流体

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流体(りゅうたい fluid)は、静止状態で剪断応力がかからない連続体の総称である。身近な流体は気体と液体に大別される。

定義の説明[編集]

 冒頭で流体の定義を述べたが、これだけで理解できる読者は少ないと思われるため解説する。

連続体[編集]

 連続体とは、空間的かつ時間的に連続した構造を持つ物体のことである。我々の身の回りにある水や岩石のように、0ではない大きさを持つ物体の物理的なモデルである[1]。連続体の対義語として、高校物理でおなじみの質点がある。質点は大きさが0であり、空間的な連続性を持たない物体のモデルである。

剪断応力[編集]

 応力とは、連続体の内部にかかる力であり、応力の効果は流れや歪みなどの形で現れる。応力には垂直応力と剪断応力の2種類がある。
 連続体の中に平面を置いたとき、その平面に垂直な方向にかかる応力が垂直応力である。連続体の構成要素同士が押し合う、または引っぱり合う向きにかかる応力であり、連続体に体積の変化を起こす向きにかかる。理科の授業で出てくる圧力は垂直応力に含まれる。
 連続体の中に平面を置いたとき、その平面に平行な方向にかかる応力が剪断応力である。連続体の構成要素同士がずれる向きにかかるため、ずれ応力とも呼ばれる。

流体とは[編集]

 以上を踏まえ、そして身近な物体を思い浮かべながら、改めて流体の定義を眺めてみよう。

 まずはレンガに剪断応力をかけてみよう。左右の手でレンガを掴んで、レンガの左右をそれぞれ上と下にずらす向きに力をかけてみる。あなたの腕力が人間離れしていない限りレンガはびくともしないだろう。
 このときレンガの内部には剪断応力がかかっており、静止している。よって、レンガは冒頭で述べた流体の定義に当てはまらないことがわかる。

 それでは水に剪断応力をかけてみよう。同じ大きさのコップ2個を両手でつかみ、浴槽に溜まった水に突っ込む。コップを向かい合わせて水の一部を閉じ込めて、左右のコップの口同士をそれぞれ上と下にずらしてみる。すると、手で力をかけ続ける限りコップの口同士はどんどんずれていくだろう。
 このとき水の内部には剪断応力がかかっている。剪断応力がかかっている水が静止することはなく、静止するのは剪断応力がかかっていないときであることがわかる。よって、水は冒頭で述べた流体の定義に当てはまることがわかる。同じように、空気も流体であることがわかる。

気体と液体[編集]

 我々の身の周りの流体のほとんどは気体と液体に分類できる。気体とは、真空に晒したときに明確な境界を持たない流体の総称であり、液体とは、真空に晒したときに明確な境界(表面)を持つ流体の総称である。
 その他の違いとして、気体と比べて液体は密度が顕著に大きく、圧力を大きくしたときの体積の減少する割合(圧縮率)が顕著に小さいという特徴がある。
 ただし、全ての物質はある一定以上の圧力かつある一定以上の温度において、気体と液体のどちらともいえない状態になることが知られている。この状態を超臨界流体と呼び、この変化が起こる境目の圧力と温度の組み合わせを臨界点と呼ぶ。超臨界流体は明確な表面を持たないが、気体とは明確に異なる程度に大きな密度を持つ。

ベルヌイの定理[編集]

難解であると云われているが、じつはエネルギー保存則の言換えである。
定常流を想定したとき、これを分割すると「流管」というものの束として考えることができる。そうすると流管に入るときと流管から出るときのエネルギーの差はエネルギー損失となって熱に変わっているはずである。このとき入るときには圧力に比例した仕事量(=エネルギー)があり、出てくるときにはそれなりのエネルギーを流管から受けとっているはずである(これを「圧力のエネルギー」ともっぱら呼ぶ)。これ以外に質量×速度2ぶんの運動エネルギーがあり、流体に質量があれば入口と出口の高低差ぶんのエネルギー(位置エネルギー)の差がある。そんなわけで、「圧力エネルギー+運動エネルギー+位置エネルギー+損失=0」というのがベルヌイの定理の概略である。もちろん定常流でなかったら厳密には成り立たないし角運動量などの変化もあるので現実的には精度が無視できなかったりもするが、大雑把にアタリをつける程度には使える。とくに高アスペクト比のグライダー(いわゆる「ソアラ」)ではよく成りたち、人力飛行機の設計にも活用されている。

参考文献[編集]

  • 『流体力学』 巽友正(1982) 培風館

注釈[編集]

  1. 我々の身の周りの物体はある程度以上拡大すると分子や原子などの不連続な構造が現れるが、ここではそのようなミクロな構造をあえて無視している。そのような意味で理想的(ここでは「なめらか」という意味)な物体のモデルが連続体である。