骸骨の黒穂

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骸骨の黒穂』(がいこつのくろんぼ)とは、夢野久作の短編小説。『オール読物』1934年12月号に発表された。

あらすじ[編集]

Achtung.png 以下にはネタバレが含まれています。


明治半ばに筑前直方で起きた殺人事件を描いている。町外れの居酒屋で主人をしている藤六は、背中に刺青があり暗い過去を背負っているらしい男だが、現在は店先に集まる乞食を追い払わずに施しを行う優しい人物である。明治19年の暮れ、彼が食べ物をまきちらして死んでいるのが発見され、何らかの中毒死であるとして処理された。その時不可解だったのは、仏壇に頭蓋骨がまつられ、黒麦の穂の供え物がしてあったことである。たぶん無縁仏の供養をしていたのだろう、という解釈で一時は終わった。変死騒動のさなか、藤六の甥を名乗る銀二という人間が現れる。周囲の人は、彼の話のつじつまがとてもよく合っているため、すっかり甥だと思い込む。結果的に彼は居酒屋を継いでしまうが、その正体は「丹波小僧」の異名でしられる小悪党であった。やがて3月3日の桃の節句を迎え、藤六の落とし子であるお花という若い女がやってくる。藤六を猫イラズで殺害し店を継いだ銀二に復讐するためにやってきたが、腕力で負け、彼に手篭めにされたうえ、盗人として警察署に連行された。署内で、一時の隙をついたお花は、またたく間に銀二を刺殺し、自らの首をも刺して自害を遂げた。こうして事件は一旦落着する。後日談として、警察署長と巡査部長の話し合うシーンがあり、ここで謎の頭蓋骨の理由がわかる。藤六は元は山窩の親分であり、施しをしていた乞食たちは彼の子分格の人たちであった。ユダヤ教には、頭蓋骨に黒穂をまつっておけば、どんな前科も露見することがない、というまじないがあり、これが九州の山窩に伝わっていたという。藤六は自分の過去がバレることを恐れて、頭蓋骨をまつっていたのであった。更に明らかになったのは、お花のみならず、銀次も藤六の落とし子であるという事実であった。つまりお花と銀二は異腹兄妹だったことになる。ここにも夢野久作らしい近親相姦のテーマが現れている。

差別騒動[編集]

部落民は怪教徒で野獣的な
惨忍なる復讐的な悪魔だとして
最も劣悪なるものと規定
大胆極まる差別魔夢野久[1]を叩き伏せろ!

水平社の『水平新聞』1935年1月5日号にて、本作が、被差別部落への差別を助長するものとして、糾弾の的となっている。ラストシーンで、警察署長が、山窩にたいする差別的発言・露骨な悪口を言っていることが原因である。事実と相違する発言も見られ、批判がやむを得ない面もたしかにある。しかし、ラストシーンでの発言を除けば、作品全体での山窩たちの描き方には偏見はなく、むしろ愛が感じられる。多田茂治は、「差別に無批判な皇民教育の一翼を担う小学校長[2]や、国家権力の末端につながる警察署長の、下層民にたいする露骨な差別意識をあばきたててみせた。と読むことも出来ましょう。」、と批評している[3]。実際、夢野は、権力対抗的な図式の作品を多く残している。たとえば『少女地獄』の「火星の女」では、聖職者たる女学校校長の裏の顔を描き、明確に悪役として位置づけている。

脚注[編集]

  1. 原文ママ。夢野久作のことをよく知らない人が「夢野久作」を「夢野久・作」の意と勘違いしたための表記と思われる。
  2. ラストシーンの署長の話は、物知りの小学校校長から聞いた話を語っているという設定になっている。
  3. 多田茂治『夢野久作読本』ISBN 4-902116-13-8 p.193。

関連項目[編集]