山中事件
山中事件(やまなかじけん)とは1972年に起きた殺人事件。主犯とされた人物は無罪が確定している。
概要[編集]
1972年7月26日、石川県江沼郡山中町東町内(現・加賀市山中温泉)にある南又林道横から遺体が発見される。遺体は、同年5月11日から行方不明になっていた男性Aだった。
警察は、被害者と最後にあった人物はBかCだと推測して、参考人として調べる。Cは、AとBに借金の保証人となってもらっており、Aと金銭問題で揉めていた。なお、強盗致死事件ではこのときにCが借金で受け取った小切手を換金した金をBが奪おうとしたとされている。
7月27日、Cが殺害に関与したと自白。Cの供述通りに、捜索したところ、加賀市潮津町の草地から被害者の靴が発見された。Cは、以下のように供述した。
- BにAを殺害すれば借金を返さなくていいと言われ、根切りよきとスコップを持ち出してBの父親Dの乗用車に乗った。
- BがDの車にAとCを乗せて運転していたところ、南又林道に連れ込み、車を停車。Bは後部座席にいたAの隣に座り、Aの左わき腹を刃物で刺し、車外に連れ出す。
- Aが逃げたため、Bは追いかけて突き刺し、Cが渡したよぎで頭を殴打して、殺害する。
- 二人で遺体を谷川の橋の底に隠して、Bは水道でよきの峰を洗って、後部座席に付着した血痕をふき取った。
- その後、Bは運転席からAの靴を片方ずつ投げ捨てた。
上記のように供述して、Cは主犯はBだとした。一方、BはAの殺人に関して一貫して否認するも、二人は殺人罪で逮捕・起訴された。なお、Bは同年5月14日にCとドライブした後に、小刀でCの脇腹・顔面・胸部等を刺して逮捕されていた。Cは口封じのために殺害されそうになったと供述したため、Bは殺人未遂罪で起訴される。
裁判経過[編集]
1審・2審[編集]
裁判では、Bは殺人に関して無罪を主張し、Cに対する殺人未遂罪に関しても傷害罪に止まるとした。Cは、公判前からの供述を維持してBを主犯と主張した。
1975年10月27日、金沢地裁は、男性Bを主犯として元タクシー運転手Aに対する殺人・死体遺棄罪及び、共犯者とされたCに対する強盗致死未遂で死刑判決を言い渡した。男性Cに対しては、従犯だったとして懲役8年を言い渡した。男性Cは控訴せず、懲役8年が確定(その後、服役して釈放)。男性Bは控訴した。
1982年1月19日、名古屋高裁は、事実誤認はないとしてBの控訴を棄却した。1審及び2審では、Bが借金返済や仲間との旅行のために、Cを騙して資金調達していた。これらの金の奪取のためにCを殺害しようと企み、Cの殺害時にBに殺害の容疑が向かないように、BはCと共同で保証人世なっていたAを殺害したとした。その際に、以下の状況証拠が認定されている。
- Cの自白について、信用性がみとめられる。
- Bのアリバイが不自然
- Bが父親Dの車を使用したという、父親の知人の供述がある
- 鑑定で、Dの車の後部座席から、人血が発見されている。
- Cの供述が、被害者の頭蓋骨の陥没状況と矛盾しない
- Bは、Cが借金した後に殺害しようとしている。
Bは、判決を不服として最高裁に上告した。
最高裁・差し戻し審[編集]
1989年6月22日、最高裁は2審判決を破棄し名古屋高裁に審議を差し戻す。最高裁は、次のように認定した。
- Cの供述以外にBが関わったと示す直接証拠はない。
- 犯行に自動車が利用された可能性は高く、人気のない林道で小刀で刺すという点は、BがCに対して襲い掛かった状況と類似していると考えることもできるが、この二つだけではBがAを殺害したという犯行を結び付けることはできない。
- Bがよき・小刀・スコップを準備して殺害におよび、よきは洗浄後にスコップと共にDの工場に戻したとされているが、発見されていない。
- 後部座席から発見された人血の付着していた場所と、Cの供述する血のついた場所は異なっている。
- 小刀で左わき腹を刺したにも関わらず、Aの衣服から刃物の損傷が見受けられない
- よきで殴打すれば激しい骨折が生じるはずだが、頭蓋骨の陥没骨折からは、そのような状況はみられない。
- Cの供述が共謀日時などで変異が見られる。
- 犯行時刻には、殺害現場は暗闇のはずで、Bが犯行後にCの供述するように行動できたとは思えず、CがBの行動を目撃できたとは認められない。
1990年7月27日、差し戻し審となった名古屋高裁で、Aの殺人に関して無罪判決を言い渡した。死刑判決を最高裁が差し戻して、無罪判決が言い渡されたのは仁保事件以来16年ぶりの戦後6件目の出来事だった。Cに対する強盗致死未遂事件に関しては懲役8年の有罪判決を言い渡すも、未決勾留日数が計上されたため、釈放された。
参考文献[編集]
関連項目[編集]
- 平野母子殺害事件 - 山中事件から21年後、最高裁で戦後7例目の死刑判決の差し戻しが行われ、無罪判決が言い渡される。