解析力学(かいせきりきがく、analytical mechanics)は、主に直交座標を用いて記述されたニュートン力学を数学的に洗練し、様々な状況を簡単に数式で表すためにオイラー、ラグランジュ、ハミルトン等によって作られた力学の体系である。古典力学の集大成であり、解析力学的な考え方は統計力学、量子力学、相対性理論などの現代物理学に引き継がれている。
ここはそんな解析力学を一から導出してしまおう、という趣旨で書いてみた記事である。最終的には、ここにわかりやすい教科書のようなものが出来上がればいいな。
序論
一般化座標と一般化速度の定義
ある座標系に存在する全ての質点の位置座標
をずらーっと並べて書いた集合を
と表し、これを一般化座標と呼ぶ(たとえば、3次元直交座標系にN個の質点がある場合
の成分の数は3N個となる)。
一般化座標の各成分を時間で微分したものの集合、すなわち
を一般化速度と呼ぶ。
このとき、各
および
はそれぞれ時刻
の関数であるから、それぞれ
と表せる。
とりあえず、ある時刻の
を状態と呼び、
の関数形を過程と呼ぶことにする。
保存力とポテンシャル
直交座標系
において、位置
と時刻
の関数
を用いて、力
が
と表せるとき、この力を保存力と呼び、
そしてこのときの
をポテンシャルと呼ぶ。
また、保存力でない力
を非保存力と呼ぶ
ラグランジュ形式
解析力学の基礎には、物理学に様々な形で登場する変分原理の一つであるハミルトンの原理が登場する。変分原理は他にも、光に適用できるフェルマーの原理や、電磁気学におけるディリクレの原理などがある。このような考え方は量子力学の基礎にもなっている。ここでは、ニュートン力学とハミルトンの原理から、ニュートンの運動方程式よりも適用範囲の広いラグランジュ方程式を導出する。
ハミルトンの原理
非保存力が存在しない系が状態A(時刻:
)から状態B(時刻:
)に変化するとき、
とおき、いまのところ謎の関数
に含まれる
の各成分を、微小な
だけ変化させるとき、
の各成分も微小に
だけ変化することになる。
ただし、状態A、状態Bそれぞれのときの
はすでに決めたため、
である。
このとき、
の変化量は
である。さらに、このときの
の変化量は
である。以上の2つの式より
である。
このとき、"
となるような過程のみが実現する"と仮定する。
そして、この仮定をハミルトンの原理と呼び、
を作用と呼び、
ハミルトンの原理をみたす
をラグランジアンと呼ぶ。
ラグランジュ方程式
さて、
のある1成分
のみを
だけ微小変化させるとき、
も微小に
だけ微小変化することになる。よって、このとき
は、
だけ変化することになる。よって、
となる。よって、
である。ここで第2項にのみ部分積分を用いると、
となる。第1項と第3項をまとめ、第2項を展開すると、
となる。ここで
だったから、後半部分が0となり、
となる。ここで、
がどんな関数形だったとしても
となるためには
となっていればよい。この式をラグランジュ方程式と呼ぶ。
ラグランジュ方程式は、ハミルトンの原理と同じことを言っている式である。
ラグランジアンの具体的な形
直交座標を用いてある系の運動エネルギーの合計
を表すと、
となる。ここで
は、各
に対応する質量である。この式から、
である。また、
と表せることから、
である。また、
と表せることから、
である。よって
となる。以上のことから、
である。ここで、
とおき、これを一般化運動量と呼ぶ。すると、
となる。両辺を時間で微分すると、
となる。ここで、各
は時間変化しないから、
となる。ここで、時間微分の部分を展開してシグマを2つに分けると、
また、ニュートン力学の運動方程式より、
である。以上のことから、
である。よって
である。ここで、
とおき、これを一般化力と呼ぶ。すると、
となる。ここで、力
が保存力
と非保存力
で構成されているとき、
であるから
となり
となる。ここで、非保存力
による一般化力
を
と表すと、
となる。以上のことから、
である。第1項と第3項をまとめると、
となる。ここで、一般化運動量の定義から
である。また、
と表せるから、
である。以上のことから、
となり、よって
である。ここで、非保存力
がすべて0のとき、非保存力の一般化力
もすべて0であるから、
となる。これはラグランジュ方程式そのものであるから、
はラグランジアンであるといえる。
そこで、
とおくと、
であり、
であったから、
であり、
であることがわかる。
ハミルトン形式
ニュートン力学の適用範囲を広げたラグランジュ形式であったが、ここでは、ラグランジュ方程式からさらに適用範囲を広げたハミルトンの正準方程式を導出する。その際、ルジャンドル変換という数学的テクニックが暗に用いられているが、そんなものは知らなくても理解できる。
ハミルトンの正準方程式
以下では、非保存力による一般化力
がない場合について考える。このとき、
とおき、この
をハミルトニアンと呼ぶ。すると、
の微小変化
は、
であり、よって
となる。ここで、前節より
だったから、
であり、
である。よって
である。
また、ハミルトニアンの定義より、
であり、また
であったから
となる。以上で
の2式が導けた。この2式をハミルトンの正準方程式と呼ぶ。
参考文献