大阪市強姦虚偽証言再審事件
大阪市強姦虚偽証言再審事件(おおさかしごうかんきょぎしょうげんさいしんじけん)とは、強姦罪で起訴された男性Aに有罪判決が確定するも、被害者の女性の虚偽証言だとして再審開始が決定された事件。
概要[編集]
男性Aが大阪市で女性Bに対して2004年11月と2008年4月に二度に渡って性的暴行、また、再び2008年7月に女性の胸をつかむなどしたとして、2件の強姦罪と1件の強制わいせつ罪で男性Aが逮捕、起訴される。
男性Aは一貫して無罪を主張。しかし、2009年に大阪地裁(杉田宗久裁判長)は「14歳だった女性がありもしない被害をでっちあげて告訴するとは考えにくい」「強姦被害を打ち明けるまでに数年を要していたり,実母に問い詰められるまでは尻や胸を触られた旨打ち明けるに留まっていたなどの事情も存するが,当時のAの年齢や境遇からすれば,被害を打ち明けるまでの経過に何ら不自然・不合理な点はない」「兄である目撃者Cの目撃供述と一致している」[1]「争いのない事実として、被告はかつて少女であった女性の母親とも関係を持っていた(合意か否かは争いがある)」[2]などとして懲役12年の有罪判決を言い渡した[3]。2010年に大阪高裁(湯川哲嗣裁判長)は控訴を棄却、2011年に最高裁で確定した。
釈放[編集]
高裁での弁護人が女性Bや事件の目撃者として出廷していた家族から聞き取り捜査をして女性Bと目撃者Cが女性の母親に強姦被害を認めさせられていたとして[4]虚偽証言を認める。そして、2014年9月に男性Aは再審請求する。
大阪地検は2014年11月18日に男性Aの刑の執行を停止して釈放する[5]。男性Aの再審請求で地検が再捜査して、被害者や目撃者が虚偽の証言をしていたことを認めたためで、それを裏付ける客観的証拠もあるとして無罪とするべきという意見書を提出[6]。再審開始決定前に受刑者が釈放されるのは異例で、最高検によると足利事件以外は把握していない事例[7]。男性の逮捕からの拘留期間は約6年に及んでいた。
再審[編集]
2015年2月27日、大阪地裁(登石郁朗裁判長)は再審開始の決定を言い渡す[8]。
再審では、被害者と訴えていた女性Bの強姦されたという証言と矛盾する診療記録が裁判で審理対象になっていなかったことが判明[9]。捜査段階で女性Bの母親が「娘を医療機関に連れて行った」と説明していたため、控訴審で診療の記録を出すように求めていたが、検察側は「ない」としていた。控訴審では証人として被害者女性らを法廷に改めて呼ぶように請求されていたが却下されていた。再審請求後の地検の再捜査では、女性Bが2008年8月に医療機関を受診したときに、医師による「性的暴行を受けた痕跡がない」とした診療記録が見つかっている。
2015年8月19日、再審の初公判が開かれて検察側は無罪判決を求める意見陳述をする[10]。弁護側は、捜査・公判を通じて虚偽の被害証言が見逃された原因を明らかにするために男性を取り調べた山吉彩子検事らの証人尋問を求めるも、芦高源(あしたかみなもと)裁判長は退けている。
2015年10月16日、大阪地裁(芦高源裁判長)は、無罪判決を言い渡す[11]。大阪地検は同日に上訴権を放棄して、無罪が確定した[12]。裁判長は判決言い渡しの最後に「身に覚えのない罪で長期間にわたり自由を奪い、計り知れない苦痛を与えた。裁判官として残念に思う」と謝罪した[13]。
無罪判決を受けて男性は国家賠償請求訴訟を起こす予定[14]。
国家賠償請求訴訟[編集]
2016年10月5日、男性は慰謝料や逸失利益など計約1億4千万円の国家賠償を求めて大阪地裁に提訴した[15]。捜査機関がカルテの確認を怠ったこと、受診歴の確認のために控訴審で弁護側が求めた母娘の証人尋問を裁判所が却下したことなどが訴状の内容である[16]。
