盲目の理髪師

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

盲目の理髪師』(もうもくのりはつし、原題:The Blind Barber )は、アメリカ推理作家ジョン・ディクスン・カーによる推理小説。発表は1934年ギデオン・フェル博士ものの長編第4作目にあたる。

概要[編集]

大西洋をイギリスに向かう豪華客船クィーン・ヴィクトリア号で発生した、二つの盗難事件と殺人事件。すれ違いと酔っぱらいのどんちゃん騒ぎのうちに、消えたはずの宝石は現われ、死体は忽然と消え失せる。笑いとサスペンスが同居する怪事件の真相やいかに? 巨匠カーの作品中、もっともファルスの味が濃いとされる本書はまた、フェル博士が安楽椅子探偵を務める本格編でもある。

— 井上一夫・翻訳版(ISBN 978448818289)の裏表紙より

ジョン・ディクスン・カーお得意の「ドタバタ劇」がこれでもかと詰め込まれた、アクの強い、人を選ぶ作品である(もっとも、カーの作品はほぼすべてアクが強いのだが…)。ドタバタ9割、ミステリ1割の配分であり、本格的なミステリを期待すると肩透かしを食う可能性が高い。「どんちゃん騒ぎのなかに真相を隠蔽する」という点では、坂口安吾の傑作『不連続殺人事件』に似ているといえなくもないが『不連続』に比べると見劣りするのは否めない。

1962年に「コリア・ブックス」の一冊として再刊された際には、評論家アントニー・バウチャーによる「緒言」が付けられている。(日本では、井上一夫・翻訳版(ISBN 978448818289)などで読むことが可能。)バウチャーは、クレイグ・ライスアリス・ティルトンといった1930年代のユーモアミステリ作家と比較した上で、本作の徹底した喜劇っぷりを高く評価している。

主な登場人物[編集]

ヘクター・ホィッスラー
クィーン・ヴィクトリア号船長。しばしば癇癪を起こす。
旧知の仲であるヴァルヴィックからは「フナムシ」と呼ばれているが、本人は嫌がっている。
ヘンリー(ハンク)・モーガン
推理小説作家。本作の主人公的な立場であり、ギデオン・フェル博士に事の次第を語って聞かせる「語り手」でもある。
変人ばかりの本作においては、珍しくまともな性格の持ち主。
カーティス(カート)・ウォーレン
外交官。時の大物政治家サディアス・G・ウォーパスの甥。
映画を撮影することが趣味であり、ウォーパス伯父の酔った様子を撮影したフィルムが騒動の発端となる。
落ち着きのない性格で、頻繁に騒動を巻き起こす。
トマッセン・ヴァルヴィック
元船長。ホィッスラーとは旧知の仲。スコットランド出身。
白茶けたヒゲを生やした大男で、派手な身ぶり手ぶりで豪快なホラ話を話す。
フォータンブラ(ジュール伯父)
あやつり人形師。フランス人。
等身大の重い人形を操る腕力の持ち主である。極度の酒乱。
ペギー・グレン
フォータンブラの姪。美人。
アブドゥル
フォータンブラの助手。フランス人。
オリヴァ・ハリスン・カイル博士
街の有名人である精神科医。C四六号室に寝泊まりしている。
スタートン子爵
エメラルドの象の持ち主。
「ジャーミン街の隠者」とも呼ばれる宝石蒐集家。
チャールズ・R・ウッドコック
殺虫剤のセールスマン。針金のようにやせており、蓬髪で落ち着きがない。
液状殺虫剤「ピッシャリ2号」を用いた電灯つき殺虫スプレー「人魚」の販売に、精力を傾けている。
レスリー・ペリゴール
美学者。一般人には理解しがたい深遠な劇評をものする。
フォータンブラの人形劇を激賞している。妻とともに、C五一号室に寝泊まり。
シンシア・ペリゴール
レスリーの妻。夫とは対照的に社交的な性格。
“バーモンジーの恐怖”
プロボクサー。無電技手スパークスのいとこで、本名は「アリック」。
C四七号室(精神科医カイルの向かいの部屋)に寝泊まりしている。歯痛に苦しんでいる。
ボールドウィン
二等航海士。
スパークス
無電技手。バーモンジーのいとこ。
ギデオン・フェル博士
探偵。船には乗っておらず、ヘンリー・モーガンから話を聞いて解決する「安楽椅子探偵」である。

外部リンク[編集]