トリックスター (彫刻)
トリックスター(trickster)は、彫刻家の浅野暢晴による彫刻作品である。
特徴[編集]
陶で作られた彫像。多くの作品は三本足で、二本足と四本足の間の存在を表す。表面はゴツゴツしているものもあれば、なめらかなものもいる。体中にあるくぼみは目とも口ともされる。2017年の中之条ビエンナーレに出品した作品がSNSで話題となり注目される[1][2]。
作品名の由来[編集]
妖怪みたいな人間以外の異形の存在を表現する。作者が好きだというアボリジニの神話の中には道化(トリックスター)という存在が不可欠であり、それを自分に重ねるという意味も込めて三本足の異形の制作を始めたとされる[3]。もともとは一つの作品の題名であった(2007年頃の作品に名前が確認できるが、本項で示される容姿とは異なる部分が多い)。その後SNS等で話題となった際に、一連の作品群に対して「トリックスター」と呼ばれるようになり、そのまま定着していった。
作品[編集]
時期によって制作手法に変化がみられる。2018年頃までのものに見られる、ゴツゴツとしたバリのある作品は沢山の型枠から構成されていると思われる。2019年頃の作品は型を取ったものへ紋様の彫刻を施し、量産味がありつつも個性豊かである。2020年頭に発表された作品は型を取らずに一から作り込む手法を取ったことで一つ一つの違いが際立っている。
作品名は作者による命名が基本だが、形や大きさによって様々な呼び名がついている。
展覧会等で展示された大型作品[編集]
- トリックスター(2017年以降?)
- 大型のトリックスター。ベンチに座っている姿で展示され、ベンチに鑑賞者が掛けて写真を撮ったりした。中之条ビエンナーレやこだま芸術祭等の芸術祭や個展で展示される機会が多い作品。
「#作品名の由来」も参照
- 電柱人(2016年「百目」、2019年「間の祭り」)
- 電柱の如く背の高い作品。足は2本、手と思わしきものが2本伸びる。鑑賞者が握手している姿がよく見られた。
- 十八の異形(2019年「間の祭り」)
- 鉢のように仕立てられた18のトリックスターが輪になって展示された。
- 隙間女(2019年「中之条ビエンナーレ」、2020年「現れるところ 消えるところ」)
- 隙間を縫うように存在しそうな薄いトリックスター。ベンチに座っている姿で展示され、中之条ビエンナーレではベンチに鑑賞者が横に掛けて写真を撮る姿が見られた。
- 青空教室(2019年「中之条ビエンナーレ」)
- 鉢のように仕立て上げられたトリックスターが中之条の住人宅等に数ヶ月ホームステイし、ステイ先で色々な植物を育てて貰ったものが中之条ビエンナーレ会期中に集合して展示されるという共同制作。1席だけトリックスターは座っておらず、鑑賞者が座っている姿がよく見られた。少し離れた場所に居るトリックスターについても色々検証が進んだ。
- 現れるところ 消えるところ(2020年「現れるところ 消えるところ」)
- 天から地へ、または地から天へと変化しながら連なるトリックスター群。大部分を型取りではなく手捻りで制作している。
- IGYO(マルックスター・サンカックスター・シカックスター)
「#IGYO」も参照
- 神棚、のようなもの(2020年「現れるところ 消えるところ」)
- 小さなトリックスター達が神棚のような場所に居る作品。
- トリックスター兄弟・トリックスター親子
「#旅するトリックスター」も参照
- アマビエックスター(2020年 ビエントアーツギャラリー出展)
- 新型コロナウイルス感染症の流行で一躍話題となったアマビエをイメージしたトリックスターが作られた。ビエントアーツギャラリーにて展示のみ行っている。
小型作品[編集]
- フチックスター
- 親指ぐらいの大きさのトリックスター。フチに座る。
「#フチックスターの歴史」も参照
- 首飾りックスター - 貫通穴があり、紐を通して頒布
- カドックスター・タマックスター
- フチックスターより心持ち大きい。カドックスターは四角く角ばり、タマックスターは丸みのある形状。
- チビックスター
- 手のひらに乗るぐらいのサイズのトリックスター。このサイズ群をまとめて「チビックスター」と呼ぶ場合もある。
- ワビックスター - 正座している
- スワリックスター - 腰掛ける姿勢をしている
- ウォーキングトリックスター - 歩いている
- 喰いックスター - 大きく口を開けている
- 待ちックスター - 「待つ異形」として個展デビュー、チビックスターより小さい
- マスク ド トリックスター
- マスクを被るトリックスター。2020年夏にたくさんのバリエーションが生まれた。
- マスク ド チビックスター - フチックスターサイズのマスク ド トリックスター(2020年11月発表)
- 鉢ックスター
- 植木鉢になるトリックスター。底に水抜き穴が存在する。
- 一輪挿しックスター(2019)
- 上部に穴があいており、花瓶のような扱いが可能。専用のベンチ付属。
- 一輪挿しックスター(2020)
- 細長い立ち姿のトリックスター。
- ヘソックスター
- へそ(貫通穴)がみられる。「現れるところ 消えるところ」作品構成群のひとつ。
- ヒネリックスター
