水素ガス吸入器
水素ガス吸入器(英 Hydrogen gas inhaler)とは、ヒトまたは動物が水素を吸入することを目的とした水素ガスを発生させる機器のことをいう。
流通[編集]
日本国内では個人向けから業務用まで3万円から100万円程度の水素ガス吸入器が販売されている。
医療機器として認可されていないため、慶應義塾大学医学部の先進医療における臨床試験では水素ボンベを用いた研究によって水素ガス吸入器の医療機器として認可する試みがなされている[1][2]。
クリニックや医院で自由診療として水素吸入療法に水素ガス吸入器が導入されている[3][4]。
近年、健康目的で水素サロンや自宅などで水素を吸入することが流行している。
水素ガス吸入器の構成[編集]
水の電気分解によって水素を発生させる吸入器には水を電気分解するための電解槽を備えており、水素ガスの濃度をコントロールするために空気などの希釈ガスを導入するポンプを搭載しているものもある[5]。
大きさは卓上型のものから、片手で持てるハンディタイプのものまで販売されている。発生する水素ガスの濃度は10以下、66%、99%以上とさまざまである。
電解槽で発生させた水素はマスクや鼻カニューラによって吸入される。吸入時にはマスク、鼻カニューラの周辺の空気と一緒に吸入することになるので実際に吸入する水素濃度は水素ガス吸入器が発生している水素濃度よりも低くなる。
大量の水素を摂取したい場合には、高濃度の水素は爆発の危険性があるので、爆発の危険性がない低濃度水素ガスであって、単位あたりに発生する水素量が多い機種を用いることでより多くの水素を摂取できる。
水素の発生方法[6][編集]
水の電気分解[編集]
水素を水の電気分解によって発生させる方法である。水の電気分解では水素の他に酸素も発生する。純水は電気伝導度が低いため電気分解がしにくいので電解質を溶解させている電解液を用いている水素ガス吸入器もある。水の構造式はH2Oなので、水を電気分解すると水素と酸素が2:1の割合で発生する。
化学反応[編集]
アルミニウム、水酸化カルシウム、マグネシウムなどと水との反応で水素を発生させる方法がある。
水素吸入の効果[編集]
水素は生体内では不活性なものと考えられてきたが、活性酸素のうちで酸化力の強いヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトを選択的に消去して酸化ストレスから細胞や組織を防御することが明らかとなっている[7]。
したがって、癌などの酸化ストレスに起因する広範な疾病の予防と改善効果が期待されており[8]、2019年12月現在において全世界で600報に及ぶ疾病に対する学術論文が報告されている[9]。
水素の生体に対する安全性[編集]
ボストン小児病院、ハーバード大学医学部の研究の報告によれば、水素ガスの吸入による細胞障害、組織障害のような有害事象は確認されておらず[10]名古屋大学医学部産婦人科、香川大学 医学部 産婦人科の研究においても、水素の摂取による毒性や催奇性はないことが報告されている[11][12]。
水素ガス吸入器の安全性[編集]
水素の爆発に関する事故[編集]
水素は爆発性を有する気体であり、爆発濃度においては静電気のような微弱なエネルギーで爆発する危険性がある[13]。
従来、水素ガスの爆発濃度は4%-75%であるとされてきたが[14]、2019年の水素ガスの安全性に関する論文によれば10%以下であれば爆発することがないことが明らかとなっている[15]。
したがって、同論文では、水素ガス吸入療法においては、爆発限界濃度以下(10%以下)の水素ガスを発生させる水素ガス吸入器を用いることが重要であると報告している[16]。
実際に水素吸入器の水素爆発による被害として、水素ガス吸入器の破裂による怪我や家屋の損傷、水素の爆鳴による聴覚の低下等の重大事故が消費者庁の事故情報データシステムで複数報告さている[17]。
可燃性を有する高濃度酸素を発生させる酸素濃縮器では「付近に可燃物を置いたり、火気のそばで使うことは危険であり厳禁」とされ複数の火災事故が起きているが、爆発性を有する濃度水素ガスを発生する水素ガス吸入器を使用するにも火気への注意は必要である。
水素以外に発生する有毒ガス[編集]
純水を電気分解をすれば、原則として水素と酸素以外の気体は発生しない。
しかし、精製水(純水)などの純度の高い水は電気伝導度が低く電気がほとんど通らないため[18]、多くの水の電気分解法を採用している水素ガス吸入器では、電解質を純粋に添加した電解液を用いている。
- 塩素系ガス:水の電気分解で用いている電解質としてはクエン酸等があるが、食塩(塩化ナトリウム)などの塩化物を誤って電解水に溶かすと有害な塩素ガスが発生する危険性がある[18]。したがって、精製水を電気分解するような水素ガス吸入器であれば塩素ガスのような毒性を吸入することを防止できる。
