秋田弁護士殺害事件

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

秋田弁護士殺害事件(あきたべんごしさつがいじけん)は、2010年に秋田県で弁護士が刺殺された事件。

概要[編集]

2010年11月4日、A(当時66歳)が秋田県秋田市の弁護士B(当時55歳)宅に拳銃や剪定ばさみ(全長67㎝、刃渡り約16㎝)を解体してつくった凶器、火薬入りベストを持って侵入した。Aは侵入の際、Bの妻に「旦那とあんたを殺しに来た」と言い、拳銃を数回突きつけていた。AとBはもみ合いとなり、BがAから拳銃を奪取。しかし、その時、到着した秋田県警機動捜査隊の警察官二人は、拳銃を持っていたBを犯人と誤認して、Bを取り押さえてしまう。その隙をついてAがBの胸を剪定はさみで2回刺し、殺害した。1回目は身体の正面から左下胸部を水平に刺し、2回目は左胸部を斜め上から下方向に刺した。

男Aは借金をして豪邸を建てており、そのことに嫌気がさしたAの妻がB弁護士に相談。離婚調停でB弁護士は妻の代理人となり、2004年に離婚が成立。逮捕された男Aは、そうした逆恨みからくる犯行だった。男Aは、かつて借金問題でB弁護士に相談していたこともあり、顔見知り同士だった。Aは離婚時の財産分与に不満を抱き、元妻に度々、脅迫電話を行う。元妻は離婚後もAの件でB弁護士と連絡を取り合い、妻は「先生も気をつけて下さい」と忠告していた。

なお、Bの誤認拘束について現場にいた遺族側は「警察官はどちらが犯人かを尋ねず、2人で両腕を押さえて放さなかった」と主張しているのに対し、警察側は当初は誤認で取り押さえたとしていたが、後に「押さえたのは片手で、指摘を受けてすぐに放した。拳銃を押さえるのは暴発などを防ぐやむを得ない行為。犯人を誤認したわけではない」と説明している。

2011年1月、県外の弁護士が業務上過失致死の疑いで警察官二人を告発し、秋田県警が受理。2011年12月27日、秋田地検は警察官2人を嫌疑不十分で不起訴処分とした[1]

刑事裁判[編集]

2011年12月9日、秋田地裁馬場純夫裁判長)は、Aに懲役30年(求刑・無期懲役)の有罪判決を言い渡した。Aは、殺意を否認して殺人未遂罪を主張していた。判決では、2カ所の刺し傷について、刃物の上にB弁護士が2度倒れ込んできたというAの主張を否定。「廊下にいた被害者に駆け寄り、殺意を持って刃物を突き出したことで生じた」と認定した[2]。B弁護士が刃物の上に2度倒れ込んできて刺さったとして殺人未遂罪を主張していた被告側の訴えを退けた。求刑より、軽い判決となったことについては殺傷能力の高い凶器をそろえるなど計画性が高いものの、計画全体に杜撰さや幼稚さを感じたためとした。動機については、Bが妻側の代理人となって財産分与の調停の過程で財産を奪ったというAの思い込みによる逆恨みと認定した。

2012年9月25日、仙台高裁秋田支部は、懲役30年とした秋田地裁の判決を破棄。審理を同地裁に差し戻す。卯木誠裁判長は、1審判決で起訴事実に含めれていなかった拳銃の引き金を2回引いた行為を「結果的に発射こそされなかったが殺害行為の一部」と評価したと指摘。そして、Aが1審で引き金を引いた行為を「脅かすため」と殺意を否認したにもかかわらず、争点としないまま、「極めて危険性の高い行為」と認定した1審判決は法令違反に当たると判断し、審理を差し戻した。検察側はこの判決を不服として上告。

2014年1月22日、最高裁第3小法廷大橋正春裁判長)は、Aの上告審弁論を3月25日に開くことを決定[3]。予定通りに、弁論が開かれた。

2014年4月22日、最高裁第3小法廷(大橋正春裁判長)は、高裁に審理を差し戻す判決を言い渡した[4]。判決では、公判前整理手続きの争点として挙げられなかったからといって争点となっていなかったとするべきではないとした。そして、「公判前整理手続きで引き金を引いた時点の殺意について議論された」ことなどから、争点として審理されていたと判断した。

2014年9月24日、差し戻し審となった仙台高裁(飯渕進裁判長)は、一審判決の懲役30年は軽すぎるとして破棄し、求刑通りの無期懲役の判決を言い渡した[5]。裁判員裁判の一審判決より量刑が重くなるのは異例。

民事裁判[編集]

2013年10月29日、Bの遺族6名が、被告人Aと秋田県に対して総額2億2305万円の損害賠償を求めて提訴した。遺族側は、警察官2人の間違った拘束によって、Bが殺害されてしまったとしている。2017年10月16日、秋田地方裁判所の判決は、Aへの賠償を認め、県への請求は棄却した。理由は(1)秋田県は犯罪が少なく突発的事案への訓練が不足している、(2)当時の状況から誤認はやむを得ない、の2点であった[6]。10月24日、遺族は仙台高等裁判所秋田支部に控訴した。控訴審の第1回口頭弁論は2018年5月30日に開催された[7]。遺族側は警察官がAの動きの再現映像を提出し、警察の不手際でBが殺害されたと改めて主張した。裁判は2018年10月30日に結審し、判決は2019年2月13日に言い渡され、一審判決を一部変更して遺族側の主張を認め、県警側の過失を認定した。当時の再現実験を現場で実施したことが、警察官のミスの認定につながった[8][9]。判決では、県に受刑者Aと連帯して1億6400万円を支払うよう命じた[10]

不祥事[編集]

自殺未遂[編集]

2011年2月、Aは留置場で自殺を図ろうとしていた。しかし、男性警部はその事実を把握しながら上司に報告していなかった。そのため、男性警部は県警本部長訓戒処分を受けている。

画像データ消失問題[編集]

110番の画像データ「通報を受けた警察官が電子画面に通報内容を手書きしたメモ」の画像データが消失している[11]。2013年7月に遺族側が事件当日の110番の音声データと画像データの提出を県警に求めたところ、音声データのみが提出されて画像データは消失したと回答。当初は「捜査に支障がない」としてこの事実を公表せず、2013年11月の通信指令課の業務について質問された県議会で初めて2011年3月1日に障害が発生したことで保存していた2013年2月から過去3年間の画像データ12万5000件が消えたことを発表。11月の県議会ではバックアップはないと回答していたが、2014年3月の県議会ではバックアップの存在を認めて、復元が可能なことが判明する。

弁護士会[編集]

2010年11月4日、東北弁護士連合会は「秋田弁護士会所属弁護士の殺害事件に関する会長声明」を公表した[12]

2014年4月21日、秋田弁護士会は秋田県警と県公安委員会に再検証を求める要請書を提出。県警本部は、事件の一か月後に県議会に報告しているが、弁護士会はこれを不十分としている。要望書では、「犯人から奪った拳銃を持っていた被害者を取り押さえた警察官の説明が、報告書と説舞所では異なっている」点や「間違って取り押さえて被害者が殺害される事態を防げなかった問題点がなく、身内をかばっていると疑われてもしょうがない」などが、書かれている。

関連項目[編集]

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • 毎日新聞2011年1月8日「<秋田弁護士殺害>業過致死容疑で警官2人を秋田地検に告発」