血染めのエッグ・コージイ事件

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血染めのエッグ・コージイ事件』は、1975年にイギリスの作家ジェームズ・アンダーソンが発表した推理小説。『血のついたエッグ・コージィ』という邦題でも出版されている。

続編に『切り裂かれたミンクコート事件』がある。

概要[編集]

1930年代の英国。バーフォード伯爵家の荘園屋敷に、テキサスの大富豪、大公国の特使、英海軍少佐など豪華な顔ぶれが集まる。やがて嵐の夜に勃発する、宝石盗難事件と、謎の連続殺人。犯人は15人の中にいるはずだが、手がかりは庭に残された、血のついた茹で卵覆い(エッグ・コージイ)だけ…。復古的な舞台立てと、ロジカルな推理、けれん味あふれるトリック、そして意外な結末。70年代に黄金期本格の味わいを復活させた作品として名高い、伝説のパズラーが待望の復刊。

— 扶桑社版 背表紙のあらすじ

70年代に書かれた作品でありながら、戦前のミステリ黄金時代を彷彿とさせる復古的な作品である。

1930年代のイギリスの荘園屋敷を舞台に、宝石の盗難事件と連続殺人事件が発生。国際スパイ、宝石を狙う怪盗、生き別れた恋人との再開、隠し部屋、動き回る複数の兇器......と「ミステリオタク君ってこういうのが好きなんでしょ?」と言わんばかりのガジェットてんこ盛り作品である。まるで『Among us』のように、深夜の暗い館のなかを僅かな時間差でたくさんの人が動き回り、その複雑な動向が焦点となる。解決編は100ページ以上にも及んでおり、ラストで二転三転する謎解きを味わいたい人にはオススメ。アガサ・クリスティーのごとき人物設定[1]と、エラリー・クイーンのごときパズラーを合体させた作風と評する向きもある。「けれん味あふれるトリック」に関してはジョン・ディクスン・カー的でもある。

日本では1988年に文春文庫から『血のついたエッグ・コージィ』という邦題で紹介されたが、当時は本格ミステリが冷遇された時代であり[2]、反応は芳しくなかった。2006年に扶桑社から『血染めのエッグ・コージイ事件』と改題の上、再出版された。

扶桑社版では、巻末にミステリ評論家・小山正の解説が載っており、本作を「カントリーハウス・マーダー・ミステリー」の良作として称賛されている。氏の解説によればカントリーハウスとはただの田舎の家ではなく「森あり湖ありの広大な敷地を有する壮麗かつ豪華、少なくとも二十以上の部屋を持つ貴族の大邸宅」「十九世紀からは貴族たちの一大社交場として華麗なハウスパーティの舞台となった」場所を指す言葉だそう。19世紀前半には『高慢と偏見』や『ジェーン・エア』など、ミステリというより名作文学の舞台として描かれた。20世紀に入ると貴族の没落により華々しさを失うが、過去の時代を懐かしむかのように、アガサ・クリスティ『スタイルズ荘の殺人』、ドロシー・L・セイヤーズ『雲なす証言』、カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』といった、カントリーハウスを舞台とするミステリが描かれるようになる。

70年代に書かれた本作は、そうしたミステリ黄金時代を強く意識したものである。したがって、現代の読者は「二重の(三重の?)ノスタルジックな想い」を追体験することになるだろう。[3]

推理作家・阿津川辰海は、高校生の時に一番好きだった現代英国ミステリとして本作の名を挙げている。[4]

余談だが、国内作家の某作品(2000年代)には類似のトリックが登場する。その作品とは(ネタバレ伏せ字)加賀美雅之『双月城の惨劇』(ここまで)。同じトリックでもその「活かし方」を見れば、本作の方が一枚上手といえる。

補足[編集]

  1. 特に『チムニーズ館の秘密』あたりと似た雰囲気である。
  2. 前年の1987年に、ようやく綾辻行人の『十角館の殺人』が発表されたような時代である。
  3. 現代 → 1970年代 → ミステリ黄金時代 → 貴族が没落する以前の19世紀、という懐古趣味の連鎖。
  4. 第228回:阿津川辰海さんその5「現代英国ミステリが好き」 - 作家の読書道 | WEB本の雑誌

外部リンク[編集]