女たちの沈黙

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
Wikipedia-logo.pngウィキペディア女たちの沈黙の項目が輸出されました。

女たちの沈黙』(英:The Silence of the Girls)は、戦時性暴力を扱った小説。

アキレウス性奴隷ブリセイスを主人公として、叙事詩「イリアス」をメインにトロイア戦争のなかで、レイプされる女性たちを描いた。

原題は「少女たちの沈黙」であるとおり、少女であるブリセイス(18)やクリュセイス(15)たち戦争に負けた女性たちが暴力的に犯され性奴隷となりながら、子供を孕まされても抵抗できない。

2018年イギリスの小説家 パット・バーカー が発表した。日本では北村みちよ訳で早川書房から2023年に翻訳版が発売された。

あらすじ[編集]

アキレウスらのギリシア軍が、途中の都市リュルネソスを戦争で破り、破壊・虐殺を行い、女性たちを強姦する。

18歳の王妃ブリセイス を含む女性は戦利品として拉致され、武将たちの性奴隷として分配された。王族であり美貌のブリセイスはアキレウスに与えられた。

その後、性奴隷となった女神官クリューセーイス をめぐるアキレウスとアガメムノン のあいだの争いが起こり、その結果として、アキレウスはブリセイスをアガメムノンに譲った。ブリセイスはアキレウスには一度だけ犯され、その後は男たちの共有物として犯される可能性に怯える。

アキレウスは戦闘に参加することを拒絶し、その後、 パトロクロスヘクトールアキレウスの死が続く。 ブリセイスはアキレスの子供を妊娠しており、アキレスはそれを知っていたので、彼はブリセイスを部将の一人と結婚させて、部将がブリセイスと女性の性奴隷をともないトロイを離れ帰郷すると物語は終わる。


構成[編集]

小説は主にブリセイスの一人称によって語られているが、タイトル通り、外部に向かってブリセイスが話すことは殆ど無く、心の中の描写が大半を占める。

主にイリアスに基づくものの、トロイの女たちの最後とプリアモスの娘ポリュクセネーの殺害の描写の一幕は、エウリピデスの悲劇作品によっている[1]

この小説には、プリアモスネストール大アイアースアガメムノンヘレネ など、「イリアス」の登場人物がたくさん登場する。 トロイ戦争の残虐性と穢れ、そしてアキレウスとパトロクロスの感情を鮮烈に描写している。

登場人物[編集]

性奴隷の女性たち[編集]

ブリセイス
18歳[2]のリュルネソス王妃。国が滅ぶとアキレウスにレイプされ、性奴隷となりその子供を妊娠した。
クリュセイス
15歳で、最年少の性奴隷。女神官見習いで、真面目で優しい性格の美少女。アガメムノンの性奴隷として気に入られて毎日犯されていたが、父のもとへと返却される。作中では描写がないが、神話では、その後、アガメムノンの子を妊娠している。

トロイア[編集]

ヘレネ
スパルタ王妃の絶世の美女。幼い頃から可憐で10歳の幼女の頃、川岸で水浴びしていたところを男たちに襲われ、処女を喪失した。トロイアの王子に誘拐され、愛人とさせられる。

批評[編集]

「女たちの沈黙」はおおむね高い評価を受けた[3][4][5][6][7] 。多くの批評家は、戦争中の女性に対する非人道的な描写と、戦闘のかっこよさの完全な否定.が指摘された。多くの批評家は小説中の次のセリフに注目している。

「私はこれまで誰もしたことがないことをします。息子を殺した男の手にキスをするのです」と、息子ヘクトールの遺体の返還を懇願するプリアモスは宣言する。ブリセイスは 「そして、わたしは、わたし以前に無数の女性が強いられてきたようにわたしは犯されているんです」と悲しく考える。

批評家の一部 (「アトランティック」のギルバート、「ガーディアン」のウィルソン) は、バーカーの現代的な単語の使用を批判し、トロイア戦争の背景を反映できていないと述べた。 wp:en:Madeline Miller による Circe と似ていることもしばしば指摘されたが、これは同じく2018年に発表されたもので、ホメロスの叙事詩のマイナーな登場人物を主人公とした点に特色がある。

References[編集]

  1. Wilson, Emily (2018 年 8 月 22 日). -the-girls-pat-barker-book-review-iliad “The Silence of the Girls by Pat Barker review – a feminist Iliad”. The Guardian. https://www.theguardian.com/books/2018/aug/22/silence-of -the-girls-pat-barker-book-review-iliad 2018 年 10 月 1 日閲覧。 
  2. 訳者解説では19歳とされているが、18歳になったことが冒頭で触れられていることや、19歳のヘカメデと「ほぼ同い歳」とされていることから18歳と考えられる
  3. Scholes, Lucy (2018年8月24日). “The Silence of the Girls by Pat Barker, review: An impressive feat of literary revisionism that should be on the Man Booker longlist”. The Independent. https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/the-silence-of-the-girls-by-pat-barker-book-review-man-booker-prize-longlist-a8502621.html 2018年10月3日閲覧。 
  4. The War on Women: Pat Barker’s The Silence of the Girls”. Tor.com. 2018年10月3日確認。
  5. Carey, Anna (2018年9月1日). “The Silence of the Girls by Pat Barker: a stunning new novel”. The Irish Times. https://www.irishtimes.com/culture/books/the-silence-of-the-girls-by-pat-barker-a-stunning-new-novel-1.3609117 2018年10月3日閲覧。 
  6. Patrick, Bethanne (2018年9月6日). “Revisiting 'The Iliad' from the women's perspective”. Washington Post. https://www.washingtonpost.com/entertainment/books/revisiting-the-iliad-from-the-womens-perspective/2018/09/06/3e4365b8-aafd-11e8-a8d7-0f63ab8b1370_story.html 2018年10月3日閲覧。 
  7. The Silence of Classical Literature’s Women”. The Atlantic (2018年9月24日). 2018年10月3日確認。