クイズ界における「肯定」
このページでは、クイズ界(特に競技クイズ界隈)における「肯定」という言葉の独特のニュアンスについて概説する。
概説[編集]
クイズには色々な楽しみ方がある。まったく知らなかった未知の知識に出会うのも楽しみの一つだし、必死になって猛勉強したことを答えられた快感を楽しむのもよい。また、これまでの生活でふと何気なく触れていた知識が出題され、正解につながったときの快さもひとしおである。クイズ界における「肯定」とは、最後のパターン、すなわち「今までの人生で自然に得てきた知識(≒愛着の深いテーマ)が正解につながったことの至高感」を指して用いられることが多い。
なお、類似する表現として「萌え問」がある。ここでいう「萌え」は、狭義のオタク文化のみを指しているわけではなく「自分の興味関心に刺さるコアなテーマを扱った問題」を意味する。
2022年[編集]
どれぐらい昔から使われている表現かは定かでなく、遡れば散発的な用例はいくらでもあることだろうが、大きく広まったのは間違いなく「2022年」のことである。
小説家の氏田雄介が、2022年1月9日に開催された「Megalomania Tokyo」というクイズ大会に参加し、Twitterで次のような感想をのべた。
今日初めてクイズ大会に出たけど、ポケモンで覚えた言葉とか、タクシーで散々耳にした企業名とか、教科書の隅に書いてあった雑学とか、好きな現代アートとか、今まで見てきたものや勉強してきたことが報われたというか、自分の人生を肯定してもらえた気がして、本当に楽しかった。
クイズ界に浸かっていない小説家のこの素朴な感想は、たちまちクイズ界のプレイヤーたちの心をつかみ、一時期は「肯定」が界隈流行語となった。
- 補足解説すると、「Megalomania Tokyo」はいわゆるベタ問・指問[1]ばかり出題される大会ではなく、幅広いテーマを問う傾向の大会である。また、「一度負けたら即敗退」ではなく「参加者のレベルに応じて組が再編成されるダブルエリミネーション方式(2回敗れたら敗退)」を採用している。そのため、「上級者が初心者を一方的にボコって終わり」という展開にはならず、「自分のレベルに応じた試合をある程度長めに楽しめる」大会設計となっている。初心者の氏田が初めて参加したクイズ大会が「Megalomania Tokyo」であったのは幸福な出来事といえるだろう。初心者であっても「人生を肯定してもらいやすい」大会だったわけである。
当初は上記のとおり素朴な意味で使われていた「肯定」であるが、一部のクイズプレイヤーが「人生の肯定があるなら、人生の否定もある」的なことを述べ[2]、次第に意味がねじれて奇妙なニュアンスを帯びた言葉になってしまった。「クイズ界」で激しい「クイズ論」が展開されがちなのは、いつも通りの通常営業である(汗)
2024年[編集]
芸人・YouTuberのぐんぴぃが『全問ネットミームクイズ【これがバキ童QuizKnockや!】』という動画を公開した。参加する芸人たちは(一人を除いて)ネットミームには詳しいがクイズ界にはまったく接点がない、という顔ぶれである。一方、出題者をつとめたゲストのぶくれしゅちさんは(芸人ではなく)長年ネットミームクイズなどを嗜み、クイズ界にどっぷり浸かってきたその道の人物である。
企画終了後のアフタートークで、次のようなくだりがあった。
大久保八億 「ボールペンさん ずっと読んでた漫画のキャラクターがストンって 「分かった!」って稲妻走るような気持ちで」
山田ボールペン「来ましたね!」
大久保八億 「これ人生が肯定されるってことなんですよ 『スラムドッグ$ミリオネア』見たでしょ クイズやってると何か 本当に数年前に親父と一緒に車乗ってる時にふと何か言った一言とかで、正解もぎ取れる瞬間があるんですよ。それが気持ちよくてやってるとこがあるから」
ぐんぴぃ 「俺『君のクイズ』で読みました、それ」
大久保八億 「え? 俺の言ってる言葉をすでに小説にしている人がいる?」
大久保八億は(回答側の芸人では唯一)クイズ界と深い関わりをもっている人物であり、日頃から「肯定」という言葉遣いに慣れ親しんでいるのかもしれない。
このセリフは、得点最多の大久保八億が得点最小の山田ボールペンに対して掛けた言葉であり、「得点の多寡だけ見れば最下位だけどそんなことは重要ではなく、一問でも自分の好きな問題を答えられたことに価値がある」という含みがある。「肯定」というワードを使う絶好のシチュエーションであったといえよう。
なお、出題役のぶくれしゅちさんも𝕏でこうポストしている。
バキ童チャンネルのネットミーム企画にお力添えさせていただきました!(どうして……?)
これが本物の人生肯定クイズです。 — 該当ポスト
- 補足解説すると、『スラムドッグ$ミリオネア』は2008年のイギリス映画で、スラム街出身の青年が人気クイズ番組で正解を連発して不正を疑われるも、じつは過酷な人生のなかで見聞きして印象に残っていた知識が運よく出題されただけであり不正はなかったというストーリー。まさに過去の人生すべてを「肯定」するような映画である。『君のクイズ』は2022年に発表された小川哲の小説で、現代日本のクイズ番組・クイズ界がテーマになっている。『スラムドッグ$ミリオネア』同様、主人公が過去の人生経験に基づいて正解を出すシーンが何度もある。