批判[編集]
再審開始決定後、男性Aの弁護人である後藤貞人弁護士らは裁判所の事実認定について「少女がうその被害を話すはずがないと決めつけて、調べる必要のある証拠を調べていない」と批判している[17]。
取り調べを行った検事が潔白を主張する男性Aに対して「絶対許さない」と言い放つなど、最初からAの犯行を決めつける捜査が行われていた。元検察官の前田恒彦は「誤判防止の観点からは、率直に裁判所の非を認めた上で、なぜ警察・検察ともども女性らの嘘を見抜けなかったのか、男性を「シロ」にする方向の捜査や審理がどの程度行われたのか、徹底した検証を行う必要がある。」と述べている[18]。
法社会学者の河合幹雄は、国家賠償請求が棄却されたことについて「メディアはこのニュースをこそ、わが国の司法の問題点を浮き彫りにしたものとして大きく取り上げるべきだと思う。おそらく司法に携わる者の多くが、私と同様に感じているはずです。冤罪事件を生み出した裁判の杜撰さと、このケースで国家賠償が認められなかったことの不当性は、専門家から見れば、それぐらいあり得ないレベルだからです。」と批判している[19]。
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ 強制わいせつ、強姦(再審)被告事件
- ↑ 【刑事】強姦被害者とされる者の虚偽の供述があったために有罪とされた冤罪事件に関するメモ
- ↑ 2015年2月27日、YOMIURI ONLINE「強姦事件で再審開始決定、男性無罪へ…大阪地裁」
- ↑ 強制わいせつ、強姦(再審)被告事件
- ↑ ニュース速報Japan「強姦事件が冤罪と判明…刑務所に服役中の男性釈放 被害者が虚偽証言」
- ↑ 2014年11月18日、スポニチアネックス「異例 強姦事件で懲役12年 服役中の男性 冤罪と釈放 被害証言が虚偽」
- ↑ 2014年11月18日、産経WEST「「強姦被害者」の証言ウソだった… 大阪地検が受刑者釈放」
- ↑ 2015年2月27日、毎日新聞「強姦事件:釈放男性の再審決定…「無罪の新証拠」大阪地裁」
- ↑ 2015年2月27日、朝日新聞DIGITAL「強姦事件の再審決定 診療記録、証言と矛盾 大阪地裁」
- ↑ 2015年8月19日、朝日新聞DIGITAL「強姦事件の再審始まる 検察側が無罪主張 大阪地裁」
- ↑ 2015年10月16日、YOMIURI ONLINE「強姦事件の再審、男性に無罪判決…大阪地裁」
- ↑ 2015年10月16日、日本経済新聞「強姦事件で再審無罪 大阪地裁「女性らの供述は虚偽」」
- ↑ 2015年10月16日、産経WEST「強姦事件で再審無罪 3年半服役「苦痛与えた」大阪地裁裁判長が謝罪」
- ↑ 2015年10月15日、朝日新聞デジタル「強姦一転無罪へ、なぜ私は冤罪に 72歳が国を提訴へ」
- ↑ 2016年10月5日、朝日新聞「強姦再審で無罪、男性が国提訴 公判の違法性訴え」
- ↑ 2016年10月5日、強姦再審無罪男性が国賠提訴 「誤判の責任解明を」 - 産経WEST
- ↑ 2014年2月27日、時事ドットコム「強姦事件の再審決定、無罪へ=診療録「被害ない」-大阪地裁」
- ↑ 2019年1月8日、「性的被害を受けたというウソの証言で約6年も身柄拘束 人が人を裁く刑事裁判の怖さ(前田恒彦) - エキスパート - Yahoo!ニュース」
- ↑ 2019年2月15日、「強姦冤罪事件を生み出した“プロ失格”の検察と裁判所が“14歳の少女”のウソを見抜けず | ビジネスジャーナル」