- 手捻りで制作されたトリックスター。
- サカサックスター
- コップ等のフチにぶら下がるトリックスター。
- ドッグスター
- 円筒のような姿に3本の足が生えているトリックスター。
- イレコックスター
- マトリョーシカ人形の如く入れ子になっているトリックスター。
- ロデオックスター
- ドッグスターにトリックスターが乗っているセット作品。
- トリックスター百鬼夜行
- 細長い形状のトリックスターが現れる。12体一組のセット作品とバラ売りの作品が発表された。(2020年11月)
数量限定作品[編集]
2020年より一部の小品において、シリアルナンバーを振った数量限定の作品が発表された。
- IGYOの欠片 - IGYOの駒と六角形の台座のセット。2020年の個展「現れるところ 消えるところ」にて3種4柄、12セットのみの頒布。それぞれに作家のサイン入りパッケージがついた。
- 18のいぎょう - ナンバリングされた数字の数だけ彫られているトリックスター。ビエントアーツギャラリーにて18点のみの頒布。それぞれにナンバリングと作家のサインが入ったパッケージがついた。
- 百八の異形 - ビエントアーツギャラリーにて108点のみの頒布。すべて手びねりのため、文様だけでなく姿形も個性が出ている。それぞれにナンバリングと作家のサインが入ったパッケージがついた。
マネックスター[編集]
2020年、国立新美術館にてアーティスト・ワークショップ「自分の分身!? 3本足の不思議な生き物マネックスターをつくろう!」[4] を開催。参加者は、講師の浅野暢晴より作品のコンセプトについて学び、実際に美術館内でトリックスターをモデルに撮影をしSNSに発信する体験を行った後、マネックスターの制作に取り組んだ。このワークショップで制作されたもののみ「マネックスター」を名乗ることができるとされる。
関連リンク[編集]
IGYO[編集]
2020年の個展「現れるところ 消えるところ」で発表された、ボードゲームのようなトリックスター群作品。トリックスターの駒が丸(マルックスター)・三角(サンカックスター)・四角(シカックスター)の三種あり、各チーム11ずつある。駒の紋様はチーム内ではバラバラだが、各チーム毎に共通な組み合わせとなっている。六角形のマス目で構成される盤上で対戦する。しかし形から入ったためゲームルールは無く、個展で開催されたワークショップで「MURE」というゲームルールが作られた。 作品は個展初日に売約がついたが、購入者の好意により、個展会期中に限り作品と触れ合うことが許可された。個展との関連イベントとして、一度限りの「IGYO杯」という、実際に作品を使ってMUREのゲームルールで対戦するイベントも実施された。
旅するトリックスター[編集]
トリックスターを一定期間、鑑賞者宅にホームステイさせ、ホームステイ先での生活をSNSに公開してもらうというプロジェクトを行っている。アート作品は美術館やギャラリー等の展示場に行って鑑賞するもの、という関係を覆し、アートが鑑賞者の元へやってくるスタイルでアートと触れ合う機会を生み出している。
2018年は「トリックスター兄弟」[5]が、2019年・2020年は「トリックスター親子」が日本国内各地(ときには海外)を旅している。 2020年11月、新しい「トリックスター親子」の制作が確認され、2021年からは新たな「トリックスター親子」による旅が始まっている。
関連リンク[編集]
- トリックスター兄弟(@trickster_bros) - X(旧:Twitter)
- トリックスターパパ(@trickster_papa) - X(旧:Twitter)
- トリックスター息子(@trickster_son) - X(旧:Twitter)
フチックスターの歴史[編集]
フチックスターの誕生から進化の過程。(作者のツイートより)
- 黎明期[6](2018年)
- 最初のフチックスターは本当にコップのフチに乗っていた。コップのフチに乗るように溝があったのは最初だけ。文様もシンプルなものが多い。
- 収デン期[7](2019年5月)
- 収デン(「収容違反 インシデント」というイベント[8])に参加するにあたって「頒布しやすいものを」と考えて制作。文様も増えて、バリエーションも増やした。立っているものも多いが、転倒しやすい面も。
- 文様期[9](2019年6月)
- ビエントアーツギャラリーの個展に向けて制作。「文様のバリエーションをどれだけ増やせるか」に挑んだかのように、とにかく同じものがほとんどない勢いで文様に拘って制作。磨きもかなり徹底してかけていて、完成度がグッと上がった。
- 玉角期[10](2019年11月)
- こだま芸術祭に向けて制作。文様への拘りから「形」への拘りへと移行し始める。カドックスターの爆誕で、グッとフチックスターの可能性が広がった感覚がある。文様のバリエーションもかなり豊富になり、目など具体的な部分にまで手を出す。
- 手捻り期[11](2020年1月)
- 形へのこだわりが更に進み、それまでの型による制作から、手捻りで一個一個かたちが異なるフチックスターに進化。形に拘ったので、少しそれまでより大きくなったものもあった。あえて文様は変えずに一種類に統一して制作している。