水素ガス吸入器の代表的な製品[編集]
製品名 (水素濃度) メーカー(所在地)
Jobs-α(5-6%) MiZ株式会社(神奈川) ハイセルベータ(66%) ヘリックスジャパン(東京) ハイドロパワー(66%) ブレイン北海道(北海道) ハイドロジェン・ジェネレーター(66%)オプス(東京) ラブリエリュクス(98%) イズミズ(大阪) 水素吸入装置 卓上型(99%)健康支援センター(愛知)
脚注[編集]
- ↑ “水素ガス吸入療法 | 先進医療の開発 | 慶應義塾大学病院”. www.hosp.keio.ac.jp. 2020年3月6日確認。
- ↑ “羽鳥慎一モーニングショーそもそも総研「水素って本当にからだにいいの?」” (日本語). Togetter. 2020年3月6日確認。
- ↑ “一般社団法人 臨床水素治療研究会” (日本語). 一般社団法人 臨床水素治療研究会. 2020年3月6日確認。
- ↑ “一般社団法人分子状水素臨床工学研究会”. cesmh.org. 2020年3月6日確認。
- ↑ Kurokawa. “Preventing explosions of hydrogen gas inhalers”. www.medgasres.com. 2020年3月6日確認。
- ↑ Kurokawa, Ryosuke; Seo, Tomoki; Sato, Bunpei; Hirano, Shin-ichi; Sato, Fumitake (2015-10-26). “Convenient methods for ingestion of molecular hydrogen: drinking, injection, and inhalation”. Medical Gas Research 5 (1): 13. . . . .
- ↑ Yanagihara, Tomoyuki; Arai, Kazuyoshi; Miyamae, Kazuhiro; Sato, Bunpei; Shudo, Tatsuya; Yamada, Masaharu; Aoyama, Masahide (2005-10). “Electrolyzed hydrogen-saturated water for drinking use elicits an antioxidative effect: a feeding test with rats”. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 69 (10): 1985–1987. . . .
- ↑ Dole, M.; Wilson, F. R.; Fife, W. P. (1975-10-10). “Hyperbaric hydrogen therapy: a possible treatment for cancer”. Science (New York, N.Y.) 190 (4210): 152–154. . . .
- ↑ “「水素分子の各種疾患又は疾患モデルに対する 効果を報告した文献一覧」”. 2020年2月25日確認。
- ↑ Cole. “Safety of inhaled hydrogen gas in healthy mice”. www.medgasres.com. 2020年2月25日確認。
- ↑ “「早産における分子状水素の予防効果と母獣長期投与の胎仔への影響」名古屋大学産婦人科”. 2020年2月25日確認。
- ↑ “「新生児低酸素性虚血性脳症に対する低体温と水素吸入ガス併用療法の効果に関する研究」香川大学医学部”. 2020年2月25日確認。
- ↑ “水素” (日本語). Wikipedia. (2020-02-18).
- ↑ “井上雅弘「水素の安全利用」『電気設備学会誌』第36巻第4号、電気設備学会、2016年、 263-266頁”. 2020年2月25日確認。
- ↑ Kurokawa. “Preventing explosions of hydrogen gas inhalers”. www.medgasres.com. 2020年2月25日確認。
- ↑ “世界唯一の爆発しない水素ガス吸入機の開発”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2020年2月25日確認。
- ↑ “事故情報データバンクシステム”. www.jikojoho.go.jp. 2020年2月25日確認。
- ↑ a b “電解法” (日本語). Wikipedia. (2020-01-21).
- ↑ “オゾン” (日本語). Wikipedia. (2020-01-16).