宅配クライシス
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宅配クライシス(たくはいクライシス)は、ネット通販の利用拡大などによって、急増する宅配荷物量に対し、宅配会社の体制が追い付かず、サービス水準の維持が難しくなっている問題である。「宅配危機」ともいう[1]。
概要[編集]
宅配クライシスが表面化した出来事は、2013年に佐川急便が通販大手「アマゾン」商品の配達から撤退し、大量の荷物が宅配便大手のヤマト運輸株式会社に集中したため、2017年のヤマト運輸の春季労使交渉で初めて宅配便の荷受量の抑制(総量規制)を求めたことが挙げられる[2]。
伏線として、2016年9月、神奈川県下のヤマト運輸平川町支店で労働基準監督署から未払いの残業代に対する是正勧告がでたことである[3]。その後、ヤマト運輸はグループ全体で200億円を超える未払残業代があることが判明している[4]など、問題の表面化前にも現場へのしわ寄せは色濃く見られた。最終的に未払分は総額約230億円となったが、2017年7月18日に未払いの残業代は一斉に支給された。
佐川急便はアマゾンからの撤退により取扱個数は減ったものの、利益率は上昇した。反面、ヤマト運輸は増えた荷物を運ぶため他社に配送委託して経費がかさみ、利益が減って「豊作貧乏」となった[5]。ヤマト運輸はその後、運送の効率化のため、羽田クロノゲートを設置するなど、改善に努めている。
宅配クライシスの原因[編集]
本問題の根源は根が深い。「宅配クライシス」[6]の原因には次のものが挙げられる[7]。
- 市場の拡大
- 急激に成長する通販業界によって増大する配送量に宅配会社の体制が追い付かないこと。
- 通販会社の増加や売上高の増大に伴い、急激に運送個数が増加を続けているため、配送の効率化や拡充が追い付かないまま、現場の負担が増大している。
- 宅配運転手(ドライバー)の慢性的不足
- 再配達の増加
- 再配達問題と言われ、単身家庭の増加や共働き世帯の増加にともなって、配送先の不在が多くなり、再配達が増えている[9]。再配達による社会的損失が増大している。対策として、宅配ボックスの設置や、自宅以外のコンビニやPUDOステーション等で受け取れる制度の利用拡大が求められている。
- 非効率な仕組みの温存
- ドライバーと受取人が対面し、受け渡しをするというラストワンマイルの“非効率な”仕組みが温存されている。解決策として宅配ボックスがあるが、利用率が低い。
注[編集]
- ↑ 「ヤマトショック」に端を発し、今もなお続いている物流危機東洋経済、2018年8月25日号
- ↑ a b 首藤若菜(2018)『物流危機は終わらない』岩波書店
- ↑ ヤマト運輸の「働き方改革」を促したベテラン運転手の「告発」が電子書籍で緊急発売文春オンライン
- ↑ 残業未払い賃金、319億円増加朝日新聞、2018年8月10日
- ↑ 巨人アマゾンの罠にまんまとハマったヤマト運輸の「豊作貧乏」片山修、iRONNNA
- ↑ 日本経済新聞(2017)『宅配クライシス』日本経済新聞出版社、ISBN-10: 4532321778
- ↑ 横田増生(2015)『仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』小学館
- ↑ 宅配業界の厳しい状況Rakuten News、2017年3月22日
- ↑ 宅配便の再配達削減に向けて国土交通省