常、本文中の2回目の登場以降から属名を略する事が多いのだが、とくに生理学系の論文ではタイトルから略されてしまうことも多い。しかし属名がCから始まり、種小名がelegansな生物などいくらでもいるので、あまり略称ばかり使うのもどうかなという気もする。たとえば同じ線虫にもCalceostoma elegans van Beneden, 1858がいるし、ユビワサンゴヤドカリの学名はCalcinus elegansである。
生物学的特徴[編集]
線虫(C.elegans)は、通常は雌雄同体であり自家受精により繁殖するが、環境が悪化すると雄が現れる。雄が存在するときは、優先的に他家受精が行われる。成体の体細胞数は厳密に雌雄同体が959個、うち神経細胞が302個、雄の体細胞が1031個である。4段階(L1-L4)の幼生を経て成体になる。L1幼生の時期に環境が悪化するとL2になる代わりにダウアー(dauer)幼生になる。ダウアー幼生には口がなく採餌できないが、過酷な環境下で長期間耐えることができる(Frézal&Félix 2015)。
神経細胞はわずか 302 個しかないが、頭部に神経環と呼ばれる構造があり、脳に相当する機能を担う。物理刺激に対する回避運動や、走化性を司り、また単純な学習も可能である。成体を温度勾配のある培地で飼育すると、幼生期に生育した温度環境に近いところに集まる。
生態[編集]
モデル生物として散々いろいろなことは調べられているが、野外での生態はほとんどよくわかっていない。同属の近縁種C. japonicaはカメムシに随伴して生活することが知られており(Tanaka, Okumura&Yoshiga 2010)、C. elegansもひょっとするとそういう特徴があるのかもしれない。
参考文献[編集]
- Tanaka, Ryusei; Okumura, Etsuko; Yoshiga, Toyoshi (2010), “A simple method to collect phoretically active dauer larvae of Caenorhabditis japonica”, Nematological research 40 (1): 7-12
- Frézal, Lise; Félix, Marie-Anne (2015), “The Natural History of Model Organisms: C. elegans outside the Petri dish”, Elife Mar 30;4: e05849