黒潮続流

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日本列島近海の海流
1.黒潮
2.黒潮続流
3.黒潮再循環流
4.対馬暖流
5.津軽暖流
6.宗谷暖流
7.親潮(千島海流)
8.リマン寒流

黒潮続流(くろしおぞくりゅう)とは、黒潮のうち、日本南岸を通過して房総半島で分岐して東に流れ去ったものをいう。北太平洋海流へとつながる。

概要[編集]

黒潮および黒潮続流は、低緯度域から中緯度域へ多くの熱を輸送し、冬季の寒冷な季節風により本州南方及び東方海域で大気へ大量の熱を放出する[1]。このような大気海洋間の熱のやりとりは、北太平洋の10年規模の気候変動にとって重要であると考えられている。また黒潮続流域は、亜熱帯循環(高温・高塩分な黒潮系の水)と亜寒帯循環(低温・低塩分な親潮系の水)の境界となっており、その南側と北側の海域には、多くの中規模渦が存在している[1]。そのため、中規模渦による海水混合や黒潮続流を横切る海水交換が起こっている。そして、この海域に集まった海水が黒潮続流の南北方向に、北太平洋の広範囲に広がっていくことから、海水の循環経路の理解にとっても重要な海域となっている。さらに大気中に排出され、地球温暖化の主要な原因物質とされる二酸化炭素を吸収し、海洋内部へ送り込んでいる海域であり、北太平洋の二酸化炭素を含む様々な物質の循環においても大きな役割を果たしていると考えられている[1]

このように気候変動を理解するために重要な海域であることは分かっていたが、特に冬季は厳しい海況になることから観測データが少なく、実態の把握は進んでいなかった[1]。しかし近年、アルゴフロートの展開に伴う観測データの増大、衛星に搭載された海面高度計データの蓄積、中規模渦を表現することのできる高解像度の海洋大循環モデルの発展などにより、時空間的により細かなスケールでの変動の把握が可能となり、多くの研究が積極的に行われている[1]。特に海面高度計のデータを用いた解析により、黒潮続流の長期変動及びそのメカニズムについて明らかになってきた。黒潮続流は、流路が比較的安定していて直線的に流れる安定期と、流路が安定せずに蛇行を繰り返しながら流れる不安定期の間を数年周期で遷移していることが分かった[1]。安定期には、黒潮続流から切り離される中規模渦の数が少なく、黒潮続流は強い状態で北寄りを流れる。その反対に、不安定期には、黒潮続流が切り離される中規模渦の数が多く、黒潮続流は弱い状態で南寄りを流れる。このような黒潮続流の変動は、アリューシャン低気圧の変動に伴う北太平洋中央部から東部における海面高度の変動が西方伝播することにより引き起こされている[1]。このような黒潮続流の流路変動に伴う、黒潮続流から切り離される中規模渦の数の違いが、黒潮続流の南側の海域における海洋構造を変化させていることもわかってきている。そのほか、西から移動してくる低気圧の経路の傾向が、黒潮続流の変動により変化したり、日本南岸の水位変動への影響を及ぼしたりしていることなども指摘されている[1]

脚注[編集]

  1. a b c d e f g h 気象庁 | 海水温・海流の知識 海洋の循環”. www.data.jma.go.jp. 気象庁. 2021年4月10日確認。

参考文献[編集]

  • Itoh, S. and I. Yasuda, 2010: Characteristics of mesoscale eddies in the Kuroshio-Oyashio Extension regions detected from the distribution of the sea surface height anomaly. J. Phys. Oceanogr., 40, 1018-1034.
  • Kuragano, T. and M. Kamachi, 2000: Global statistical space-time scales of oceanic variability estimated from the TOPEX/POSEIDON altimetry data. J. Geophys. Res., 105(C1), 955-974.
  • Kwon, Y. O., M. A. Alexander, N. A. Bond, C. Frankignoul, H. Nakamura, B. Qiu, and L. Thompson, 2010: Role of the Gulf Stream and Kuroshio-Oyashio systems in large-scale atmosphere–ocean interaction: A review, J. Clim., 23, 3249–3281.
  • Nakano, H., H. Tsujino, M. Hirabara, T. Yasuda, T. Motoi, M. Ishii, and G. Yamanaka, 2011: Uptake mechanism of anthropogenic CO2 in the Kuroshio Extension Region in an Ocean General Circulation Model, J. Oceanogr., 67, 765-783.
  • Qiu, B. and S. Chen, 2010: Eddy-mean flow interaction in the decadally modulating Kuroshio Extension system. Deep-Sea Res. II, 57, 1098-1110.
  • Qiu, B., and S. Chen, 2013: Concurrent decadal mesoscale eddy modulations in the western North Pacific subtropical gyre. J. Phys. Oceanogr., 43, 344-358.
  • Qiu, B., S. Chen, N. Schneider, and B. Taguchi, 2014: A coupled decadal prediction of the dynamic state of the Kuroshio Extension system. J. Climate, 27, 1751-1764.
  • Sasaki, Y. N., S. Minobe and Y. Miura, 2014: Decadal sea level variability along the coast of Japan in response to ocean circulation changes. J. Geophys. Res., 119, 266-275.
  • Sukigara, C., T. Suga, T. Saino, K. Toyama, D. Yanagimoto, K. Hanawa and N. Shikama, 2011: Biogeochemical evidence of large diapycnal diffusivity assoiated with subtropical mode water of the North Pacific. J. Oceanogr., 67, 77-85.