- コンセプト期[12](2020年6月~)
- バリエーション豊富な出来るところまで作る制作から、作る前にコンセプトと個数を決めて作り始める。十八のいぎょう、ウォーキングトリックスター、百八の異形。いずれも独立した作品として、考えている。
トリックスター公園[編集]
茨城県東茨城郡にある奥谷公園の一角に、作品が常設展示されている。これは作者の居住する茨城町からの要望に応え、作品を寄贈したことにより、地域の人々がいつでもアート作品と触れ合える機会の創造に貢献している。奥谷公園内には池と東屋がある程度で、大きな遊具は無いが、その分自然に親しみやすい環境にある。すぐ横に駐車スペースもあり、車でのアクセスもしやすい。
SCP財団[編集]
SNS上で話題となった際に怪異創作サイトのSCP財団とそのコンテンツが引き合いに出された[13][14]ことをきっかけに、SCPオブジェクトの報告書に活用できるよう2018年3月19日から CC BY-SA 3.0 に則り一部のトリックスターの画像が順次公開された[15][注 1]。公開されたトリックスターを元にして以下に示す複数のSCPオブジェクトが製作されている。
- SCP-1084-JP「傷に寄り添う」[16]
- SCP-1730-JP「このへんないきものは、」[17]
- SCP-1731-JP「空っぽの粘土像」[18]
- SCP-2173-JP「芽生え」[19]
- SCP-6173「芸術 - 原点」[20]
また、上記の収デン(収容違反インシデント)もSCP財団に関わるイベントである[8]。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ↑ 本記事冒頭の画像3枚がそれにあたる。
出典[編集]
- ↑ “ある神社にあった謎のオブジェが気になりまくる人達→作者降臨!そして謎が解ける!”. Togetter (2017年9月25日). 2019年11月19日確認。
- ↑ “クトゥルフ神社? ジブリ? 群馬の神社にあった謎のオブジェ話題に 製作者は思わぬ反響に「率直にうれしい」”. ねとらぼ (2017年9月26日). 2019年11月19日確認。
- ↑ 「まちで暮らす人 まちを想う人「彫刻と人との関わり」」、『季刊誌「Sun」』第6号、いば3ふるさとサポーターズクラブ。
- ↑ “アーティスト・ワークショップ「自分の分身!? 3本足の不思議な生き物マネックスターをつくろう!」”. 国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO (2020年2月23日). 2020年2月25日確認。
- ↑ “Trickster Bros.”. crevasse. 2019年11月20日確認。
- ↑ “【フチックスターの歴史】〜黎明期〜”. Twitter. 2020年6月7日確認。
- ↑ “【フチックスターの歴史】〜収デン期〜”. Twitter. 2020年6月7日確認。
- ↑ a b “「収容違反 インシデント」 - イベント公式サイト”. 「収容違反 インシデント」運営委員会. 2020年6月7日確認。
- ↑ “【フチックスターの歴史】〜文様期〜”. Twitter. 2020年6月7日確認。
- ↑ “【フチックスターの歴史】〜玉角期〜”. Twitter. 2020年6月7日確認。
- ↑ “【フチックスターの歴史】〜手捻り期〜”. Twitter. 2020年6月7日確認。
- ↑ “【フチックスターの歴史】〜コンセプト期〜”. Twitter. 2020年6月7日確認。
- ↑ @asanonobuharu (2018年3月11日). “SCP財団系の方に見られ始めている。。。”. 2020年12月19日確認。
- ↑ @asanonobuharu (2018年3月11日). “見てると思ってるSCP財団の皆さん、あなた達見られてますよ。。。”. 2020年12月19日確認。
- ↑ @asanonobuharu (2018年3月19日). “作者:浅野暢晴( asano nobuharu) 題名:トリックスター (trickster)「クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0ライセンス(CC BY-SA 3.0)」に則って作品画像を公開します。”. 2020年12月19日確認。
- ↑ “SCP-1084-JP / Discussion”. SCP財団. Wikidot. 2020年12月19日確認。
- ↑ “SCP-1730-JP”. SCP財団. Wikidot. 2020年12月19日確認。
- ↑ “SCP-1731-JP”. SCP財団. Wikidot. 2020年12月19日確認。
- ↑ “SCP-2173-JP”. SCP財団. Wikidot. 2020年12月19日確認。
- ↑ “SCP-6173 / Discussion”. SCP財団. Wikidot. 2021年7月6日確認。
外部リンク[編集]
- トリックスターと日常(@trickster_days) - X(旧:Twitter)