だいしゅきホールド
だいしゅきホールドとは、ヒト間の性交体位の一種であり、電子掲示板2ちゃんねるにおける2009年の書き込みが発祥とされる日本語におけるインターネットスラングである。原則的に正常位からの変形であり、女性の左右の下肢で男性の体幹を挟みこむ体位として描写される。要するに、男性の上肢に女性が抱きつくような体位である。もっぱら女性が主体となる行動とされ、意中の男性の子を妊娠すべく意図的に行われるほか、フィクションにおいては生殖器の交接による快感を持続させるべく無意識的にそのような体位になるシチュエーションも多くみられる。
概念[編集]
男性の性的好奇心をより刺激させるための表現技巧の一つとみなされる。フィクションにおいてもよく描写される。女性が性欲を隠すことなく快楽を求める描写を性的に嗜好する男性に向けた「シチュエーション萌え」の類型である[1]。類似したシチュエーション萌えには他に「アヘ顔ダブルピース」や「闇落ち」などが挙げられる[2]。
用例[編集]
初出は、2ちゃんねるVIP板の「挿入中に足をガシっとしてる二次画像ください」(http://unkar.org/r/news4vip/1254528665)における以下の書き込みであるとされる。
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/03(土) 13:53:08.71 ID:Z+XwIgaj0 どうでもいいがオレはこのことを「だいしゅきホールド」って名前つけて呼んでる
「だいしゅき」は、「大好き」という女性の男性に対する深い愛情を象徴する造語成分である。「す」の音が「しゅ」に変化しているのは、典型的な「サ行構音障害」の一種であり[3]、転じて舌足らずで未成熟、そしてどこか憎めない女性像を連想させる役割語として機能している[4]。声優のなかせひなによると、このような音の変化は業界において「媚薬系音声」と呼ばれているという[5]。なお軸語である「ホールド」は、レスリングなどの格闘技における「固め技」からの類推と考えられる。
愛くるしいその名称からインターネット上で広く知られるようになり、2015年には『週刊プレイボーイ』に「エロ流行語大賞」として「くぱぁ」に次いで2番目に掲載されている[6]。
対照的なインターネットスラングとして、抵抗する女性を暴力的に膣内射精する「種付けプレス」がある[7]。
体位の実際[編集]
本来「だいしゅきホールド」の名称は、フィクションにおける描写を表現する用語であったが、その他の「シチュエーション萌え」に関する用語に比べ、現実化することが容易であり、実際はこの用語が生まれるはるか以前から実践されてきたものと考えられる。
実際の体位としては、臥床し開脚した女性に対面した男性が閉脚した状態で生殖器を挿入させたポジショニングを前提とする。充分な前戯の後、女性は左右の股関節を外転・外旋させた砕石位(lithotomy phase)の状態で、興奮相(arousal phase)の男性を迎える。その後、オーガズムを得るべく男性主体で性交運動が行われる。性交運動には陰茎長軸方向のピストン運動のほか、性感刺激(erotic stimuli)を高めるための斜行運動や回転運動、あるいは恥骨どうしの圧迫がみられる。ここまでは、いわゆる正常位と共通である。
性交運動の刺激が閾値に達した男性はオーガズムを得た直後に射精における不応期(refractory period)となる。膣外射精をおこなう際は、不応期の直前で男性は性交運動を中断し、陰茎を膣から抜去する。膣内・膣外を問わず、射精に至れば男性は性交運動を終了し、後戯へと移行する[8]。この不応期の直前に女性は股関節と膝関節を内転させ、下肢全体で男性の体幹を挟み込み確実に膣内射精を促すのが、だいしゅきホールドの一連の過程である。
だいしゅきホールドの本質は女性の下肢で男性を拘束することにあるため、対面さえしていればさらに変形させることも可能である。フィクションにおいては女性上位の対面座位や、男性が女性を持ち上げる立位(いわゆる「駅弁」)でもだいしゅきホールドは可能であるとされる[9]。
以上のようにだいしゅきホールドが実施されるためには、正常位やその他体位で能動的に性行為を完遂できる男女の身体機能が前提となる。形態学的・機能的に障害を有する男女が性行為をもつ場合、受動的にこの体位をとることが可能かどうかは現在のところ知られていないが、仮にこれを試みる場合は第三者の介助が必要になると考えられる[10]。
