白髪小僧
『白髪小僧』(しらがこぞう)は、小説家・夢野久作が、1922年に、杉山 萌圓(すぎやま ほうえん)名義で発表した童話。誠文堂から自費出版で刊行された。
概要[編集]
『あやかしの鼓』でデビューするよりも前の、九州日報社の記者時代の作品である。ストーリーが非現実的であることから「童話」という形式をとって書かれているが、その実は、大人たちに読まれることを念頭に置いて書かれた作品である。
ストーリーは、大のお話好きである美留女姫が、自分自身の運命について書かれた本を見つけるところから始まる。本を読んでいくうちに次第次第と、物語と現実の境界があやふやになっていき、本を見つけたという当初の事実さえ怪しくなってくる…………。この作品をしてすでに、夢野らしさの片鱗をうかがい知ることが出来る。他にも、夢の主題や、多義的に重ね合わせられた人格、男女性の希薄さ[1]など、夢野らしいテーマが多分に包含されている。
なお、肝心の白髪小僧は中盤から全然登場せず、およそ主人公とは思えない空気さ加減であるが、キット気のせいである。そう信じたい。
後半は大変錯雑としたストーリーである上に、「鸚鵡・鏡・蛇以外の4つの悪魔って何?」「青目先生が番する役目を負わされている物は何?」などの、種種の伏線を回収しないままに、尻切れトンボ的に終了してしまう。これに関しては作者本人が後に、『最初の組み立ては随分大部な長いものであったのを途中から切って結末をつけて出版した為に話の筋で残った処が出来た』と述べているほどである。夢野のコアなファンにとっては興味深い一作かもしれないが、それ以外の一般の読者にとっては、あまり目立った価値はないといっても過言ではないだろう。
夢野は幼時から絵が上手く、この本に収録されているイラストもすべて夢野自身が描いている。
残念なことに、売れた部数よりも寄贈した部数のほうが多かったという。なお、発表名義の「杉山 萌圓」は、作者の謡曲教授としての名前である。
講評[編集]
評論家の多田茂治は、魔物たちが、藍丸王の視覚・嗅覚・味覚・聴覚を奪いさり、自分たちが偽の王様となって君臨し好き放題を働こうとする筋書きをとりあげて、「欲望を刃止めなくふくらませすぎた近代社会批判であり、有り得べき国家論・天皇論を開陳したもの」と解説している。ただし「あまりにも複雑な仕掛けをしてしまったため、主題を読み取ることが難しくなってしまった失敗作」ともしている。[2]
脚注[編集]
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 青空文庫 - 本文を無料で読むことが出来る。