類似する体位[編集]
春画をはじめとした日本の性文化において伝統的に各種性交体位は「四十八手」と称す分類として伝えられる。「四十八手」(表裏合わせて全96体位)の中で、16体位が正常位に分類されるが、このうち「揚羽本手」、「筏本手」、「せきれい本手」の3種は女性が下肢を男性の腰に絡ませる体位であり、だいしゅきホールドに類似する体位といえる[11]。
古代インドの性愛論書である「カーマ・スートラ」(Kama Sutra)にも様々な体位が解説されているが、このなかの「巻き付き位」(twining position)と呼ばれる体位は、女性がリードして男性を下肢で拘束するという点で、だいしゅきホールドに非常に近い概念といえる[12]。
「懐妊法」として[編集]
女性が意中の男性と性行為に及ぶ際、一夜限りの関係にならぬよう偶然を装って意図的に避妊を失敗させるエピソードが都市伝説的に語られることがある。例えば男性に内緒で事前に使用するコンドームに針で穴をあけるという手段は有名である[13]。同様にだいしゅきホールドも一種の「懐妊法」の手段として実践する女性の存在が2013年の『週刊ポスト』で報じられたことがある[14]。
避妊具の非着用が前提となるこの都市伝説だが、密かに針で穴をあける方法と異なり、明らかに男性が避妊に失敗したと認識できるため、中容量ピルを用いた緊急避妊法で対応可能であり、確信犯的に「懐妊させる手段」としてどこまで有効かは疑問が残る[15]。
そもそも膣外射精は避妊法として有効ではなく、だいしゅきホールドという行為の有無にかかわらず女性が妊娠に至る可能性は十分にあることを両性とも十分に認識する必要がある[16]。
脚注[編集]
- ↑ 「シチュエーション萌え」同人用語の基礎知識、2002年12月26日配信、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 「萌え仕草・シチュエーションの一覧」ニコニコ大百科、2015年9月20日20:54更新、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 「サ行音に見られる誤りの例」、ネットで学ぶ発音教室 - 国立特別支援教育総合研究所。2016年2月21日閲覧。
- ↑ 関連文献:『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』、岩波書店、2003年1月。
- ↑ 「美少女ゲーム人気声優」、ダラケ! 〜お金を払ってでも見たいクイズ〜、シーズン6#1。2016年1月28日。放送開始27分14秒頃。
- ↑ 『週刊プレイボーイ 第50巻第45号』、集英社、2015年12月14日、 136-139頁。
- ↑ 「種付けプレス」、ピクシブ百科辞典、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 以上、『標準生理学 第8版』、医学書院、2014年3月。を参照した。
- ↑ 「だいしゅきホールド」、ニコニコ大百科、2014年11月4日22:34更新、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 障害者同士の性行為を第三者が介助するケースは実際に存在する。「SV(セックスボランティア)」、探偵ファイル、2004年9月15日更新、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 「正常位」、いまさら他人に聞けないアダルト用語集、2016年2月21日閲覧。
- ↑ “Kamasutra Sex Positions”(英語)、spaceandmotion.com、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 「【妊娠狙い女子】妊娠への8つの手口」、日刊SPA!、2012年4月1日、2016年2月21日
- ↑ 『週刊ポスト 第45巻第42号(通巻2252号)』、小学館、2013年11月1日、169頁。
- ↑ 「あなたに知っていて欲しい緊急避妊のこと」、一般社団法人日本家族計画協会、2015年3月公開、2016年2月21日閲覧。
- ↑ 「各避妊方法のメリットとデメリット」、AllAbout健康・医療、2014年10月23日更新、2016年2月21日閲覧。